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皇帝になったブラック社員  作者: 田子猫
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吸血族があらわれた

「あなたぁ~」


人ごみの中にメルミアの振る手が見える。


花畑の中で袖を振るとかなら優雅だが・・・

開校準備を見せてくれと言った手前、馬車を並べて(ひし)めき合う納入業者のおっさん達の顔を花と比べて文句言うわけにはいかない。


「私のいい人なの~通して~」


驚くべきことに、この一言でさっとメルミアへの道が開いた。


俺とミケのステータスは隠しているので、若旦那と小姑がやって来たくらいにしか思われていないはずだ。


一般的に人外の者の地位は低い。エルフが仕切っている場に人間(多分)の家族がやって来たのだから、良い格好を見せられるよう忖度(そんたく)されたのかもしれない。


「ミケさんに教えていただいた魔法、みんな使えるようになりましたよ、ほら」


そう言うとメルミアは箱が山積みになった木製のパレットを浮かして見せた。


「おおっ」


男たちはどよめいた。

先程から散々見ているだろうから、これは自発的な演出サクラである。


「はいは~い」


やってきたエルフがそのパレットを奥に運んで行く。

屈んで持ち上げる必要はないし、浮かんでいる状態なら1人でも運べる。


「エルフの女の子は働き者じゃの、人間の女とは大違いよ」


見るからに中年の好色そうな商人が近づくエルフ達におべんちゃらを言う。

ミニスカートから露出する脚に視線が行っているので意図は丸わかりだ。


「エリカ活躍してますよ」


メルミアが嬉しそうに言う。


倉庫の入り口で運び込まれる品物と納品書が一致するか確認する、所謂(いわゆる)検品業務をエリカが行っている。

エリカがOKを出し納品書にサインしたらエルフ達が倉庫の奥に運んで行く。


「奥で分類整理して物別に品物を置き、あとでエリカが作った証書通りに物を配分していきます」


兵站で活躍したエリカの腕が遺憾なく発揮されているようだ。


「エリカ、頼んだぞ」

「はい、任せてください。私がいる限り補給品で苦労させませんから」


極上の笑顔でそう言うと、さっと作業に戻った。


「心強いな」

「隊長、あとは私たちがやりますから」


メルミアは背中を押され、腕の中に入ってきた。


(慕われてるなぁ)


エルフ達の言葉に甘え、メルミアに施設の案内をしてもらうことにした。


「えっと、この辺りは倉庫群になっています」

「今いたのは消耗品が多かったよな」

「はい、消耗品と被服の倉庫です」

「こちら側の倉庫は?」

「竜の鱗を大量にいただきましたので、防具に使う皮などと一緒に格納しています」

「防具として使うのか」

「はい、開校したら学生各人の身体を測定して防具を作ります。防具作成は一月ほどで修得させる予定です。かなり防護力の高い鎧や盾が出来ると思います」

「それは素晴らしいな」

「本当は武器の応急修理とかもさせたいのですけれど」

「エルフは鉄に触れないものな」

「はい」

「間に合うかどうかは分からないが、ミスリル鉱床の採掘に成功したら、ミスリル製の武器を作らせるから、その製造過程の見学をカリキュラムに組み込み、完成した武器をまず学生に与えようと思っている」

「ミスリル?」

「ああ、非鉄金属で銀色に輝き、鉄よりも強度があるのに軽いという特性のある金属だ。まだ存在する程度にしか分かっていない。新年度予算で鉱脈の調査と発見次第採掘を試みる予定だ」

「楽しみです」

「あの倉庫は?」

「当面必要になる食糧品を保管する倉庫です」

「そういえば給食も予定していたな」

「はい、野外での自炊以外は少しでも教育の時間を長くとれるように食事を提供する予定です」

「そちらの大きな建物は?」

「儀式などをする講堂を兼ねて、基本的な魔法の練習場にもなっています」

「あー、俗にいう生活魔法か」

「はい、雨の中で火を起こせたり、重い物を持ち上げられると便利ですから」

「という事は建物自体が結界になっているわけか」

「はい、加減を間違えても燃やしたりする(おそれ)はありません」

「のわぁぁぁぁ!!」


叫び声と同時に目の前に真っ黒なものが降ってきた。


「なんだ?」


どうやら黒い服を着た人間らしいが、屋根から落ちてきたわけでもなさそうだ。


「この蝙蝠(こうもり)が頭の上にいたので叩き落しました」


ミケがしれっと言う。

探知魔法を使っていなかったというのもあるが、建物に気が向いていて上空に何かいたのには気が付かなかった。


「こ、蝙蝠ではない」

「あ?」


ミケが一瞥をくれると、立ち上がりかけていた男が地面に這いつくばるように押し付けられた。


ミケがこういう仕打ちをするという事は、こちらに一瞬でも害意を向けたという事だ。俺の安全が脅かされることに関してミケが見逃すことはない。それが戯れだとしても。

メルミアも驚いてはいるが、右手にはしっかり青銅色の短剣が握られている。


「ぐぇぇぇぇぇ」


相当な圧力をかけているようだ。


「このまま剥製にしましょうか」


メルミアが淡々と言う。本気だ。


「まって、まって」


タマが現れた。

今日は桜色の浴衣を着ている。


「そいつ、エルちゃんの手下にする予定だったの」

「は?」


ミケが初耳だという顔で、だが戒めを解いたらしくよろよろと男が立ち上がった。


「クソ、人間とエルフ風情が・・・」

「あ?」


ミケが魔力を凝縮するのが分かる。放たれたら一瞬で消滅するだろう。


「やめてやめてやめて~」


男はタマが出現させた黒い鏡に霧のようになって吸い込まれ、鏡ごと消えた。


「ミケ、ほんっとにごめん。魔界の最深部で100年反省させる!」


ミケはタマに含むところはない。即座に魔力を散らした。


「いいけど、なんなのあれ?」

「吸血族の長、といっても代替わりしたばっかで2,000年くらいしか生きてないくせに俺様小僧」


(2,000歳で小僧かい・・・)


「代々の記憶を受け継いでるから、エルちゃんが欲しがってた座学の教師にって説得中に逃げ出しちゃって」


「そうなんだ」

「まあ、あんなの本当はどうでもいいんだけど、絶滅危惧種なんで魔族的に生かしておかなきゃなんだ」

「あれ、タマが作ったんじゃないのか?」

「吸血族と淫魔属、それから一部の魔獣は違うよ。もともと棲息(せいそく)してた」

「俺たちが餌に見えたのか・・・ミケ、メルミア、ありがとな」


タマが作ったものでないのなら俺達が何者か知るわけもない。本当に害意があったのだろう。

ため息を吐いたミケと、短剣を腰に戻したメルミアの肩を抱き寄せ口付けをする。

すぐにミケの機嫌が直った。


「エルベレスの所へ行こう。もう一度問題点を洗い出そう」

「はい」

「タマもな、お前がすごくよく働いているのは分かっている。だが、俺の知らないことが多すぎる。寝物語になってもいいから教えてくれ」

「うん、わかった」


さすがのタマも消沈したようだ。

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