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皇帝になったブラック社員  作者: 田子猫
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小休止(SIDE レスタリート)

森の中の広場で騎士たちは馬を降りた。

いくら訓練で鍛えていると言っても休憩は必要である。

道路を横断する小川と柔らかな草が茂ったこの広場は、いかにも休憩にどうぞといった作為を感じるが・・・


彼の名前はレスタリート

聖龍教会に所属する聖騎士でこの軽騎兵30名で編成された小隊の小隊長でもある。

彼の任務は戦争に先立って軍使として敵の将帥と交渉しつつ、敵軍内の信徒に工作の指示を与える事

それに成功すれば教会内で彼の地位が向上するとともに、政策を決定する全人民会議の際に教会の発言力が増す。

そう彼は信じ込んでいた。

全人民会議というのは建前だけの会議で、氏族会議で決まったことを伝達する場に過ぎないなどと言う事は、まだ理想を信じられるこの若者の考えも及ばない事であった。


「しかし、あのドラゴンには驚きましたな」


隊員の一人で金の鎧を着用していることから「拝金野郎」などと揶揄(やゆ)されているモランが声をかけてきた。


「どうせはぐれでしょうが」


モランは映電がはぐれ竜だと結論付けたらしい。


「竜を信奉する我々が武器を向けるわけにもいかんしな。さっさと立ち去ってくれて助かったが」


それはレスタリートも同じで、映電の背中部分に固定された搭乗用の柵にまでは気が付いていない。

仲間からはぐれた竜がたまたま通りかかって羽根を休めようとしたが目の前に我々がいたので別の場所に引っ越したのだろうと結論付けた。


行進中は周囲を警戒しているので無駄口を叩けないが、休止している今なら問題ないし色々と考えを巡らせる暇もある。


「魔の森とか言われているらしいが、平坦で道も良い。心配していた森での伏撃も今のところないし、呆気なく到着しそうだな」

「考えすぎでは?」


モランも聖騎士ではあるが、選民意識がかなり強い。


「南部の平民や獣人の屑どもに伏撃など考える頭はないでしょう」


モランは氏族の男が使用人の平民に手を付けたことによる所謂(いわゆる)庶子で、命の危険を感じた母親が教会に駆け込み、モランは幼いころから聖騎士になるべく育てられた。

その経歴だけを聞くと氏族を恨みそうなものだが、彼は氏族ではなく力のない平民や奴隷扱いをされたり討伐対象にされている獣人を憎んでいた。


「さっさとこんなお遣いは済ませて戦場で活躍したいものです」


彼らは既に開戦状態である事を知らなかった。

敵情どころか味方の状況についても全く氏族側から教会へ通知されていないからである。

だから、今の彼らの役割は「建国宣言などをした南部人に対する譴責(けんせき)」と内乱を誘発させて弱体化させることにより武力制圧を容易にすることであり、教会主導で成し遂げることが出来れば氏族に対する教会の地位が上がり政治的発言力が高まる、と言うわけである。


「ぎゃっ」

「どうした?」


森の中に踏み入った騎士が慌てて出てきた。


「何か落ちて来た」

「ああ、そりゃ(ひる)だろう」

「小便だったらその辺でしとけ。森には入るな」


仕方のない奴だ、と周囲の騎士は笑った。

確かに入りたくなるくらいに森は美しい。

木漏れ日に誘われてふらっと入りたくなる。


人は必要なければあまり上には注意を向けないものである。

動くものは敏感に察知するが静止していると気付かない事が多い。

騎士たちの近くの木の枝からじっと監視しているスライムや蛇の存在に気付いた者はいない。


ましてやうっかり森に踏み込んだ騎士に脳寄生スライムが()りついたなどと誰が考えるだろうか。


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