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皇帝になったブラック社員  作者: 田子猫
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軍勢を増やしてみよう

王宮の地下に下りた途端、目の前に赤い羽根つきの兜、銀色に輝く胴、白い脛あてそして鏡のような盾という目立つことを目的としたような姿の重装歩兵が表れ、案内についていくとぎっしりと整列した部隊に迎えられた。


「お前がここのリーダーか?」

「はい」


優しく微笑むその少女は、兜を外した出で立ちで、髪を短く纏めてはいたがミケを成長させたような少し幼さを残しつつも均整の取れた顔つきをしていた。


「代表がいないと不便なので便宜上私が統轄しております。顔や能力は皆同じです」

「そうか」

「個人の戦闘技能は主に魔法攻撃と槍術で、魔法攻撃は凝縮させた魔力を撃つことが出来ます」

「イメージとしてはファイアフライの縮小版だな、わかった」

「御覧いただいている部隊につきましては、100名ずつ10個の戦闘単位に分けています」

「うん」

「私を含む1個単位はヘッドクオーターとして、指揮と警護を担当いたします」

「うん」

「残る9個単位は3つずつ3個の戦術単位にしています」

「うん」

「作戦の方針を示していただければ展開と細部の指揮はお任せいただけます」

「うん」

「そして全員が生殖機能を保持しています」

「うん?」

「いただけた精の数に応じて身体が分裂し、約1日でこの姿に成長します」

「んん?」

「何かご不審な点がございますか?」


(軍を増やしたけりゃ自分で増殖させろというタマからのメッセージかな)


「えっと、まずは、軍を動かしたいときはお前に命ずればよいのだな」

「はい。直接でも念話でも結構です」

「お前たちは俺の娘という認識でいいのか?」

「どのような認識でも結構です」

「ちなみに聞くが、お前たちの自我は」


『おっとだめだよ~』


いきなりタマの念話が割り込んできた。


「タマか、いきなりびっくりするだろ」


『それ以上難しい話しないしない。命令に従ってそれをやり遂げる以外の価値観は持たせてないからね。人としての価値観なんて植え付けないでね。

あとは、自分の意志で逃げたりとかは出来ないようにしてあるから、死んでも気にしちゃだめだよ。じゃっ』


(やっぱり覗き見しているのかよ・・・)


「では早速王城の警護に当たれ」

「はい、ヘッドクオーターで警護にあたります」

「この広さをたった100名で大丈夫なのか?」

「はい、私たちは疲労や睡眠、食事などで交代する必要がありませんので十分です」

「ミケ、近衛との調整とかは?」

「大丈夫です。もともと近衛は儀式用のお飾り程度の戦力なので」

「やっぱり王城を守っていたのは実質ミケだったか」

「はい」


まあ、ミケへの余計な負担が減るのは良い事だろう。


「わかった。細部はミケに任せる」

「ユーイチ、少しいいですか?」


返事をする暇もなく、ミケに腕を引っ張られた。

引っ張り込まれたのは使っていない部屋で調度は何も置かれていない。


「どうした?ミケ」

「さっきタマと繋がってました?」

「うん、ちょっとの時間だけど繋がったよ。今も見てるんじゃない?」

「そうですか、秘匿通信を使ったのですね」

「秘匿通信?」

「はい、念話自体は誰とでもできますが王相互はちょっと特殊で、話したい王の顔を思い浮かべて強く話したいと念じます。その状態で話すと他に話が洩れないので秘匿通信と呼んでいます。各王と私にしかできないので一般には知られていません」


(ああ、いわゆるホットラインか)


「そうなんだ、ちょっとやってみてもいかな?」

「はい」


ミケとタマは話し慣れているのでエルベレスの顔を思い浮かべる。


「よし、エルベレスの顔が浮かんだ」


(ちょっとドキドキするな)


