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皇帝になったブラック社員  作者: 田子猫
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エルフの弓戦士

俺はエルフに関しては多少こだわりがある。


やはり尖がった耳と金髪のさらさらストレート、活動的な緑の上衣とミニスカート、そしてブーツを履いて弓矢を背負う。


という設定を話したところでミケが不思議そうに


「それだと常に発情状態になるのでは?」

「ん?」

「貴族なら夜は灯りを使えるし魔術で照らすことも可能ですが、平民はその術を持たないので、だいたいは午後から夕方にかけて人目につかない場所で子作りをします。何が言いたいかというと、尻を丸出し状態というのは即挿入OKってことなんです」

「ああ、スカートが短いと大変なことになるってこと?」

「はい、異性にに性器を見せたら『エッチしませんか?』と誘ったと見做されます」

「ん? 確か後宮の女官たちもスカート短くしてたよな?」

「後宮はいいんです。男はユーイチしかいないでしょ、後宮なんだから」


(それで平民の服は興味ないとdisていたのか・・・)


「スカートの下に何もつけないってことだと、毎月大変じゃない?」

「え?」

「生理の時に垂れ流し状態になるのでは?」

「ああ、経血は神聖なものという考え方ですから」

「そうなんだ」

「はい」

「布1枚でも隔てればスカートが短くても大丈夫?」

「はい、直接見えるのでなければ」

「ちょっとミケ、魔力を同調させて意識を覗いてくれ」

「はい」


アニメなどで見たパンチラシーンをイメージする。


「あ、そういうことですか」


ついでにエルフの姿もイメージしてみる。


瞬間、メルミアにはイメージ通りの服が着せられた。

耳の形も変わっている。魔法でそう見えるようにしているだけなのかもしれないが、

瞳の色も鮮やかな緑色になって別人にしか見えない。


「弓矢は街で調達できるでしょう」

「おお、素晴らしい」

「この国にいるエルフとは違う印象を与えるので、エルフが進化したという設定ではいかがでしょうか」

「おう、それじゃハイエルフの戦士ということでどうだ」

「わかりました。そのようにステータスを書き換えます」


一般的に魔力を魔法として扱える人には相手のステータスを読み取る能力があるらしい。


「いきなり伯爵夫人から戦士にしてしまって済まんな、メルミア」

「いえ、とても楽しいです」


実年齢はともかく見た目は高校生ぐらいなので、ゲームで見かける美少女エルフそのものだ。


「特殊能力をつけておきました。これはどのような弓を装備しても、放つだけで思った場所に矢が飛びます」



辺境伯の領地は城塞都市とそれを取り囲む村からなる。

村に大富豪一行は目立ちすぎるので、城塞都市に入ることにした。


「あなた」


メルミアとミケは夫婦という設定にした。金や権力があれば何人でも妻や愛人や奴隷を抱えられるというのがこの世界の常識だから不思議なことではない。

ミケはもともと「ユーイチ」と呼んでいたが、メルミアは名前をお呼びするのは畏れ多いと言うので「あなた」という呼称を用いるようにさせた。


「これを着けさせてください」


メルミアの掌の中に、可愛らしいブローチのようなものが見えた。


「いいぞ」


城塞都市への入門検査の待ち行列の中にいたので、背の低いメルミアに合わせて屈み、胸にブローチ状のものをつけてもらった。


「これは世界樹に咲く幻の花を象ったもので、魔力を込めて作った花の装身具を将来を誓った相手に渡す慣習がエルフにはあります。奴隷に落とされると魔力を扱えなくなるので人間は知らないと思いますが、エルフは皆知っています」

