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皇帝になったブラック社員  作者: 田子猫
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初めての執務

食事が終わると執務のために玉座へ向かうことになった。

ミケから聞いた話では後宮から出るのは一月ぶりのことらしい。


大丈夫か帝王・・・


回廊を行き来する者は優一の姿を見ると驚いたように飛び退いて跪いた。

見た目はただの少年であるが、衣服と宝飾が威光を放っているのであろう。


「陛下ぁ」


背後から声をかけられた。

語尾に「はぁと」と付きそうな甘ったるい声である。


「なんだあれは?」


振り返りもせず、隣にいるミケに尋ねた


「ユーイチのお気に入りの妾です」

「何か能力を持っているのか?」


ミケのような突き抜けた能力者なら相手をせねばならないだろう。


「乳がでかいだけのバカ女です」


ケッと吐き出すかのごとくミケは言い捨てた


「陛下ぁ! 陛下ぁ!」


背後から連呼されるのは不快である


「ミケ、どうにかできないか」

「御意」


刹那、背後から短い悲鳴が聞こえた。


「何をしたのだ?」

「ふさわしい場所に送りました。今頃は辺境の売春宿の前です」

「その技は、ミケの負担になるか?」

「いえ、全く」


転移といえばネトゲではかなり高度な能力だったはず。

こんな便利な后を遠ざけていたなんて、前の帝王はアホだったのか。


「ちなみに、売春というのは合法なのか?」

「はい、ユーイチが違法だと言わなければ合法です」

「ならば問題ないな」

「はい」


玉座といってもゴージャスな椅子がおかれているのがゲームの世界では普通だった、はずなのだがミケに案内された玉座は文字通り宝玉で形作られていた。


早い話がものすごく座り心地が悪い。

ムッとした表情になるのは許容してもらいたい。

広間にいる者たちは驚きと恐れを混ぜたような表情でこちらを注目している。


まあ、一月ぶりに帝王が現れ、后を伴っているのだから当然のことかもしれない。


ただ、段の高い場所にいる者達、おそらくは高位の貴族の中には侮蔑の表情を浮かべている者がいることにも気がついていた。


「ミケ、こちらに蔑視や敵意の視線を向けている者は誰かわかるか?」

「はい、気の流れが宰相に繋がっています」

「宰相がいるのか」

「はい、ユーイチが面倒なことはいつも一任していました」

「すまん」

「は?」

「やきもきさせたね」

「い、いえ」


顔を近付けるほどに親しく会話をする帝王と后の姿に会場はざわめいた。


ドン、ドン


指揮杖を床に打ち付ける音がした


「あれが宰相か?」

「はい」


良く言えば恰幅のいい上級貴族、言葉を飾らずに言えば太った中年が玉座に振り返り


「始めてもよろしゅうございますか」


と穏やかな口調で言った。

おそらく前帝王はここで同意して、あとは終わるのを待って後宮に引きこもっていたのだろう。


自分で何ができるのかはわからない。

だが分からないままで流されるのはもうこりごりだ。


「汝に問う」


ブラック会社で培ったハッタリとカマかけの技術を使ってみようではないか


「帝国の現状を述べよ」

「は、特に問題はございません、すべて順調です」

「であるか、ならば臣民の数は?」

「は?」

「帝国の国土の面積は?」

「・・・」

「昨年の国庫への収入と歳出金額を述べよ」


宰相は沈黙した。

本当はそこからさらに踏み込んだ質問を浴びせるはずだったが、まあいい。


「余は失望した、汝に連なる者すべての地位を剥奪する」

「な、何を血迷われたか」

「誰が発言を許したか、不敬である!」


瞬間、宰相と今まで不快な視線を送っていた者すべての気配が消えた


「陛下、宰相及びそれに連なる者すべて、牢獄に送りました」


ミケが陛下と呼びかけているのは、広間の全員に聞かせるためである


「最低限、食べるものには困らないでしょう」

「后よ、良くやった」


立ち上がって頭を撫でるとミケは嬉しそうに微笑んだ。

こちらの微笑ましい雰囲気とは対照的に広間では恐怖が支配する気配がうかがえる。これで良い。


「各々の職務内容については明日までに書をもって報告せよ。嘆願事項のあるものは残れ、解散!」


蜘蛛の子を散らすように人のいなくなった広間の末席に、1人だけ残っているのを広間の気を探査したミケが発見した。


「そこに残っている者、近くに寄れ」

「あ、あの、よろしいのでしょうか」

「余にそこまで行けと?」

「あ、は、はい、ただいま」


慌てて走って近づく少年に武器と悪意は感じられないとミケが耳打ちをした。

粗末な貫頭衣を着た少年は玉座の手前で跪いた。


「発言を許す。嘆願があるなら言うが良い」


少年は恐る恐る頭を上げた。

優一もミケも少年が言葉を発する前に、瞳に浮かんでいる絶望に気が付いていた。



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