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皇帝になったブラック社員  作者: 田子猫
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伯爵令嬢エリカ

目を覚ますと美しい幾何学模様

ベッドの天蓋に描かれた模様

うっすらと香る寝台に撒かれた花びらの香り

いつになくスッキリした目覚めだ。


(転移で帰ってきたのか)


一昨日と違うのは左側にぴったりとミケが体を寄せていること


「おはよう」


今度は抵抗感なくミケの唇に口を付けることができた。


「起きてるんだろ?」

「はい」


ミケは素直に目を開けた。


「お前素直だね」

「はい?」

「このまま寝たふりしていることもできたのに」

「あ、その方が良かったですか? 目が覚めたら色々しにくいですか?」


(今更目を閉じるなよ・・・)


「いやいや、本気で寝ている子にあれこれする趣味はない」

「わかりました」


ミケが体を起こすとシーツが滑り落ちて小さいながらも形の良い胸が露わになった。

手を伸ばすと嫌がらずに、それどころか身体をこちらに傾けてまで触らせてくれる。

ゆっくり感触を堪能し、そのまま手を滑らせて下腹部の上を撫でる。


「昨日は、その、大丈夫だったか?」

「あ、その、暴れてしまって、ごめんなさい」


途中でなぜかミケがパニックになってしまい、仕切り直したことを言っているのだが、それはおそらく優一の経験値不足が原因である。


「え、いや、あれは、その・・・」

「13年もブランクがあったので、きっと体がびっくりしちゃったんです」


(うわ、13歳だったのか・・・)


「大丈夫です。今もちゃんと入った感じが残っているので、次は体もびっくりしないです」

「すまない、なんか無理やりだったみたいで」

「違います、違います」


ミケは顔を真っ赤にして


「本当に心から好きだと思えたのは初めてだったんでびっくりしちゃっただけなんです」


(な、なんだって・・・)


これ以上聞くと押し倒してしまいそうだったので話題を変えることにした。


「そういえば、ゾフィーは?」

「バカ女がいた部屋に押し込みました。後で会いに行ってやってください」

「ゾフィーの弟は?」

「面倒だったので牢に入れて餌は与えています。別に村へ転送しても良かったんですが、ユーイチの指示を受けようと思って」


奴隷だった姉を買い戻したいというならともかく、返せなどという愚か者には相応しい待遇だろう。


「うん、えらいぞミケ」


掌を胸に戻して軽く撫でると気持ち良さそうな表情をする。


「両陛下、朝にございます」


凛とした声が響いた。残念、タイムオーバーだ。


今朝は月に一度の食評の日という、要は食事について直接あーだこーだ批評する日らしい。朝、昼、夜はそれぞれ別の日に設定されているのだそうだが、聞いただけですごく面倒臭そうだ。


(まあ、帝王のお仕事の1つだろうから嫌な顔をしてはいけないよな)


「両陛下ご入場!」


わざわざ朝食を別ホールでとる必要があるのかいとバカらしく感じながらもミケと腕を組んで進む。ミケはドレスと宝石で飾り立てると威光を放ち美しく見える。ま、ミケを鑑賞するイベントだと思えばいいか・・・


「ん?」


入ってすぐのところに既視感のある物体が・・・


ホール自体はシャンデリアが吊るされた巨大なホールで

見事な天井画と幾つものシャンデリアはどこかの美術館かと勘違いする。

贅を凝らした室内の真ん中には白いテーブルクロスを掛けられ花で飾られた大きなテーブルとその両端に大きな椅子が置かれ。テーブルを遠巻きにするように大勢が佇立している。


