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皇帝になったブラック社員  作者: 田子猫
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高校生勇者

「うーんいないねぇ」


タマが不満そうにつぶやいた。


誰も上空を気にする様子もないので映電はかなり近くにまで寄ることが出来た。

顔まで鮮明に識別できるが、今のところ全て魔力を帯びた者ばかりだ。


「別ルートで潜入中なのかな」

「森を進んでいるのなら精霊の警戒網にかかるはずなのですが」


エルベレスが首を傾げた。

エルフ以外に精霊も動員してくれているらしい。


「合流中の馬車の方を映して」


ミケが指示を飛ばす。


「黒い馬車が辺境伯です。そのすぐ後方の馬車に注目して」

「ミケ、何か見えたのか?」

「見えないから怪しいのです。随行する馬車は『誰も乗っていない』状態です」

「なるほど」


(それは怪しい)


切り札である以上、前線まで丁重に輸送するのは当然と言えば当然だろう。


「よし、その馬車に焦点を当てろ。ただし隠密の特性を生かして遊撃を同時に仕込んでいる可能性もある。各エルフは不意打ちを喰らわないよう警戒するよう伝えろ」

「わかりました」


異世界から召喚したのが1人だけという情報がない以上、1人の「勇者」に注目をさせておいて、複数を別ルートから潜入させるという可能性は捨てられないし、もし自分が敵なら間違いなくその手を使う。

念話が通じるこの世界では戦場においてタイミングを合わせて遊撃を行わせたり、戦力がなければ見晴らしの良い場所から偵察を行わせる事も可能である。


「念のため観戦している連中の周囲にも警備の兵を置いておけ」

「わかりました」

「なぁなぁ」


いきなり目の前にタマの顔が現れた。


(たかだか数メートルの距離、普通に歩いてくればいいだろ・・・)


「どうした、タマ」

「初恋っていつだ?」


なにを藪から棒に、と思ったが真剣そうな顔をしているので何か思いついたのかもしれない。


「13の時だが、なんで?」

「ちょっと姿を思い出してみな」


申し訳ないが実はもう、朧気にしか覚えていない。

なにせ青春していた時より2次元の嫁(笑)といた期間の方が長かったのだから。


「あ、これか」


タマがそう言った瞬間、目の前に中学生の女の子が現れた。

おかっぱ頭にひざ丈スカートのセーラー服、人懐っこい笑顔


「懐かしいな、でももう今は恋愛感情とかないよ」

「懐かしいだろ」

「うん」

「気軽に姿を変えられるのはオレくらいだからな。また神経がささくれ立ったらオレ使って恋愛シミュレーションやっていいからな」


また口調がオレっ娘に戻っている。


(そうだった、タマがというよりその子の一人称が「オレ」だった・・・)


にやっとしてからタマは姿を変えることなく、ゆっくり元の位置へ歩いて戻った。

タマに心配されるとは、よほどひどい顔をしていたに違いない。


「馬車止まりま~す」


間の抜けた映電の声が部屋中に響いた。


「4人だな」

「4人ですね」

「もう任務付与されているみたいだな。(たむろ)している連中に目もくれずに歩き出した」

「魔力は、ないですね」


ミケはもう何度もそのあたりを魔力で探査している。

そのミケが言うのだから、召喚された人間であるのは間違いないだろう。


「エルベレス」

「はい」

「エルフの中に芸達者な奴はいるか?」

「芸? ですか?」

「うん」

「芸、というのが人を喜ばせる、という意味でよろしいのでしたら皆それなりに出来ると思いますよ。基本的に人嫌いではないので」

「では2名にあのパーティーと友好的に接触させてくれ。場所は、アンビの『巣』の近くがいいな」

「わかりました。すぐ伝えます」



「いつもこうやって見ていたのか」


選ばれたエルフにはタマが「目」を付けた。


魔力を覗きに使う時にはこの位置につけるという解説付きでだ。

映電のスクリーンの左側に森の中を走るエルフの後ろ姿が映し出されている。

周囲の風景が流れているのは2人がすさまじい速度で森の中を駆けているからに他ならない。


道路に出るとさっと進路を左に変え、カーブの内側に回り込んだ。

普通見通しの悪い森林内のカーブでは攻撃手段を整えながら大回りするのが定石である。あえて小回りをしたのはこのカーブで召喚者たちと接触するのを「知っていた」からに他ならない。


