……その顔と名前、覚えたからな!
王族が出す命令には、見えない所にも大きなリスクが伴います。
それから、屑な馬鹿フィリップの件を切っ掛けにして、少しずつ親父の裏の仕事に関われる様に動いた。
最初は親父の執務室にお邪魔して、書類の不備や計算間違いの修正とかから始めて、ある程度慣れて来ると、事後報告書等の書類を親父に出して、「この報告書の内容から考えると、このやり方の方が利益が出たと思うよ。」とか言って別案を提案したりした。
そうする内に、白寄りの書類仕事からグレーな書類仕事になり、遂には、現場作業や実戦以外の黒い仕事を任せられる様になった。
そして、王立学園の入学1ヶ月前に、黒い仕事で俺は最後の一線を越えた。
……殺人だ。
まあ、その頃には現場での死体に慣れていたから、比較的に殺人に対する精神的な負担は軽かった。
クリスには、「あの件が切っ掛けで、クリスを守る力が必要だと思って、お父様にお願いしてモンスター討伐をしていた。」と伝えている。
そう言ってクリスには、黒い仕事で纏い始めていた俺から出る雰囲気を誤魔化した。
言っておくが、我がリーガル家の裏の仕事は「王政の存続維持」が仕事内容だからな。
ソレに対して侵害しようとする者達や破壊しようとする者達に対して裏から処理するのが主な仕事だ。
まあ、殆どの貴族には知らされておらず、正に悪党貴族として知られている。
まあ実際、王都のカジノは我が侯爵家が仕切っているし、他にも色々とやっているしな。
そして、王立学園の入学日だ!
今年は、第3王子が同学年の為に、新入生代表を務めたが、壇上から降りる時に目が合った。
……何を考えている?
そんな疑問を持ちながらも、教室では当り障りの無い自己紹介をしたが、我が家の黒い噂を聞いているのか、若干険しい顔をしている者達が居た。
その中には、クリスの悪口も聞こえた。
……その顔と名前、覚えたからな!
「ディーン様、どうされました?」
「何でも無いよ、クリス。」
いかんいかん。
横には、俺の可愛いクリスが居るんだから、気を付けないといけない。
何故ならクリスに不安な顔をさせるのは重罪だからな。
そして、今日のカリキュラムが終わると、教室の外で待機していた第3王子の使いが入って来て、俺に第3王子の印璽が捺印された封蝋付きの手紙を渡された。
……あんの馬鹿王子が!
こんな事をされたら、本人がどんな考えだろうが、王族からの正式な手紙となる。
こんな所で開けられる訳が無いだろうが!
本心では心底嫌だったが、仕方なくクリスに先に帰る様に伝えてから使いの者に言った。
「彼の御方の所へ、案内しろ。」
「はい。畏まりました。」
俺は手紙の中身を確認しないまま、第3王子が待っているらしい、お茶会等で使われるサロンに到着した。
そして、俺は密かに、とある魔道具を起動した。
使いが扉をノックする。
そして、中から「入れ。」という言葉が聞こえた。
使いが扉を開け、俺達は中に入ると第3王子に、恐らく専属侍女に、王族故に許された2人の護衛騎士が居た。
「待っていたよ。」
「初めまして。第3王子フールハング殿下。」
「それで、手紙を読んでくれたかい?」
そう言うと、使いが扉を閉め、そのまま、シルヴィア達と第3王子の間に立ち、護衛の騎士1人が、扉の前に立つ。
……つまり、俺の後ろだ。
「フールハング殿下、軽々しく印璽が捺印された封蝋を使わないで頂きたいですね。」
「何故だい? 別に構わないだろう?」
そんな訳あるか、阿呆!
……あ、思い出した!
親父の書斎の基本情報が網羅された書類の中に、この阿呆に関する書類があったわ!
あまりの馬鹿で、国王が依頼した家庭教師「全員」が辞退したり、無断で居なくなった家庭教師も居た。
だから、当時は「こいつ、殺した方が国としては良くね?」と誰もが思っていたらしい。
まあ、国王と母親の第4側妃が遠廻しな助命懇願する事で、暗殺や毒殺や事故死から何とか生き残れたみたいだが、それ以降には目立った記載は無い事から、国王や第4側妃が直接指導したのだろうな。
まあ、それでも、この程度のレベルだけどな。
しかし、「仮にも」とか「一応」とか付く馬鹿な王族だか、どんな馬鹿でも、甚だ不本意だが相手は王族だから、礼節は重んじないといけない。
本当に大事な必須事項だから2回言ったからな。
テストに出るぞ。
さて、現実的な対応をしないとな。
「手紙などという、不確かな手段よりも、フールハング殿下の御言葉で直接にお伺いしたいのです。」
「そうかい。分かったよ。手紙の内容はね、其所に居る侍女と侍女候補を僕に寄越せ。そして、お前は僕の部下になれ。」
「先ずは確かめたいのですが、そのフールハング殿下が仰った『お前』とは、私ディーン=フォン=リーガルの事でしょうか?」
「そうだよ。他に誰が居る?」
「次に、私の侍女と侍女候補に対して『寄越せ』とは、この2人に関する『全て』を無条件で譲渡せよ、との、フールハング殿下からの御命令でしょうか?」
「だから、そう言っているだろう。」
……殺意と憎悪しか湧かねえ!
結局は、王族と貴族は持ちつ持たれつだ。
だから、王族が貴族から一方的に搾取は出来ないんだよ。
そんな事をすれば、最悪、貴族達が結託して国王すら幽閉となり、クーデターが起きて国として成り立たなくなるからだ。
「それと、お前の婚約者は、僕の妾にしてやるよ。」
……はあ!
今、何て悪言葉を吐いた?
しかし、我慢しろ俺!
此処で、この自殺志願者を殺す訳にはいかない!
「……全て御断りします。」
「……良く聞こえなかったよ。もう一度言ってくれるか。」
「全て御断りします。」
「第3王子の僕の命令が聞こえ無かったのか!」
「聞こえていたから、お答えしました。」
「だったら、僕の命令に従え!」
「もう一度言います。全て御断りします。」
「……どうやら、自分の立場が分かっていない様だな。」
「充分に理解しておりますが。」
「いいや、分かっていない。やれ!」
「「「はっ!」」」
「おい、ガキ! 死にたくなければ従え!」
「そうだぜ! 右腕を喪いたくないだろう。」
こいつら、本当に王族を護衛する騎士か!?
「こんな所で剣を抜く意味と、私ディーン=フォン=リーガルに抜いた剣を向ける意味を分かっているのか?」
「ああ、分かっているぜ。」
「当然だな。」
「それに良いのか?」
「大切な侍女や侍女候補に、二度と消えない傷が刻まれてしまうぞ?」
暖かい応援メッセージと星の加点をお願いします。
フールハングの元ネタは、タロットの「愚者」と「吊るされた男」からです。
つまり、「ざまぁ!」される要員ですな。




