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砂漠のオアシス、テイラン③

 ◆◇

挿絵(By みてみん)

 ヴィリとフラウ、ついでにオーギュストは適当に話しながら酒を空けていく。


 オーギュストに下心があったかどうか?

 それはあったのだろう。

 ヴィリが果物を取る為に腕を伸ばしたとき、衣服の合間からちらと見える肌色はオーギュストの劣情を甚く刺激した。


 だが手を出す事はなかったし、下品な言葉を口に出す事もなかった。


 なぜならば下手に手を出せばどうなるか、オーギュストにも分かっていたからである。


 彼もこの殺伐世界を生き抜く剣士である以上、半ば無意識に対面する相手の業前を量る癖がある。


 量った結果はこの地域の冒険者としては上澄みでもある彼をして、非常に厳しいといわざるを得なかった。


 ――この2人の内の1人と殺り合えばどうなるか。例えば黒いお嬢さん


 ――俺は首を飛ばされるが、俺の方はといえば腕の一本でも持っていければ恩の字だろう


 ――それでも互いの切り札次第だ。場合によっては為す統べなく屍を晒す事になるかもしれないな


 ――が、考えても詮無き事だ。今は美女二人との逢瀬を楽しむとしよう


 そんな事を考えながら酒を手酌で注ごうとすると、ひょいと白い手が酒瓶を奪った。


 ヴィリである。


「色男、あたしらをヤれる算段はついたかい?」


 ニタリと下品な事を言うヴィリの尻をフラウが引っぱたく。


「ヴィリ姐。下品。次に言ったらそこのお兄さんを斬るからね」


 なんで俺を、と思いつつもオーギュストは苦笑しつつ首を振り、厳しそうだ、と答えた。


 ◆◇


 ヴィリとフラウは酔いつぶれたオーギュストを置いて、店を出た。

 代金はオーギュストが支払うと自分で言っていたので甘える事にした。


 顔に当たる夜風に火照る顔が冷やされる。

 ヴィリはふいと空を見上げた。


 鳥だ。


 ホウホウと啼く、この砂漠の地では珍しくはない夜行性の猛禽である。


 フラウがつられて鳥を見上げる。


「あの鳥がどうしたの?」


 フラウが言った。

 フラウの目にはただの鳥にしか見えない。


挿絵(By みてみん)

「いやあ、ウチの奴の彼女かなぁって」

 ヴィリは横を向いたまま答えた。

 口元に僅かな笑みが浮かんでいる。


(ヴィリ姐、機嫌よさそうだな。あの人の事を気に入った…わけじゃないみたい。…そういえば、昔の事を話してくれる時、ヴィリ姐は良くこんな表情をしている気がする)


 フラウはポーっとヴィリの横顔を見つめて返事を待った。


 ヴィリが口を開く。


「うちら…連盟はさぁ、鳥が1人いるんだよ。あ、1匹じゃなくて1人な。そいつがさぁ、最後に会った時、恋人を連れていてさぁ」


「恋人って…鳥の?」


「そう、鳥の彼女。その子は砂漠出身の鳥らしくてさ、夜行性なもんで、寝かせてくれないとかいってたのを思いだしてさぁ。鳥の交尾ってどんなんなんだろうな」


 ヴィリの下世話な話にフラウは眉を潜めた。

 しかし、連盟はフラウにとってもある意味で家族だ。ヴィリはフラウにとって家族なのだから、そのヴィリにとっての家族ならばフラウにとっても同様である、という理屈だ。


 家族の事ならばやはり興味は出てくる。

 というのも、フラウは連盟員と出会った事は何度かあるが、僅かな出会いでは人となりなどはわからない。出会った事のない連盟員というのも居た。


「その…鳥さんは男の人…鳥?なんだね」


「ああ、しかも貴族だぜ。天空都市の。本当かどうかわからないけどな。天空都市アリアンロッドはもうずーっと昔から空の上にあるんだと。それこそ第一次人魔大戦の前からだから…800年以上前からか?多分。知恵のある鳥達の楽園で、でもある日、龍に滅ぼされて。そいつ、モウルドっていうんだけど、モウルドは大怪我をして地上に落ちたんだと。それ以来、モウルドは故郷を探して世界中を飛び回ってるんだ。まあそういうとなんか殊勝な鳥に思えるけど、普通に女つくって遊んでるからね」


「あはは…。じゃあ…最低でも800年以上生きてるんだね」


 フラウがそういうとヴィリは首を傾げた。


「…生きてる…。まあそうだな、でもあいつは定期的に死んで、それで蘇るんだってさ」


 それはまさに神話に聞く不死鳥ではないかとフラウが日頃の無表情を崩し、目を見開いた。

 しかしヴィリはやはりまた首を傾げていう。


「もしかして…不死鳥?血を飲むと不老不死になるっていう…」


「いや、不死鳥って訳じゃないとおもうんだけどなあ。だって見た目はでかい鷲だし。あと不死鳥も死ぬぜ。殴ったり斬ったりしても殺せないって言うだけでさ。マルケェスが言うにはさ、不死っていうのは凄く難しいんだってよ。この世界の共通認識が不死を許容しないからだとかなんだとか。生きている限り必ず最後は死ぬ、みんながそう思っている限り不死の生物は存在しないんだって。まあその辺を自分の妄想でひっくり返してコイツはやべぇってなって袋叩きにされた奴もいるんだけどさ」


 ヴィリはこうみえて色々物を知っている。

 ただ知識はあっても知恵を使わないのだ。

 なぜなら知恵がなくとも大抵力ずくでどうにかなってしまうからである。


「前に言ってたラカニシュって人?」


 フラウが尋ねると、ヴィリが頷く。


「この前の戦争で完全に滅びたらしいけどな。マルケェスはたまにとんでもないのを勧誘してくるんだよ。わざとやってんのかなと思った事もあったけど、本人は至って真面目らしい。長く生き過ぎたせいでボケてきてるんだとおもう」


 マルケェスが悪魔だというのはフラウも聞いていた。悪魔も長生きすればボケるのだろうか、などと益体もない事を考えながら何とはなしに空を見上げると、尾を引く一条の流れ星。


「あ、流れ星だ」


 フラウが空を指差して言うと、ヴィリもそれを見る。そして小首を傾げていった。


「いや、あれは彗星じゃないのか?」


「同じだよ」


 ヴィリの言葉にフラウが反駁すると、ヴィリはまるで二日酔いを翌朝の迎え酒で抑制できると豪語する低脳を見るような目でフラウを見た。


「全く違うね。私は昔ヨハン君に同じ事を言って、延々と星の講義をされたからわかるんだ」


 兄のような連盟術師、ヨハン。

 彼は連盟随一の“教えたがり”である。

 ヨハン曰く、“俺はアホに物を教える事を運命付けられている”らしい。


 全く表情を変えずに延々と流星と彗星、そして隕石、ついでにいえばそもそも星とはなにか。自分達が星界と呼ぶ空間はどんな場所なのか、話はひたすら分岐して、結局3時間ほど講義を受けた悪夢の記憶が蘇る。


 ヴィリが過去の思い出に浸り、ふと横を見るとふくれっつらのフラウの顔があった。


 膨れフラウはなおも言う。

挿絵(By みてみん)

「流れ星だよ」


 そんなフラウを見ながらヴィリは次ヨハン君にあったら10時間くらい講義してもらおうか、などと思っていた。


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