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皇帝になったブラック社員  作者: 田子猫
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戦果拡張と壮太への試練

「辺境伯を撃破」


エルベレスが淡々と報告した。


「川沿いでの伏撃に成功しました。辺境伯溺死の模様」

「おう、うまく馬から落とせたか」


矢で馬が斃れなくても傷ついた馬が暴れて落ちれば重い全身金属鎧である。

腰ほどの水深しかなくても起き上がれなければそれまでだ。


思えば早朝の奇襲で鎧だ武器だとノロノロやっているうち、有効な戦場機動が出来る時期を逸してしまったのだろう。


貴族や騎士たちにとって平民を切り捨てるのは許容範囲である。

しかし敵と手合わせもせず我先に敗走するとなると話は別だ。

落馬を見たとして命を預けるに値しないと思う相手であれば、流れに(はま)るかも知れない、矢の飛来する川に入って助け出そうとしなかったことを誰が非難できよう。


そこまで考えてミケを見ると、ミケは静かに頷き


「気は辿れません。すでに魂は離れていると思います」


作戦室の中で静かに死亡宣告が行われた。


エルフ独自で構成している念話網の中では大騒ぎだろうが、エルベレスが喜びを顔に出すことはなかった。


辺境伯は領土運営を行うにあたっての邪魔な存在でしかなく、たまたま不平分子をくっ付けて反逆してくれたので叩き潰したのであって、どちらかと言うと自滅に近い。

貴族連中を増長させ帝王への侮蔑を引き出した前帝王の成果なのかもしれない。


結果としてエルフ達の意趣返しにもなったが、帝国領拡大という戦略上から見れば、1つの障害を排除したに過ぎない今、過剰に喜ぶのはおかしいと思うし、残敵掃討の真っ最中でもある。それを理解しているから作戦室にいる女たちはキャッキャと喜んだりしてしない。


「よし、念話で放送するぞ」


辺境伯の死と旧体制の破壊を知らしめ、反逆の芽を摘み取る。


そして次の手がすぐに打たれることを期待させる。


「全ての念話に優先するよう魔力を増幅します」


ミケが微笑んだ。


「どうぞ」


「・・・臣民に告ぐ、余に反旗を(ひるがえ)した辺境伯は、部下を見捨て我先に逃げ帰る途中、川に落ちて溺死した。帝国の剣は、辺境伯に(そそのか)され余に剣を向けた者、その領地にある者全てに鉄槌を加えるとともに貴族及びその一門から爵位、領地及びすべての権限を剥奪する。新体制を敷くまでの間、ギルド及び臣民は税を免除する」


