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皇帝になったブラック社員  作者: 田子猫
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出陣式と勇者召喚

「まあ、なんと神々しい」


ミケの着付けを担当した子爵令嬢が感嘆の声を漏らした。


「おう、ミケの美しさを最高に引き出せているな」


長い黒髪に銀色のティアラが輝き、控えめな頬紅と口紅が整った顔に品位を与え、ダイヤと紫水晶を散りばめたネックレス、宝石がちりばめられレースの多用されている紫のコルセット付きドレス、そして后にしか許されない輝く白色のサッシュ


「隣に立てることを誇らしく思うぞ」


おべんちゃらではない、本心だ。


「ユーイチこそ大元帥の正装凛々(りり)しいですわ」


凛々しいと言われても自分で自分を見られるわけではないので実感が湧かない。

行事の時は魔封じのため鏡は全て遮断幕で覆われるからだ。

化粧や着付けは技能に長けた令嬢が行うしきたりである。


「では、出ようか」

「はい」


今日はバルコニーへ隣り合って歩を進める。

背筋が伸び、視線を高く保つミケには本当にドレスが似合う。

横目で見ていることに気付いたミケがにこりとする。


「ずいぶん人がおりますね」

「ミケが無駄遣いを許してくれたからな」


普段なら閑散としている王城の前庭に旅団のうち900名が整列し、ヘッドクオーターの100名で沿道を含めた警備を行っている。爾余(じよ)の4,000名はこっそり夜のうちに戦場に転移させて防御準備をさせている。


無駄遣いと言ったのは、市民や随伴する冒険者を引き付けるため、パンや精肉、醸造に係るギルドに露店の出店を求め、無料配布させるため料金前払いを行ったことを指している。

つまり王城に来るだけでパンや腸詰、酒類が無料で食べ放題、飲み放題になるのである。ギルド及び宿屋で一晩宣伝させただけだが、兵の整列位置以外は身動きがとれるかどうか怪しいほど人で埋まっているので、口コミは有効であるという確証を得た。

まあ、一夜の準備で出店できた商人達も相当な力量ではあるが。


「捧げ、(とう)


見目麗しき人間型の魔物である指揮官の号令で900名が一斉に刀礼をした。

主兵装の槍でなく刀を装備させたのは間者対策であることは言うまでもない。

元の世界で言うところのアイーダトランペットが吹奏される。

どうやら軍楽隊という概念はまだないようだ。

答礼をし、刀が肩の位置に戻るのを待ってミケに声の音量を増幅させる。


「我が精鋭たちよ!」


(なんか悪の帝王という感じの呼びかけだな・・・)


「そして我が愛しき娘らよ」


(こっちの方がしっくりくるな)


「愚かにも反逆を企てし者たちに慈悲なき鉄槌(てっつい)を加え,一兵残らず殲滅(せんめつ)し、辺境伯の領地を焦土に変えよ。凱旋した汝らと酒を飲み交わすことを楽しみにしておるぞ」

「我ら命に代えても陛下に戦勝を捧げます」


指揮官は刀を高く掲げ(とき)の声を上げた。


「えい・えい」

「おー!!」


割れんばかりの声で部隊は叫ぶ


「えい・えい」

「おー!!」

「えい・えい」

「おー!!」


(日本式か、やはり俺の娘なんだなぁ)


部隊はすぐに観閲行進に移り、そのまま正門から戦場に向け出発した。

参加予定の冒険者などは後ろにくっ付いていったが、目立たぬようにこっそり抜け出している者もいる。間者であろう。


部隊のいなくなった前庭は無料の飲食物を求める市民が押しかけて一杯になった。

彼らは別に帝王の顔が見たくて来たのではないのは分かっている。

さっと背を向け、ミケと一緒に作戦室に入ることにした。


「皆揃ってますね」


珍しくミケが優一よりも早く会議のために集まっていた者達に声をかけた。

タマは腸詰を(かじ)っている最中だしエルベレスはミケの装いに目を奪われて我を忘れた表情になっているが、それは問題ではない。


「深夜に魔法の振動があったこと、皆気付いていると思います」


(振動? いや、ミケと一緒に寝ていたのにまったく気付かなかった(汗))