「そ、そんな大事なものをもらっていいのか?」

「あなたにすべてを捧げるという誓いです。それにこれを着けていればエルフは自分の敵ではないと認識します」

「それは、ありがたいな」

軽く口付けをすると立ち上がった。

列が動いたからだ。


「うちは明朗会計だよ」


領主が夜会を開くらしく、宿帳への記入が必要な高級宿は下級貴族が押さえていたため標準レベルの宿へ来たのだが


「毎日泊り料金を1人5銭置いて好きな部屋に入りな。食い物は外に食い物屋がある。風呂に入りたい奴は公衆浴場へ行きな」


という素泊まり専用で、寝台も藁が敷いてあるだけで、嫌ならシーツは自分で持ち込めというスタイルだった。

部屋の区切りがあるだけ良心的というわけだ。

下級の宿だと1・2銭で泊まれるらしいが蚕棚状態らしい。


「まあ、仮の宿ですし、寝台も1つあればいいでしょう」


部屋入口の扉には鍵そのものが存在していなかったのでミケが他人が侵入できない結界を部屋の中に張る。


「これで何か荷物を置いても大丈夫です」

「シーツを買いに行きませんか」


メルミアが真剣な顔で


「寝台に敷かれている藁はどうせずっと入れ替えてないので虫が湧いているでしょうから」

「それは勘弁、ちなみにリネンも普通に売られているのか」

「多分あります。メルミアの武器も必要ですし、買い物に出ましょう」


ミケがどこから取り出したのか、銅銭がいっぱいに詰まった袋を目の前に掲げ、手渡して来た。


「わりーなお客さん」


剣の看板がかかった武器屋でガマガエルのような顔をした親父が別に悪いとも思っていない口調で


「昨日貴族様がありったけの武器をお買い上げになって、鍛冶屋に発注出したところでさ」


(だったら閉店しとけよ)


と思ったところで気が付いた。


「店開いているってことは全くないわけじゃないんだろ?」

「まあね」

「残ったやつを見せてくれ」

「いや、残ったやつじゃなくて返品されたのがあるんだ。あんた弓は使えるかい?」

「弓なら妻が使う。戦士だからな」

「じゃあ、ほれ」


武器屋の親父は短めの弓を取り出してカウンターに置いた。


「時代はロングボウなのに貧弱だし狙ったところに飛ばないからと返品されてきた」

「おいおい、商品を悪く言っていいのかい」

「実際短いし華美さはないし、そのくせ弦がきつくて引くのに苦労する割には真っすぐ飛ばないって話だ。矢も今時黒曜石に何だかわからん羽を巻いてやがる。

緑の奥さんだろ使うの。ちょっと外で試し射ちしてみな」

「はい、お借りします」


メルミアは素直に弓矢をつかんで外に出た。


「まあ、残ってるのはあれだけなんで、気に入ったら買ってくれ。そしたら今日はもうおしまいだ」

「この辺でリネンを売ってる店があったら教えてくれ」

「リネン?」

「ああ、安宿しか開いてなくてな。シーツがなければ寝られそうにない」

「それなら城門の脇の皮なめし屋を奥に行ったところに貴族様御用達の店があるぜ。平民にはシーツなんか縁がないからな」


「この弓すごい!!」


エミリアが興奮した様子で店に戻ってきた。


「ねえあなた、私この弓がいいです」

「そうか!」


その言葉に店主も興奮したらしい。


「20銭でどうだ。えびらの中の矢だけでなく100本新品の矢をつけるが」

「買おう」


どさどさと積み上げた矢の出来もかなりいいように見える。


「本当に20銭でいいのか? 安すぎるような気もするが」

「まあ、返品された奴だしな。気に入ったかい? 奥さん」

「はい、貴族に買い上げられなくて良かったです」

「ちなみに真っすぐ飛んだかい?」

「それは飛ぶに決まっています。とねりことか、材料がもう、すごすぎて・・・」

「ほう、わかるかね」

「弓も矢も、エルフのために作られたとしか思えないです」

「そうか、なら今度はエルフ向け商品もそろえてみるか」


弓を気に入ったエルミアは、以降どこへ行くにも公然と弓を携行することになった。

平和な時代でもないので、武器を携行して顰蹙を買うことはない。

武器そのものが物騒というような概念が存在していないのだ。

公然と武器を携行する戦士よりも、無詠唱で人を吹き飛ばせるミケの方がこの世界では物騒なのかもしれない。

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