王妃(后)の名はミケ
寝落ち、という感覚が一番近いような気がする・・・
深夜やっつけの仕事をしている時にテンキー入力などをしている最中に突然訪れるあれだ。
ただ違うのは、ふかふかのベッドの中で横たわっているということと
目の前にベッドの天蓋が見えるという事だ
「陛下?」
いきなり聞こえた女性の声に慌てて飛び起きた、はずだった。
多分ふかふかのベッドで起きようとした事と、シーツが思いの外にしっかりかかっていたのと、声の方に振り向こうとした動作が合わさって・・・
「あ・・・」
少女の上に身体を重ねる形になってしまっている。
(これがフラグというやつか!)
優一の趣味はネットゲームやアニメ&2.5次元キャラの鑑賞という、いわゆるオタクである。
引きこもり期を経て入社したのがブラック企業だったのだが、レベル上げが好きだった優一には仕事がゲームのようなものであり、今度は会社に仕事人間として引きこもっていたところ、会社からBANされてしまったというわけだ。
(今度はBANされないよう慎重に様子を見よう)
少女は見た感じ10代前半で、前髪が目の上で切りそろえられたパッツンロング
踏んだりしないようにしているのか後ろ髪は頭の上に流れ、ベッドの下に垂れている
顔の造作は誰がこの子を操作するにしてもキャラメイクし直さないだろうなと思えるほど可愛い系に整っている。
身体を手で探ると、シーツで見えはしないが双方全裸だということは間違いなかった。
(やっぱりキャラメイク場面か)
しかし、男が乗っかった状態で身じろぎもしない少女というのは変だ。
とりあえず何か数値を変えるコマンドでも出るのかとあちらこちらを探ってみた。
少女からはその都度短い吐息が聞こえたが、どこにもコマンドらしきものは浮かんでこない。
「両陛下、朝にございます」
突然室内に女性の凜とした声が響いた。
両陛下、ということはこの少女は后、とか王妃とかいうことになる。
これは世界観の設定に関わることだな、と優一は踏んだ
どかどかどかとメイド服を着た女官らしきものたちが現れ、まるで自動人形のように無言でテキパキと少女と自分をベッドの前に並び立たせ、冷たい水で絞った布で身体を拭き、サイズが2つくらい大きいのでないかと思えるような紫色の服を着させられた。
(な、なんだなんだ?)
「あの」
慌ただしい者たちが退室すると、少女が向き直り、のぞき込むように
「あなたは本当に帝王陛下ですか?」
(か、可愛い)
と見とれている場合ではない
「な、何か不審な点でも?」
少女はしばらく首を傾げて考えていたが
「はい、先程私の体に触れてくださいました」
見る見る少女の顔が上気する
(あ、もしかしてまずかったのか?こちらでも青少年保護育成条例があったりするのか(汗))
「とっても嬉しゅうございました」
(嬉しいのかい!)
「今まで近付くだけで反発する陛下の気が、今日は体の中に流れ込んでまいります」
流石に聞いていてムズムズする
「なあ」
「はい」
「お前、俺の后なんだよな」
「はい」
「だったらお前も陛下じゃねえか」
どうも畏まった言い方は苦手で引きこもり時代の地が出てしまう。
「はい」
「どうだ、お互い名前で呼び合わないか?」
「名前、でございますか」
「そうだ、俺は優一、お前は?」
「私は生まれた時から陛下のものですが、名前を与えられてはおりません」
「じゃあ、ミケ」
そう、少女を見ていてとっさに浮かんだイメージが三毛猫なのである。
ふわっとして、猫耳をつけたらとても似合いそうな少女
長い艶のある黒髪で何で三毛猫? と思うかもしれないが
三毛猫は日本が誇る固有の猫だ。と去年のイベント資料で読んだ。
嫌がられたら別の名前にすりゃいいやといった程度のノリである。
「ミケ!!」
少女の顔がパッと輝いた
「今日初めて陛下に触れられ、初めていただいたものがミケという名前!」
皮肉ではなく、本心で喜んでいるのだと見ていてわかる
「優一と呼べ」
「ユーイチ!」
今度は遠慮なく飛びついてきたので受け止めたら、駅前などでよく見かけた恋人同士のハグのような形になった。
夢にまで見たリア充だ! ぐふふ・・・