港町のお役所
「へっへっへ~♪」
先頭を大ハマグリがぴょんぴょん跳ねて行く。
「ずいぶんご機嫌だな」
「ユーイチの精子には唾液ほどではないですけど濃い魔力が宿っていますからね」
ミケが説明してくれる。
それだとミケやタマ相手なら魔力をぐるぐる巡回させているという事になる。
「この世界に来て絶倫になった理由が分かったような気がするよ・・・」
大ハマグリは3回で満足してくれたが、タマ相手だと確かに寝落ちするまで離してもらえない。
「しかし、あのなりで処女じゃなかったのがびっくりだ」
「そこそこ長く生きている精霊ですからね。幻の都に憧れて契約した人が何人もいるのでしょう」
幻の夢を見せるならエルフの方が得意だし、遠くの情報を転送するなら映電の方が早い。だが、空中に現れる蜃気楼は原理を知らない人間には十分憧れを抱かすに足る魔法なのだろう。
「着いたで~ここやで~」
大ハマグリがどや顔をする。
まあ、港町に似合わない大きな洒落たレンガ造りの建物だから、特に案内もいらないのだが・・・
「貝の精霊が町役場の場所を知っていたのは驚きだよ」
「役人と契約してたこともあるんや。蜃気楼の投影会は評判良かったんやで」
「人気あるイベントだったのか。なぜやらなくなったんだ?」
「そりゃ、ほら、うちと契約しとくには月に一度はせなならんし」
「あ~つまり、搾りかすになってしまったわけか、その役人」
普通の人間には常時魔力を補充してくれるミケのような存在はいない。
さてと
役場に入る前にするべきことがある。
行方不明の子供の発見通報と引き渡しという用件で来たのだからこそこそする必要はない。
普通にステータスを見ることが出来るようにミケに出してもらう。
優一 職業帝王 種族人間 レベル無限大
ミケ 職業后 種族人間 レベル無限大
ファイアフライ 職業帝王の妾 種族竜 レベル概念なし
映電 職業帝王の妾 種族竜 レベル概念なし
大ハマグリ 職業帝王の妾 種族精霊 レベル概念なし
ミケにこのように表示したと説明を受けたが、ミケの種族は人間でいいのか・・・
「まあ、正直に表示しているのだから文句を言われる筋合いはないな」
「はい」
ミケはにこやかに答えたが、これを見た相手が信じるかどうかは別問題だ。
まあ、身分を隠して後で面倒が起きるよりはいい。
「町長はいるか?」
エントラスホールで暇そうにしていた見た感じ40代の女に声をかけてみる。
通常こういう場所で来客に正対して座っているのは受付と相場が決まっている。
そして20代のギャルっぽい女とお局様っぽい女がいたら、お局様の方に声をかけるのがセオリーだ。
「はい?」
町長がいるかどうかという問いかけに答えなかったのは、おそらくステータスが見えないので、子供が何を言っているのだ? ということなのだろう。
「町長と話がしたい。町長のところへ連れて行くか、町長を連れて来るか、どちらでも好きな方を選べ」
これなら誤解されることはないだろう。
「えっとね、町長様はお忙しいから、遊んでいる暇はないのよ」
「遊びに来たのではなく話に来たと言ったはずだが?」
「あのう」
ギャルっぽい女が遠慮がちに
「私がおつなぎしましょうか?」
この女はステータスが見えるのかもしれない。
「いいのいいの、子供を入れたりなんかしたら私がどやされるわよ」
「子供、ではないと思います」
「とにかく、いきなり町長様に取りついじゃいけないの、規則、これは規則よ」
なんか規則とか言い出した。元の世界の役人を見ているようだ。
ミケがイラっとし始めたのがわかるが、面白いのでもう少し見ていたい気もする。
「そういえば王女が帝国の規則を弄っていたな。形になっていないものを根拠にするとはすごいな」
大げさに感心したような口調でミケに言ってみる。
「旧規則は無効になさいましたものね、あなた自身が」
ミケはこれが遊びだとすぐに気が付いたようだ。
いつもの「ユーイチ」でなくメルミアのように「あなた」と呼んてきたのは了解したという合図だ。
「ああ、とはいえ全文頭の中に残っているからな。どの規則の何条かな?」
ギャルは確信したようで、青ざめながら
「あの、責任なら私が引き受けますから、お通しした方が・・・」
「だめよ、どうしても面会がしたいのなら、予約を入れないと」
「あの、すみません、私に用件をお話しいただけますか」