「きゃぁぁぁ」


作戦室に彼女らのわざとらしい悲鳴が響く。

こちらの音は向こうに伝わらないのでエルベレスの念話頼りであるが、向こうの音は全てこちらに伝わってくる。


「あう」


痛そうな演技をしているが、実は転んでもいないし誰ともぶつかってはいない。

召喚者たちの目の前で前回り受け身をしただけのことである。


「だ、大丈夫?」


とっさに駆け寄ったのは紺色のブレザーとクリーム色のベスト、そして紺色の短いスカートをはいた所謂JKで、同じブレザーにスラックス姿の男子2名はフリーズしている。もう1名は少し離れているのか視界には入っていない。


「に、逃げてくださいぃぃぃ」


エルフの1人があわあわした表情で言う。


「この先にドラゴンがいますぅ」

「ドラゴン!!」


やっと男子たちはも我に返ったようだ。


「ドラゴンはとっても強いですよぉ、逃げるときに弓撃ちましたけど、弾かれましたぁ」


まあ、実際うろこがあるのでアンビに普通の矢を射かけても弾かれるだろう。


「どうしよう」


JKはおろおろし、男子たちは困った顔をした。


「俺たち王城ってところへ行って悪逆非道の帝王ってやつを討ち取らなきゃならないんだ。困ったな」

「王城?」

「知ってる?」

「うん、王城だったら森の中を通って行けば安全だよ。案内するからついて来て」

「ラッキー、頼むよ」

「待って、まだ荷物持ち来てないじゃん」

「いいっていいって、あんなクズドラゴンに食われたっていいじゃん」


どうやら仲の良いもの同士というわけではないようだ。


「ねぇねぇ、誰か遅れてるんなら私が案内して追いかけるから、ミリィ、3人を先に王城に案内してあげてよ」

「わかった、お兄さんたちこっち来て」


ミリィ(仮名)はにっこりと微笑んでから森の中に3人を誘った。進む方向は「北」である。

見た目可憐な金髪少女のエルフを3人ともすっかり信用しているようだ。


「よし映電は道路を逆方向に戻りながら敵の主力のところへ戻れ」


映電の画像はすぐに立ち止まって息を整える男子の姿を捉えたが、止まることなく集結地へと急いだ。


ミリィ(仮名)は3名を引き連れてかなりゆっくり森の中を歩いている。

今度は景色がはっきりと見える。

残されたエルフの方は大きな木の裏側で武器や鎧を脱いで隠し、道路上に出た。


「お兄さん、大丈夫?」


ぜえぜえ喘ぎながら歩いてきた肥満体の男子は同じ青のブレザーを着ていたが、両肩両手を塞ぐ状態で4人分のバックをぶら下げていた。


「はぁはぁ」

「ねえ、少し休憩しない?」

「お、追いつかないと・・・」

「あのね、この先ドラゴン出るから、3人は私の仲間が森の中を案内して先に王都に行ったよ。あなたはドラゴンが飛び去ってからゆっくり来ればいいって」

「そ、そうか」


よく思いつくものだ、と感心する。


「お兄さんはたくさん食べ物持っているみたいだし、少しくらい遅れたって大丈夫だよ。お話ししようよ」


しかしこのエルフは大したものだ。段列は出来るだけ引き離すべきだということを心得ている。


「そ、そうだよね」


男はエルフに誘われるまま森に入り、木漏れ日の美しい場所の倒木の上に鞄を置いて腰を下ろした。


「4人分の荷物持つなんて、お兄さん力持ちなんだね」


そう言いながら腕に(すが)りつく様子は、エルフの技というよりは単なる色仕掛けであるが、男には全く不審に思われていないようなので良しとしよう。

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