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読んでくれたらちょっと嬉しい

小説家になりやがれ

作者: 阿部千代

 めげたり、しょげたり、開き直ったり。

 何度こんなことを繰り返したかわからない。そしてこれから何度も同じことを繰り返すのだろう。だが、おれは仕上がった。仕上がってしまった。成っちまったんだよ、おい。バイオリズムの急激なアップダウンに耐えうる精神性。ついにおれはそいつを手に入れたというわけだ。


 で、だ。おれはこれから毎日文章を書こうと思う。これは本気の話だ。だからおれはいまこの文章を書いている。ちょっと本当に文章が上手になりたくなった。だってそうでしょう? 41年間のたくっておきながら文章が下手くそなやつってどうよ? 愉快な文章、楽しい文章、凄みのある文章、それくらい書けないと、長く生きている意味ってないじゃないですか。

 おれだって本当は、週に三回くらいド派手なギャルといちゃついていたいし、週に二回くらい落ち着いた雰囲気の妙齢の女性と映画館や美術館に出掛けたいし、残りの週二回で気の置けない仲間たちと朝まで馬鹿騒ぎをしたいですよ。そんな生活だったら文章なんて書かずに生きていけますよ。そのまま一生を終えたっていいですよ。でも、もう無理なんですよ。色々と無理なんですよ。なんとなればド派手なギャルや落ち着いた雰囲気の妙齢の女性は、元々おれとは相性が悪いし、気の置けない仲間たちなんて存在しませんからね。

 おれの安っぽい夢なんて、はなっから叶うわけがなかったんですよ。おれはそれに気づいちまったんだよ。悟っちまったんだよ。残酷な現実のことどもがよ、牙を剥いてよ、一斉によ、おれに襲いかかってきたんだよ。こりゃたまらんよ。

 死ぬかと思ったよ。死のうかとも思ったよ。はっきり言うと、ふて腐れたね、おれは。拗ねて、ひねて、ねじくれて、ベランダに出てうんこ座りでタバコを吸いまくったよ。マンションの掲示板に「ベランダでの喫煙について」って掲示物が貼られるくらいタバコを吸いまくったよ。ついにおれも再起不能かと誰もが思ったよ。


 冒頭で書いた通り、ここからおれは無敵の精神性を手に入れてしまうわけだが、なぜそうなったのかはおれにもわからない。不思議なこともあるもんだ。おれはいま元気いっぱいだし、タバコだってキッチンの換気扇の下で吸っている。

 そうすると、内から湧き出てきたんだよ。文章が上手に書けるようになりたい、そんな感情が。ズッコケ三人組に夢中になったあの頃のような……忌野清志郎の極彩色の歌声を初めて耳にしたあの頃のような……西田ひかるのことを一日中考えていたあの頃のような……そんなプリミティヴな感情が。これが出てきたヤツは強いぜ? 最強とも言える。誰でもいいからかかってこんかい、と言ってもいいだろう。

 予言しておくが、ここからのおれはすごいことになってゆく。ずいぶんふわっとした予言だなと思うやつもいるかもしれないが、おれは超能力者じゃない。おれが本気でそう思い込む。そこにとてつもない価値があるんだ。唯一、心配していることは、これが一時的な躁状態ではありませんようにってことだけだ。まあそうだったらそうで、その時はその時ってだけのことだから、なにも問題はありゃしないが。


 さて。ここからが本題だ。真面目な話をする。心して読んでくれ。

 このサイトに登録をして、だいぶ経った。色々とあったりなかったりしたが、概ね楽しい投稿活動だったと言える。だがなにかが。なにかがおかしい。なにかが絶対的に圧倒的に恒常的に不足している。そのなにかとは、なにか?

 ポイントである。おれの発表した文章には、冗談抜きでポイントがつかない。一体なぜなんでしょう? お月様にそう問いたくなるほどだ。

 おれは長いことポイントには興味を持ってこなかった。ポイントが増えたからと言って一銭の得にもならんし、腹が膨れるわけでもない。ド派手なギャルが好意的に接してくれるわけでもなければ、あのむかつくクソ市長の頭に雷が直撃するわけでもない。どの道、おれの金の減りは加速し続けているし、ド派手なギャルはおれに興味をもってくれないし、件の醜悪な市長は増長してゆく一方だ。

 ポイントの増減による実質的な影響力は、良くも悪くも、無、だと言うことは火を見るよりも明らかだ。頭の良いおれは、そんなもん瞬時に見破ってしまうのである。ポイント? ふん、くだらんな。吐き捨てるようにそう言って、一瞥もせずに一蹴したのである。

 だが……最近、どこか腑に落ちない。なんだか収まりが悪い。はっきり言って、しゃくに障るわけだ。もっと言うか? おれの書いた文章がいくらなんでもそこまで出来悪いわけねえだろ、ボケナスども!

 と言うわけで、おれはポイントへのスタンスを変えることにした。180度の大転回だ。つまりおれは貪欲にポイントを求めることにしたのだ。食えるものはなんでも喰ってやる、例えそれが、味もなく栄養もなく消化にも悪い、そういう代物であったとしても。そう決意したのだ。

 いいか。おまえのポイントをおれによこせ。おまえだ。おまえのことだぞ。そうだ。おまえだ。ポイントだ。そうだ。いいからよこせ。黙ってるとおまえは指一本動かそうとせんからな。こうして力業に頼ることにした次第だ。いいからよこせ、この野郎。

 ありったけの、とは言わん。そのあたりはおまえに任す。もしおまえが、阿部ちゃんの書く文章っておもしろいなあ素敵だなあ、そう思ったのならば、その思いの分だけポイントを入れればよろしい。もしおまえが、この阿部ってやつなんか偉そうでむかつく、そんな風に思ってしまう異常にケツの穴の小さい卑小な存在だとしたら、くたばっちまえと念を込めながら最低ポイントを入れればいいじゃないか。

 わかったか? ここまでやればいくらなんでもわかったな? ポイントをおよこしなさい。おれはそう言っているのだ。ケチくせえことするなよ、減るもんじゃなし。そうおっしゃっている。


 つまりはそういうことだ。まあこれからおれはめきめきと文章が上手くなって、書くものも目が覚めるほど面白くなってゆく予定なので、今のうちにおれをチェックしておくのは悪くない判断だと言っておく。この文章を投稿したら、さっそく短編小説にとりかかるつもりだ。タイトルだけは決まっている。「幽霊とロックンロール」。今日、夕飯の買い物に行く道すがらに思いついた。

 内容については一切決まっていない。幽霊、ロックンロールに関係のある小説になるかどうかもわからない。おそらくならないだろう。できることなら、深読みしようとすればなんとなく幽霊とロックンロールがふわっと浮き上がってくるような小説にしたいが、そんな器用なことが現状のおれにできると思うか? まあいい。書き出しさえ決まっちまえばなんとかなるだろう。愉快で楽しい小説にしたい。

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