ギャルはお局様の頭越しに業務を遂行する気になったらしい。
「行方不明の子供の発見と引き渡しについてだ」
「畏まりました」
「あなたねぇ」
「黙っててください!!」
ギャルは真剣な表情でお局様の言葉を遮った。
「陛下に対し不敬でしょう」
そう言いながら椅子から立ち上がり
「確認してまいりますので、少々お待ちいただけますか?」
「構わない、そなたこそ慌てて転ぶでないぞ」
「はい」
ギャルは見るからに慌てて階段を駆け上がって行った。
「全く最近の子は・・・」
お局様はギャルの対応にお怒りのようだ。
「あなたたち」
隅に控えていたいかにもゴロツキといった風体の男達に声をかけた。
「この子供たちを叩き出してちょうだい。目障りだわ」
よほど暇だったのか、このお局様に恩があるのか、男たちはすぐに動き出した。
反応としては悪くない。
だが、馬鹿にし切った表情で武器も抜かずに襲い掛かるには相手が悪すぎた。
「叩きだされるのはどっちかな~」
ミケがにこっとした。
瞬間エントラスホールから男たちの姿が消え、外でグシャッという音がした。
「死んだね~あれ食べてきていいですか~」
映電がさっそく食べようとする。
「だめ、あんなの食ったら腹壊すぞ」
本当は役場の玄関で竜に戻ったら別の意味で大騒ぎになるからなのだが。
「あとで魔力分けてやるから、今は我慢しなさい」
「は~い」
「ねえ、あなたも叩き出されたい?」
お局様にミケがにこやかに迫る。
「海の底でも、魔獣のいる森でも、好きなところに叩き出してあげるわよ」
「な、なにを・・・」
お局様はまだ事態を把握しきれていないらしい。
どずどずどず
豪快に足音を響かせ、超肥満体の男が階段を駆け下りてきた。
「こ、これは陛下」
町長もステータスは見ることが出来るようだ。
「行幸のご予定を存じ上げませんで・・・」
「いや、予定の視察ではなくてだな、軍から怪しげな建物についての報告があったので確認に来たのだ」
「左様でございますか」
「映電、例の建物を上空からここの壁に投影しろ」
「は~い」
「ミケ、映電を建物上空に放り投げろ」
「はい」
放り投げろと言ったのは転移だと悟らせないようにである。
大ハマグリがきょとんとした顔をしている。
映電はすぐに建物の映像を送ってきた。
「この建物だ。町長は何か知っているか?」
「はい、あの付近には以前から異国の漂流者が住み着いていたのですが、いつの間にかあの建物が建っておりまして・・・自分たちの宗教儀式を行う建物が欲しいから建てたと」
「宗教儀式とは何だ?」
「信徒を集めて女神様の啓示を受けるとか」
「ラミアを知っているか?」
「はい、私どもの女神様です」
「ラミアの棲み処のすぐ近くにそんなものがあって、ラミアが怒るとか考えなかったのか?」
「女神様と崇めてはいますが、ラミアは想像上の生き物でしょう」
「ん? ラミアを見たことがないのか?」
「あくまでも昔からの言い伝えでございます。異国の者達もラミアなど見たことがないと言って、よく港の方に布教活動に来ておりました」
『ミケ』
『はい』
『どう思う、この男』
『怪しくない部分がありますか?』
『まあ、そうだよな』
「で、町長」
「はい」
「この町で一番の宿を斡旋してもらおうか」
「はい、それはもちろん」
「それと、この町で行方不明になっている子供がいるな」
「おりますが、陛下の手を煩わせることでは」
「それは余が判断することだ。子供たちの名簿と今までの捜査資料を届けさせよ。その子にな」
町長の横にいたギャルを指差すと、町長はどういう脳内変換をしたのか。
「ああ、そういうことですな。わかりますわかります。宿はおつきの方も個室をご用意させますし、この娘も朝までお貸しいたします」
と素っ頓狂なことを言い出した。
「いいか、資料全てだぞ」
「畏まりました」
と言いつつも町長の目は女達をなめるように見回している。
そこでやっと町長の勘違いに気が付いた。
この中でギャルの胸が一番豊かなのである。
まあ、そんな勘違いをする程度の相手なら簡単に尻尾が掴めるだろう。
『映電、伝送をやめてアンビと一緒に居てくれ』
『は~い』
オープンチャンネルで映電に念話をかけてみる。
町長の反応はない。
かろうじてステータスがのぞける程度の魔力保有者なのかもしれない。