『エルベレス』

『はい、お呼びですか』

『今夜訪ねてもいいか?』

『はい、お食事はこちらでとられますか?』

『酒とつまみくらいでいいよ』

『わかりました、お待ちしています』


「出来た」

「えっと、今何を話されたか聞いてもいいですか?」

「エルベレスに今夜行くから酒と肴用意して待っててくれと」

「わかりました」

「わかりましたって、あれ?」

「心配しなくても私は同行しません。それとももしかして、嫉妬してほしかったのですか?」

「あ、いやいや」

「しませんよ。私は私が一番愛されていることを知っていますから」

「そりゃミケは理想の美少女だし、上手にリードしてくれるしね」

「嬉しいのですけど、リードなんかしていません。せいぜい接合がうまくいくように体の動きを合わせているくらいです」


(しれっとエロいこと言うよ、この娘)


「俺はこっちの世界に来るまで女の子とリアルにお話すらしたこともなかったのに、いきなり女の子とやりたい放題だろ。正直理解がついて来ていない」

「世界を構築できる帝王ですもの。あら、何かツボに入りました? 少し興奮されているようですけど」

「って、いきなりそこ掴むか?」

「ふふ、せっかくですから軍勢を増やしましょ。分裂するところ見たいですし、何人か呼んできますね」

「お、お~い」


ミケは楽しそうに部屋を出て行った。



「それはお疲れさまでした。今日はゆっくりお寛ぎくださいね」


身体が沈み込むほど柔らかなソファに隣り合って座ったエルベレスが遠慮がちに顔を覗き込んでくる。


「精力回復の秘薬お持ちしましょうか?」

「いやいや、エルベレスを抱きたくて来たわけじゃないから、気にするな」

「・・・はい」


(なんかすごく残念そう・・・エルベレスは行為自体好きでないと思っていたが)


「それより、見知らぬ侍女がかなり増えたようだが」

「はい」

「皆幼く見えるが、20歳前後か?」

「ご明察です。みんなこちらにおいで」


エルベレスが呼ぶと、いかにも小学生がコスプレしていますという感じの少女が6名目の前に整列した。

全員が金髪ということはエルベレスからスムーズに魔力が流れているということであり、何かしらの魔法を使うことが可能であることを示している。


「この子たちはまだ戦力として外には出せませんので、ここで育てたいと思います」

「うん、いいよ。ちなみに今までひどい目に遭ってきたのか?」

「はい。なので失敗を異常なほどに怖がる傾向があります」

「そうか」

「優一がここでは一番偉い存在だというのは皆理解しています。この子たちにお言葉をいただけますでしょうか」

「もちろんいいとも」


目の前に並ぶ少女たちは皆真っすぐ目を向けている。

帝王への恐れを態度に出していないのは評価できる。

エルフの誇りだろうか。


「まあ、気を楽にして聞け」


もともと主催者のスピーチのようなものをイベント当日に言われて書き上げるような仕事は珍しくなかったから、即興でそれらしいことを言うのは苦ではない。


「今エルフ王がお前たちのために言葉をいただきたいと言った。その意味が分かるか?」


そう言って間を置く。


6人ともきょとんとしているが、もともと返答など期待してはいない。


「エルフ王はお前たちを家族だと言ったのだ。エルフ王は俺にとっても家族である。ゆえにお前たちの事も家族として扱う。その上で」


ここで言葉を切って見渡す。ちょっとしたテクニックである。


「お前たちにはこの城の下女として抜きんでた専門性とエルフ王直属の臣下としての誇りを身につけてもらう。ただし」


少女らの表情から話に食いついてきたことがわかる。


「失敗を恐れるな。ここにはお前たちを鞭打つ者はいない。エルフ王さえ守られていれば何を壊そうがうまくできなかろうが、問題ではない。1つのことを身につけるために何日費やしてもかまわん。そしてそれが出来る者は助言をしても仕事を取り上げたり蔑んだりしてはならぬ。

1人1人が自分にできる最善の行動をとれ。その結果うまくいかなければ、どうすればうまくいくのかを考えて、違う方法を試すのだ。

金や物が必要になったら遠慮をせずに言え。黙って一人で苦労を背負い込むな。

今エルフ王を完璧に支えられぬことを嘆くのではなく、これからエルフ王に喜んでもらえる機会を持てたことを喜ぶのだ」


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