……これは「買い」だ!
作者の作品の固定レギュラーが出ます。
「それは……、正直に言って悩んでいる。」
「父上、何に対してでしょうか?」
「アーロンは次期後継者としての未来がある。サイラスも将来は近衛騎士団の入団が内定している。」
「素晴らしい事だと思います。」
「しかし、ディーンは確かに素晴らしい才能に恵まれているが、それを生かす先が無い。勿論、文官の道に進めば最終的には宰相の地位に就くだろうが、政治的な意味ではあまり良くない。」
まあ最悪、冒険者という「道」もあるけどな。
「だから、周りの敵にしたくない連中の配慮として、ディーンには、敢えて選択の自由を与える事にした。」
……まあ、ゲーム内の俺は、リーガル家の暗部の首領ルートもあるがな。
序でに言えば、ゲームでは、どのルートも俺が嫌がって専属侍女候補は居なかった、という設定だ。
多分、ゲーム内の俺は、誰も信じていなかったのだろう。
「分かりました、父上。僕、頑張ってみます。」
「ああ。ディーンなら出来ると信じている。」
「ありがとうございます、父上。」
「明日、護衛を1人付けるからシルヴィアと一緒に王都に行って来なさい。」
「はい、父上。」
翌日、準備を済ましてシルヴィアと一緒に玄関に向かうと、そこには、特徴は外見がオッサン、以上。
そんな冒険者風な男性が立っていた。
……マジかよ。
現段階のリーガル家の暗部の首領デラスかよ。
ゲーム内の俺が暗部の首領になると、このデラスが首領補佐に就く。
……しかしまあ、ゲーム内の裏側では、必要なら赤子も平気で殺す親父が、こんな過保護とは知らなかったな。
「リーガル家の三男ディーン様ですね?」
「そうだよ。貴方は誰なの?」
「ディーン様のお父上であるリーガル侯爵様から護衛を依頼された『レガス』と言う者です。」
「そうなの。護衛よろしくね。それと、僕の後ろに立っているのが大切な僕の専属侍女のシルヴィアだよ。」
「承知しました。」
さて、昨日から考えていたが、現実的にはかなり難しいイベントと言える。
先ずは、選んだ者の過去だが、親父が綺麗にしてくれるから、これは最悪どうとでもなる。
次に、年齢が近く、身元がきちんとしている者は大抵は売約済みだ。
筆頭侯爵家の力を使えば奪う事は可能だが、現段階で敵を作る必要は無いし、好ましくない。
そして、普通は領地から見付けだすのだが、既に優秀なのはアーロンの部下になる事が決まっている。
つまり、アーロンが消えるまでは使えない訳だ。
正直、貴族の子供と言えども、かなりキツい内容だ。
だからと言って、情報も無いまま、磨けば光る原石を探すには時間が無さ過ぎる。
そこで思い出したのが、異世界テンプレの「奴隷」だ。
これなら、そいつの過去を気にする必要はほぼ無い上に、扱い易いし、秘密厳守が可能だ。
昨日、考えた結論が「奴隷」となり、親父とお袋には了解を貰っている。
そんな訳で、俺達は馬車に乗って王都最大の奴隷館に向かい到着した。
シルヴィアが素早く動き、門番にリーガル家の家紋を象った紋章を見せて俺の訪問を知らせている。
こうして、俺は最上級の歓迎を受けて、奴隷を探す事になったのだが、連れて来た年の近い奴隷には何も引っ掛かりが無かったから、俺は直接出向いて見る事にした。
まあ、シルヴィアには反対されたけどな。
確かに、残っているのは、筆頭侯爵家が買うには相応しくない奴隷だからな。
それに居なかったら、次の奴隷館に行けば良い。
だが、流石は王都最大の奴隷館だ。
侯爵家ではなく、下の爵位の辺境伯や伯爵家なら、問題ない奴隷も居た。
……結局、居なかった。
最後は廃棄予定の「四肢欠損奴隷」のみになった。
……ん!?
