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皇帝になったブラック社員  作者: 田子猫
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平和な朝

エルベレスの部屋に入ろうとした時、扉がスッと開いた。


もちろん自動扉ではない。侍女の一人が用を言いつけられたのだろう。


「よう」

「へ、陛下!?」


見た目は幼女だが、もう十分に女として成長をしているこの侍女は帝王を見て

慌てふためくのではなく目を輝かせ、ついでに頬を染めた。


「久しぶりだな、エルベレスはいるか?」

「授乳に行っております。呼んで参ります!」


小さな侍女がパタパタと回廊を駆けて行く。


「慌てて転ぶんじゃないぞ」


背中にそう声をかけてエルベレスの部屋に入ると侍女がわらわらと集まって来た。

会議でもする予定だったのか部屋の中にはメルミア、エリカそしてミリィも居る。

ソファに深く腰掛けると、彼女らは周囲を取り巻くようにふわりと床に座った。


「目が覚めるようなお茶をお持ちしましょうか、あなた」


メルミアが寝不足の目を見て言う。


「ああ、頼む」


メルミアは薬草の調合が得意である。

様々な薬効を持つお茶 (いわゆるハーブティー)も美味しく淹れることが出来る。


「ここのところずっと内政の会議が続いてね、今朝やっと終わったんだ」

「それ、私たちが先に聞いてよかったんですか?」


こういう気の回し方をするのはエリカらしい。


「大丈夫だよ。エルベレスには結構念話で愚痴ったりしているから」

「ああ、そうでしたか」

「お前たちの主人は大切な俺の妻だからな」

「はい、ご馳走さまです」


この部屋にいる者は、ミリィを除き夜の生活を知っている。

必ず誰かしら一緒に呼ばれるからだ。

エルベレスと交わることが出来る日でも出来ない日でも、必ず最初はエルベレスと口付けを交わすし、行為が終わった後はエルベレスを抱き込むように眠りにつく。

エルベレスは朝の目覚めに時間がかかるため、優一が物足りない場合には同衾した者が朝の相手を務める。だから指名されると子供を宿せる可能性が高いだけでなく朝の諸作業も免除になるため、同衾を嫌がる侍女はいない。