一気に言って念話を切るとミケがふぅっと息を吐いた。

半端ない魔力を集中させていたのだろう。


「こんな感じでいいかな」

「はい、伝わりました」

「辺境伯領の鎮圧の進展に関わらず、エルフ達が王城に戻り次第祝宴を開く」

「はい」

「初日は慰労の宴、翌日に表彰を行い、国家の新体制を布告したいと思っている」

「はい」

「で、エルベレス、お前は表彰すべき各人の功績をまとめておいてくれ」

「は、はい、わかりました」

「旅団長、娘たちには表立ったことをしてやれずに任務を与え続けることになるが・・・」

「それこそ私たちの喜びです。そこはお気遣いなく」

「残敵の掃討中、何かあったら念話で呼び出してくれ。タマ、行こう」

「あいよっ」


壁に蔦が這った家

エルフらしいと言えばエルフらしい。

目の前の家を見渡していると背後に娘が2人現れた。

ミケが警護の為に送ってくれたのだろう。


「行くよっ」


勝手知ったるとばかりにタマがノックもせずに扉を開け、家の中に入って行く。


「お、やってるね」


行為中の姿を見てタマは嬉しそうだ。

考えてみればここは戦場ではない。

朝のうちに働いたら午後はそういう時間なのだ。


「あ、なんかすまん」


もともとこの世界にいた住民ならともかく、元の世界には今の時代、新婚の行為を見て楽しむ慣習はない。いきなり寝室へ4人も入ってきたら、それは驚くであろう。


「挨拶や礼儀はいらんから慌てず起きて服を着てくれ。隣の部屋で待ってる」


ソファに座るとタマが妙にご機嫌だ。

娘たちは背後に佇立(ちょりつ)している。


「タマ、あわよくば混ざろうとしていただろ」

「そ、そんなことはなくもないぞ、うしし」


この節操のなさがタマの持ち味といえば持ち味だ。

まあ、倫理感の強い魔王というのも変な話だし、この世界ではどういう形にしろ男女の営みは推奨されているどころか神聖化されている。

確実に子孫を残すことを最優先にしているからだろう。

逆に言えば、あの男が魔王であるタマに性的ないたずらをしたとしても無礼どころか喜ばれてしまう可能性がある。


「お待たせいたしました」


先に寝室から出てきたのはエルフの方で、男の方は余程泡食ったのか服を着るのにもたついているようだ。


「そう言えばお前の名前聞いていなかったな」

「本名はガーベラです。ここではエルフたんと呼ばれています」

「あ、色々察した・・・ガーベラと呼んで差し支えないか?」

「はい、陛下」


ガーベラも人間に名付けられたという事だ。

その名で呼んでもいいという事はミリィとは育った環境が違うのだろう。

エルフたんの方は・・・まあ、妻を何と呼ぼうが勝手なので、そこには触れまい。


「あ、魔王たん! と・・・」


やっと出てきた男は見た目はゾフィーの弟だが、口調は間違いなくオタク君だ。


「まあ、座れ」


男は対面に腰掛けたが、視線はタマの脚の周辺を泳いでいる。


(こいつ脚フェチか?)


「汝の名は? この世界へ来て何と名乗っているのだ」

「え? あ・・・壮太、壮太・佐藤」

「佐藤壮太か。で、ガーベラには壮太と呼ばせているわけだな」

「あ、うん」

「物語の世界に来た気分はどうだ」

「最高、エルフたんも魔王たんも可愛いし」

「何回ヤッても疲れないし、か?」

「うん」

「それ、お前だけだからな。ガーベラは普通のエルフだから、壊すなよ」

「物足りなかったらいくらでも来てやるぞ、イシシ」

「あ、こいつが魔王だってことはもう知っているよな」

「うん、魔王たんは友だち」

「ちなみに魔王ってコスプレじゃないぞ。ダンジョンとか作るの朝飯前だからな」

「ダンジョン!」

「まあ、興奮しないで聞け。そなたは魔王、エルフ王、そして帝王である余の加護を受けておる。チート能力を持っている、と言えばわかるか?」

「チート! どんなチートが使える?」

「頑張れば、頑張っただけ報われる」

「え?」

「いくらヤッても勃つのもそうだが、前の世界を思い出してみろ。頑張ったらスポーツ万能になれたか? 頑張ったら女にもてたか? 頑張ったら有名人になれたか?」

「ない、それはない」

「ここではなれるんだよ。冒険者にも勇者にもなれる。魔法だって使えるだろう。

頑張って試練に打ち勝てば成功が待っている世界なんだよ。女にだってもてるぞ」

「おお!」

「ガーベラだってお前が女にもてても嫌な顔はしないぞ、なぁ、ガーベラ」

「はい、壮太は優しいしとても気持ちよくしてくれますけど、途中で記憶が飛んでしまうというか、幸せだけど、助けて~って感じになるんです。だから放置されるのでなければ、何人女を作っても構いませんよ」

「ということだ。言っておくが可愛い子が多いぞ、ここ」

「な、なんと」

「というわけで帝王からの試練だ」

「え?」

「クエストだよ」

「あ、ああ」

「冒険者基礎課程を通過して冒険者学校に入学するために、明日からガーベラに森の中での生存技術を習い、マスターしろ」

「学校があるんだ」

「これから作るんだよ。そしてお前は前の世界の記憶があるからな。入学前にこの世界の事をマスターできれば無双できるぞ」

「が、頑張る!」

「ガーベラ頼んだぞ。目標は魔物がいる森での1週間の生存だ」

「畏まりました、陛下」

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