「震源を辿ったところ、辺境伯領で禁忌魔法が発動されたところまではわかりました」

「禁忌魔法?」

「あ、まだ説明していませんでした。禁忌魔法とは生命の理を覆す魔法で、昨夜発動されたのは召喚魔法です」

「召喚魔法って、もしかして異世界から勇者を召喚するっていうあの?」

「ご存知でしたか」


(異世界勇者関連作品の定番だからね)


「入れ替わりでなく召喚したというのは、私達の立場でわかりやすく言えば、渡れる時期でない時に向こうの世界に引っ張りこまれるのと同じです」

「え? それってただの迷惑でしかないだろ」

「はい、私たちが向こうの世界に置き去りにされれば体内の魔力が切れるのと同時に魂ごと消滅します。今回はその逆パターンですね」

「召喚されると戦闘力が上がるとか魔法が使えるようになるとか?」

「そんなことは起こり得ません。その人はその人です」

「能力は上がらないって、召喚することに何の意味が」

「召喚のメリットは洗脳と隠密です」

「洗脳と隠密?」

「あーそれ」


腸詰を食べ終わったタマが進み出た。


「見るのが一番早いから、ほれ」


何の予兆もなく目の前にブレザーとチェックスカート姿の女の子が表れた。

ショートボブのその子はとろんとした目をしている。


「お前は母親が大好きになる、料理を一緒にしたくなる」

「私は母親が大好きになる、料理を一緒にしたくなる」

「よし帰れ」


刹那その子は消えた。


「今の女の存在を探知できた?」

「いえ全く」


エルベレスが目を見開いている。


「魔物や精霊、ましてや人間ではないことは分かります。魔力が存在していませんでした」

「今のは幻?」

「幻じゃないよ。向こうの世界で紐をつけている奴の中に反抗期で暴れている女がいたから、ちょっと引っ張ってきて洗脳してみた」

「タマ、とてもよく理解できたけど、今振動とか起きなかったよな」

「私を誰だと思ってるのさ」


そう、タマはミケと同じ能力を持つ遊び好きな魔王である。

世の魔力の流れを把握している2人にとってこれくらい朝飯まえなのかも知れない。

そしてすぐ元の世界に戻したのは、この術で長くこちらに留めることは相手に悪影響を及ぼすということで間違いないのだろう。


「ということは、振動が起きるのは術者が下手だということ?」

「下手も下手。壁に大穴なんか開けようとするから、拒絶反応が起こるのだ」

「そのあたりの原理はともかく、異世界から誰かを召喚し、洗脳して放った可能性があるということだな」

「はい」


ミケが少し困った顔をしている。


「それが刺客だった場合、私には接近を探知することできないということです」


好きな女にシュンとされては男を見せるしかない。


「映電!」

「はい」

「すぐに戦場上空に飛べ」

「はい」

「危険を冒さず接近できるぎりぎりのところで敵を出来るだけはっきりと視認しろ」

「戦場上空から敵を視認します」

「よし行け」


映電は走り出て行った。

すぐに屋上で変化して飛び立つに違いない。


「ミケ」

「はい」

「映電が送って来る映像を分析し、魔力を伴わない者を視覚にとらえよ。そいつを追跡することがこの戦いの鍵になるという予感がする」

「わかりました」

「エルベレス」

「はい」

「遊撃隊の配置はどうだ?」

「終わりました。囮役を除き森林内で潜伏しています」

「よし、囮は矢を射掛けたらすぐに退避させろ。真面目な戦闘に巻き込まれるなよ」

「はい」

「今回はアンビと遊撃隊が蓋の役目を担っている。頼んだぞ」

「お任せください」

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