貴族を召し出した
「本日召集したのは他でもない」
久し振りの硬い玉座に内心げんなりしながらも、厳粛な雰囲気で広間に整列した貴族がしっかりと聞き耳を立てていることに満足した。何を思っているかなどということはどうでもいい、
「魔王に反逆し、人間を滅ぼそうと企図をする魔物たちが帝国に攻勢をかけるために集結中との情報を得た。魔王よ、補足を」
「はい」
背後に控えていたタマが玉座の右に進み出た。
今日は黒髪のナチュラルなボブで背が高いグラマーな美人に化けている。
ラメの入った黒いドレスに手縫いでつけたと思われるスパンコールが何となくタマらしい。
「現在叛徒は帝国領を出てすぐの北の森に集結をしてるよ。細部は隠蔽の魔法がかかっているため、動かない限り同じ魔族では感知できないのが問題」
「エルフ王よ」
「はい」
玉座の左側に進み出たエルベレスは金髪ストレート、緑のロングドレスは魔法耐性が付与されたミケ製のものだ。
「エルフには隠蔽の魔法を見破れる能力があったな」
「はい」
「帝国のエルフ全てをもって偵察と遊撃の準備。帝国はこれより貴族平民を問わずエルフの所持を禁ずる。全てエルフ王に差し出せ。一刻の猶予も異議も認めぬ。その代わりエルフ王は来週月曜までに魔物の位置と種類を特定してもらいたい」
「承りました」
「全貴族に命ずる。月曜までに出陣の準備を整え待機せよ。敵情が判明次第集合点及び作戦計画を念話で送る。王城の守備は后に、内政は第1王女に一任する」
「御意」
背後から第1王女の声がした。
今日は黒髪をしっかりと手入れして艶やかでサラサラの仕上げにしてある。
化粧と至高の紫色のドレス、そして光を反射しやすい装飾品を選んで身につけているので先日とは別の人間と言っていいほど雰囲気が違う。
「この度の戦いは領土に入れさせぬために貴族全力であたる。王城守備の近衛も予備兵力として同行させる。以上だ。何か補足あるか?」
「はいはーい」
タマが手を挙げた。
「北側は戦場になるので、魔王プレゼンツお金を落とす魔物ちゃんや宝箱ウハウハのダンジョンは東の草原に移すから、腕試しをしたければどうぞ。平民と一緒でもよければだけどね」
「ああ、魔物との模擬戦だな」
「うん、ちなみにダンジョンの最下層にいる奴より叛徒は強いから、本当に腕試しくらいにしかならないけどね、宝箱に一流の防具や剣を入れておくのでよければどうぞ」
(まあ、貧乏貴族は喰いつくだろうな)
「なお、この度の出陣にあたり、先日捕らえた宰相以下は貴族の身分を剥奪し、平民の罪人として市場の刑場で斬首を行う。罪人どもは長年国の予算を不正に着服し蓄財を行っていた。よって一族に連なるものも全て身分剥奪及び資産没収とする。身分剥奪は速やかに后が、資産の没収は近衛が行え」
「畏まりました」
「以上である、解散!」
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時は半日遡る。
久し振りに後宮でミケの身体を堪能していると、第1王女が部屋に入ってきた。
無論ミケが事前に探知していたので不寝番には王女をそのまま通させ、自分たちはガウンだけを着て応接ソファで対応した。
「で、どうだった?」
「どうだったもこうだったもありません!」
(何を逆切れしているのだ、この娘は?)
最初は裸にガウンという格好でミケと密着して座っているのが気に入らないのかと思ったが、考えてみれば後宮では寝るときに何か着るという習慣はない。
寝ているか灯火の下で性交を楽しんでいるかの微妙な時間帯をわざわざ選んでやってきたのだから、誰にも聞かれたくないの話なのは分かる。
「何がこうだったもありませんなのだ?」
「でたらめです」
「だから、何がでたらめなのだ?」
結論から先に話すということを躾けられていないのか・・・
「あらゆる帳簿の数字が合っていません。膨大な資金が常にどこかで消えています。王宮用に発注された物品を各地の貴族が受け取っています。備品を管理している簿冊もありません。それどころか堂々と持ち出されて市場で売られています」
「ほう、よく調べたな」
「王宮は土台から腐っています。官吏は全員多かれ少なかれ不正に懐を温めています。シロアリです。駆除しないと大変です」
「分かった、まとめて駆除しよう。今ある帳簿類は証拠として保全しておけ。
内政に必要な部署を編制するとともに、人事を任せるので身分を問わず有能な者を探し出し抜擢せよ。国内どこでも自由に見て回れ。護衛はつけるがな」
「え、本当に?」
「ちょうど明日貴族どもに召集をかけている。改革をやりやすくしてやろう」
「私の話を全部信じた?」
(帳簿のでたらめさを知っていたからな)
「お前が嘘をつく理由などないではないか。希望通り嫁に行く暇もないくらい忙しくしてやろう。それにさっさと終わらせたくてこの時間に来たんだろう?」
「はい、夜遅くに失礼しました」
「これからは公務の話なら昼間来るが良い。優先して通すよう言っておく」
「はい」
「改革には抜け道という悪知恵を思いつかせないだけの速度が必要だ。帝王の名前を出してよいから強硬に行え。泥は全て被る」
「はい」
「それと、疲れたらいつでも俺とミケのベッドに入って来い。話を聞いて頭をなでるくらいのことはできるからな」
「いいのですか?」
「かまわんさ、娘だろう。それでも足りなければ、混ざってもいいが?」
「御免被ります!!」
第1王女は勢い良く立ち上がるとさっさと退出して行った。
薄暗がりでよく見えなかったが、顔を真っ赤にしていたに違いない。