「優一、お疲れさまでした」


エルベレスが部屋に戻った。


「お前と会えなかった数か月が数年に感じたぞ」

「まあ」


エルベレスは軽く口づけをすると向かいのソファにゆっくりと優雅に腰掛けた。


「良い香りがするな」

「授乳香ですわ」

「赤子になりたい」

「ふふっ」

「あの」


メルミアが思い切ったように


「よろしければお吸いになりますか?」


と乳房を出そうとするので手で制し


「それは赤子の栄養だ。乳が張ったなら遠慮なく授乳に行け」

「はい」

「まあ、ベッドの中では思わず吸ってしまうかもしれんが、その時は許せ」

「あら、今日はメルミアをご指名ですか?」

「久々だしな。エリカもどうだ?」

「えっと、まだ、母に喘ぎ声を聞かれるのが恥ずかしいので、別の日でお願いします」

「わかった、それはいいとして、ミリィ」

「は、はい」


多分会話についていけずに固まっていたミリィを呼ぶ。


「冒険者基礎課程の選抜結果を見たが、詳細な分析までされていて見事だ」

「ありがとうございます」

「1つ質問があるが」

「はい」

「佐藤壮太がぶっちぎりの1位で、点数の半数以上がエルフからの献点とあったが、献点ってなんだ?」

「はい、自分の点を削って壮太の点に加えてほしいという念話での依頼が相次ぎまして」

「何をしたんだ、奴は」

「まず準備段階ですが」

「うん」

「陛下は洗い草はご存知ですか?」

「いや」

「水辺に生える草ですが、これを噛み砕いて唾液と混ぜ、体に薄く塗って乾かしてから水で洗い流すと体臭が完全に消えて3日間は獣にも探知されなくなります」

「おお、それはすごいな」

「はい、でも、この草が曲者でして」

「曲者?」

「渋くて苦く、噛んだ時の刺激もあるので、初めて噛み砕く子供は吐き戻すことが多いです」

「そうなんだ」

「はい、それで準備の時に嫌だなぁという顔をしていたら、壮太がその場で噛み砕いて体に塗ってくれたそうです」

「体にって、裸の状態で?」

「はい、皆散々奴隷で(なぶ)られてきたので、あまり裸になるのには抵抗がなくて、塗ってあげようかという申し出に喜んでお願いしたみたいです」


まあ、エルフ的にはサンオイルを塗ってもらう程度の問題だろうし、壮太にしても大好きなエルフの身体に自分の唾液を混ぜて塗り付けられるとあれば口の中の不快さなど問題なかったのだろう。


「髪の毛から足の裏まで、デリケートな部分も丁寧に塗ってくれたそうで、理性が負けて襲い掛かられるようなこともなかったらしいです」

「ああ、なるほど」

「女に触ってやろうとかいう下心じゃなくて、なんか、エルフはみんな大好き~っていう気持ちが見えるので、エルフの男より信頼されているという・・・」


ガーベラで満たされているというのもあるのだろうが、おそらくは成熟した個体にそれほど執着しないロリコンの特性がいい方向に勘違いされているのではないか。


「期間中、幼児たちが泉に引率されてきたのですが、他の者が食料の収集に躍起になっている時に、20人もの幼児を洗ってくれたほか、幼児たちの滞在時間いっぱい遊んでくれたそうです」

「ほう」

「被教育者には幼児の母もいるのですが、幼児たちが母を探してうろつくこともなく、すぐに壮太に懐いたそうで、今では子連れでガーベラの家に遊びに行くのが流行になっているそうです」

「なるほど、それで点を分けてくれと」

「はい」

「ちなみに他の人間の男やエルフの男は?」

「人間は基本エルフを蔑視していますし、壮太と現役の冒険者以外は元ご貴族様ですから言わずもがなで・・・エルフの男にいたってはあの服をいやらし目で見ますからね」

「同族から毛嫌いされる男もどうかと思うが、まあ身体だけ求められるというのはおぞましいという感覚は理解できる」

「はい、壮太はその先も優しく面倒を見てくれるというのが分かるので、エルフには陛下の次に人気があります」

「それなら来月の開校は一安心だな」

「壮太とエルフの関係がですか?」

「壮太はうまくやるだろう、というよりエルフが献身的に面倒を見てくれるのではないか?」

「はい、間違いなく」

「問題は元バカ貴族らと炭鉱で脳筋になったエルフの男だな。資格取りの冒険者は相手の種族などどうでもいい話だろうから問題はないだろう」

「教育編成を工夫します」


エルベレスがお任せを、と言った後で


「そういえばメルミアからの報告にあったのですが」

「うん」

「浜辺に異国の者が住み着いているそうです」

「漂流者か?」

「住み着いた経緯は不明ですが、妙な建物を確認したと」

「妙な建物?」

「石造りの、帝国では見慣れない様式の建物だったそうです」


『ミケ』

『はい、聞いています』

『タマ』

『なぁに?』

『明日にでも3人で浜辺を散歩してみないか?』

『わかりました、明日の朝、そちらのお部屋から連れ出しますね』

『こっそり頼む』

『はい』

『オレは何か持っていくものあるか?』

『特にないが、ミケの2歳下の妹みたいな感じで化けてくれ』

『あいよっ』


「エルベレス」

「はい」

「浜辺については俺が探る。必要があれば魔物を使うからエルフ達を遠ざけてくれ」

「わかりました」

「では夜のお楽しみに備えて仮眠するか。エルベレス抱き枕になってくれ。その良い香りに包まれて眠りたい」

「喜んで!」

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