何か見た事がある様な見覚えのある顔が幾つか居るぞ。
「あの6人の顔を綺麗にして、僕に見せて欲しい。」
「畏まりました。」
俺は、綺麗になった顔を見て驚いた。
6人全員が、ゲームでは俺を殺した暗殺者だったからだ。
あの黒猫人族は、ゲームでは名前が「リン」で、ハイスペックでチートな俺に対して、1人で暗殺を成功していた。
因みに、ゲーム内でのリンのご主人様は、神殿のアレガス教皇だ。
ゲーム内のリンは、完全に人形みたいで、暗殺が日常で、リンの中では呼吸をするかの様になっていた。
他の5人は、公式資料を見るまでは信じられなかったのだが、エルドーリア帝国の第3皇女「フェリシア」の子飼いの暗殺者だった。
ゲーム内のフェリシアは「清く、正しく、美しく」だったが、流石に、「帝国の皇女」がそれだけでは駄目だろうし、リアリティを出す為に付け足したんだと思う。
しかし、ゲーム内での5人の台詞から御主人様への絶対の信頼と高い忠誠心が伺えた。
きっと、ゲーム内のフェリシアは、道具として見ずに家族の様に優しく温かく接したのだろう。
……これは「買い」だ!
何も、敵側に戦力を渡す必要は無い。
俺は、この6人全てを買い、首の奴隷環を奴隷紋に変更して、身体の洗浄を含めて身嗜みを調えさせ、奴隷だとは思えない服を着させた。
そして、屋敷に到着して、表向きは雇われた護衛のレガスが帰った後、親父に説明を求められて、初めて俺が四肢欠損を再生復元出来る事を実際に見せた。
勿論、後で屋敷内で箝口令が出されたがな。
「ディーン、どうして?」
「僕ね、6才の時にシルヴィアが火傷した所を見て、治してあげたいと思ったんだ。それからは一生懸命に頑張って練習したんだ。そしたらね、出来る様になったの。」
実際に、シルヴィアは俺が原因で火傷をした事がある。
「分かった、ディーン。しかし、この奴隷の責任は全てディーンが背負う事になる。充分に気を付ける事だ。」
「はい、父上。」
こうして、俺は、ゲーム内では、俺に匹敵する暗殺者候補6人を手に入れた。
親父side
「ディーンは凄いな。」
「ええ。まさか、世界に3人しか出来ないと言われている『四肢欠損』の治療が出来るなんて。」
「それに、聞いた時は驚いたが、まさか『奴隷』を選ぶとは思わなかったな。」
「私もよ。」
「ディーンが何処まで出来るか分からないが、温かく見守っていこうな、ディア。」
「はい、カーディ。」
しかし、ディーンはまだ12歳なのに、今までに無い暗い淀みが瞳に出ていた。
そういった意味でも、ディーンには注意する必要があるかもしれないな。
しかし、それでもリーガル家を真に継ぐのはディーンかもしれない。
暗部の首領デラスside
今日は、カーディフ様の御命令で、三男のディーン様の子守りをする事になった。
「……!?」
初めて、ディーン様にお会いしたが、アレが本当に12歳の子供か!?
まるで、ドラゴンと相対しているかの様な気分になる。
そして、メイドを紹介する時、オレだからこそ気付いた殺気を飛ばしやがった。
どうやら、只の甘ったれた坊っちゃんでは無い様だな。
長男のアーロン様も次男のサイラス様にも感じなかった期待が、三男のディーン様に持ってしまった。
正直、仕事はきちんとこなせたが生きた心地がしなかったと、言わざるを得ないな。
まさか、三男とはいえ、侯爵家の者が四肢欠損奴隷を直接買うとは思わなかったな。
今後の成長が楽しみな坊っちゃんだな。
……ただ、あの殺気が本物なら、怒らせる様な事をしない方が賢明だろうな。
今日、1日で思った事は、暗部は「表」に出て仕事をするべきではないと言う事だ!
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