……足りないかもしれないな。
既に達人の域に達しているディーン。
俺は今、ルーギンス公爵が用意した馬車から降りて裏口玄関口に居る。
「お待ちしておりました、エドガー様。」
偽名ですか、何か?
俺の正体を明かすのは恩を売った後が都合が良いし、偶然何かの拍子に、クリスにはバレた方が好感度がより上がるからな。
そんな訳で、リーガル領で冒険者をしていた仮面の男がダンジョンでレアなポーションを手に入れた、という感じでギルドに報告して、今日の夜にルーギンス公爵家に来た訳だ。
……まあ、正直な話、属性竜の新鮮な心臓を待つよりも、ダンジョン産のレアなポーションの方が可能性は高いからな。
ルーギンス公爵もそう判断する筈だ。
さて、俺はポーションを執事に渡した後、応接室で待機している状態だが、室内に速さ優先の屈強な騎士達が、天井には子飼いの暗殺者らしき気配がするな。
これは、治らなかったら、意識不明の手前までボコボコにされて打ち捨てられるかな?
最悪なら、ルーギンス公爵が気に済むまで拷問に掛けられ、わざわざ回復させてから、生きたままモンスターの生き餌にされそうだな。
……この部屋に向かって勢い良く近付く気配が有るが、ルーギンス公爵かな?
「エドガー殿!」
やっぱりルーギンス公爵だ。
「感謝する! 貴方のお陰で我が最愛の娘リエスリーラは助かった! しかも、レアなポーション所かアレはエリクサーではないか。お陰で、リエスリーラが気にしていた古傷まで消えたぞ。どれ程感謝しても足りない!」
「それは良かったな。俺が見つけたポーションを1番高く買ってくれる所に売った甲斐がある。」
「勿論だ。何処の誰よりも高く買うとも。さて、とりあえずは渡す物は先に渡しておこう。」
ルーギンス公爵が、そう言うと執事が俺の前に小袋を2つ置いた。
「両方に、白金貨50枚ずつ入れてある。」
「依頼よりも多くないか?」
「エリクサーの代金としては安いがね。」
「……分かった。」
俺は小袋の中身を確認すると、マジックポーチに小袋2つを仕舞う。
このマジックポーチは、こういう時用にダンジョンの宝箱リストから見付けて準備したものだ。
「……所で、ディーン君は何故、仮面を被って正体を隠しているのかい?」
「……」
「見くびって貰っても困るな。これでも公爵家当主だからね。重要人物の家族ぐらいは頭に入れているよ。」
……俺は諦めて、仮面を外した。
「何時からなどと聞かない。」
「そうかい。」
「まあ、我が婚約者のご機嫌取りだよ。」
「君の婚約者への溺愛振りは有名だからね。それなら納得だよ。血は争えないとは良く言ったものだ。」
「此方の希望は、秘密厳守。よもや、恩を仇で返しはしないだろう。」
「勿論だよ。しかし、良く手に入れたね?」
「秘密だ。」
「……分かったよ。娘の命の恩人だからね。」
「それじゃあ、お暇させて貰うよ。」
「ああ。数日後にお礼の品を送るよ。ありがとう、ディーン君。」
「分かった。」
6日後に、ルーギンス公爵家からお礼の「品」が届いたが、俺は思わず「ルーギンスー!」と叫んでしまった。
内容は、リエスリーラの正式な俺との婚約成立書だった。
後は、俺のサイン待ちの、な。
更に、クリスからの俺への手紙が届いた。
内容は、「ちょっと心が痛いけど、貴族の娘として多妻の覚悟はしているし、俺が断れば修道院行きが決まっているから、受け入れて欲しい。」と書かれていた。
流石は公爵家だな、根回し済みとは……
しかし、この「婚約」もゲームに無かったな。
やはり、ディーンが俺になったのが原因かもな。
まあ、今回の恥も外聞も捨てた依頼で、欠陥品扱いになって、3桁の釣書が無くなったらしいからな。
「……足りないかもしれないな。」
……元気な俺と、横で気絶していて自身の芸術品を咲かして晒しているシルヴィアとアナスタシアを見た俺は、将来に於いて、クリスとソフィアだけでは足りないかもしれないと思って書類にサインした。
まあ、まだサインを入れれるだけ優しいよ。
普通は、貴族の婚姻は当主が決めるから当事者の意見は求められないからな。
3日後に、正式にリエスリーラと婚約したと公表したのだが、俺への釣書が2桁になった。
……邪魔な上に迷惑だ。
更に、貴族的なやり取りをして、俺と親父はルーギンス公爵邸に到着した。
形だけのお見合いだな。
俺は、メイドの案内でリエスリーラが居る部屋に通されたのだが、2歳年上な為に面識が無い。
どんな令嬢だろうな?
「どうぞ。」
中から許可の声が聞こえた。
とりあえず、五月蝿いキンキン声じゃなかった。
「失礼します。ディーン=フォン=リーガル様をお連れしました。」
「初めまして、リエスリーラ嬢。貴方と婚約が成立した侯爵のリーガル家の三男ディーンです。」
「初めまして、ディーン様。リエスリーラ=デリス=ルーギンスです。」
自己紹介をした後、数時間の会話をしたが、好感が持てる令嬢だった。
これなら、少なくとも嫌う事は無さそうだな。
因みに外見は、ゲーム系異世界らしく、青い髪に翠眼の美少女だ。
スタイルは、何処かのヒロインよりもヒロインをしていた片角の彼女よりも若干控え目かな。
更に4日後に、婚約者同士の交流会をした。
とても穏やかに進行したよ。
お互いに貴族の娘として「多妻」を覚悟をしていたみたいだし、元々、知り合いみたいで既に将来の「妻」としての協定は結んでいたみたいだ。
まあ、妻同士が仲良くやっていけるのなら良いか。
翌日の学園で、遂に、将来の勇者パーティーと俺が表立って衝突した。
暖かい応援メッセージと星の加点をお願いします。
この世界に於いての「釣書」とは、婚約希望の履歴書です。