色とりどりのドレスを着て膝を曲げているのが男爵令嬢、つまりは底辺貴族の娘

献立・買付・検品などを担当しているらしい。


メイド服で跪いているのが平民

調理と配膳を担当しているらしい。


粗末な貫頭衣で頭を床に擦り付けているのは奴隷

清掃や毒味などを担当しているらしい。


普段毒味以外の奴隷は目についてはいけないが、こういうセレモニーは特別なのだとミケは説明した。


「で、そこに転がっているのって・・・」

「はい」


ミケは頷いた。


縄で体の自由を奪われ、器具で無理やり口をこじ開けられているのは一昨日見たのと一緒だが、苦しそうに喘いでいるのはどう見ても年端のいかない幼女である。


「奴隷の中でも最下層の者が使い捨ての毒味になりますので」

「なるほどな、おい」


転がされている幼女の傍らで大きなスプーンを手にして這いつくばっている奴隷に声をかけた。


「その者の縄をとき、服を脱がせろ」


その奴隷は一瞬驚いた表情をしたが、すぐ縄を解き始めた。

優一はその奴隷が残虐な笑みを宿していることに気が付いた。

自分より下層の者を辱められるといった歪んだ喜びである。


案の定その奴隷は幼女の縄を解くと引き剥がすように貫頭衣を脱がせ、よろよろと立ち上がったところを汚らわしいとばかりに蹴りを入れて陽一の前に転がした。

転がされた幼女は慌てて全裸のまま額を床に擦り付けたが、そんなことをさせたくて戒めを解いたのではない。


「立て」


幼女はゆっくりと立ち上がった。


貴族と平民は王が奴隷という「物」をどう扱おうが口を挟む権限がないので素知らぬ表情でチラ見をしている。先ほど手伝った奴隷はニヤついて見ているが、他の奴隷は這いつくばっているので何が起きているのか分かっていないだろう。


「後ろを向け、よし、こちらを向け」


髪の毛は不揃いなショートカットというより坊主に近い。

身体のあちこちに切り傷と打撲痕、胸の焼印の痕は爛れて膿んでいる。


「ミケ」


「はい」


奴隷印や傷などがゆっくりと消え去り、水が身体をぐるぐる回って綺麗にしている。無論一瞬でできることであるが、ホールにいる連中に見せつけるためにゆっくり視覚化しているのが優一には理解できる。


「髪は肩の長さに伸ばして切り揃え」

「はい」


こうして見るとふわっとした栗毛で色白の可愛い女の子であり、縛り付けて転がされていた印象とは全く違う。


「服はいかがいたしましょうか」


立っている姿勢が良すぎるし、裸にされて恥ずかしがる様子もない。

これはどちらかというと貴族の姫に近い属性だろう。


「姫に見えるように」

「はい」


ミケは柔らかい生地でできた薄紅色のドレスを纏わせ、小粒のダイヤモンドを散りばめたティアラを髪に、紅珊瑚のネックレスを首にかけさせた。


「いいね」


優一は歩み寄り、片膝をついて幼女と目線を合わせた。


「汝の名は?」

「エリカと申します」


エリカは右足を引いて両手でスカートの裾を持ち、まっすぐに目線を合わせて答えた。


奴隷が出来る所作ではない。

本当に奴隷だったらミケの示した「奇跡」に冷静を保つことなどできないはずだ。

幼く見えてもこれは淑女として扱うべきであろう。


「必要なこととは言え衆目に裸体を晒した事を許されよ」


帝王が口にする言葉ではないかもしれないが、優一は誠意からそうエリカに伝えた。

途端にエリカの顔が真っ赤になる。

言葉の意味が理解できたということと、目の前の相手が異性だということに気が付いてしまったということだ。


「気を辿ると微弱ながら辺境伯に繋がっています」


ミケが耳打ちをする。


「そうか」


なぜ奴隷になっていたかが疑問だが、まあ今知る必要はない話だ。


「エリカを奴隷から解放し、伯爵令嬢の身分をここに回復する」

「身分変更できました。爵位に応ずる魔術使用の能力再付与」

「その爵位に応ずるって何?」

「はい、自分以下の身分の相手にしか攻撃魔法は振るえないというものです。治癒魔法には制限はありません」


ホール内がざわめいた。

最下層の奴隷が帝王と后を除けばホールでは最上位になってしまったのであるから当然ではあろうが。

ふと左を見ると、先程エリカを蹴飛ばした奴隷が震えている。

まあ、知ったことではない。


「エリカよ」

「はい」

「余を許すのなら抱きついてくるがよい」


エリカは躊躇いの表情を見せながらも優一に近づき、首に手を回して抱きついた。

優一がそのまま立ち上がり、文字通りお姫様抱っこをしたが軽すぎる。


「給仕の者、余と后の椅子を机の中央に移し、椅子と椅子の間にエリカの椅子を準備せよ」


命令は即座に実行された。


「あの、私は毒味の命を解かれたのでしょうか」


エリカの言葉が綺麗な発音だというのがなんとなくわかる。


「ああ、そうだ。后がいるので毒味は不要、汝は伯爵令嬢として会食するがよい」


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