タマの工作
「なぁなぁ」
戦況を眺めていたら、右の貝殻の縁にタマが転移してきた。
「今どんな感じ?」
「敵の先遣部隊と接触した。障害でかなり潰したが、林縁まで迫ってきたので戦闘前哨の線まで下げた」
「そっかぁ」
「今敵は林縁で宿営準備をしているよ」
「のんきに?」
「のんきに」
「へぇぇ」
タマがにやりとした。
「どのくらいやっつけた?」
「うーん、死者は3-400ってとこかな、あとは負傷者」
「戦場に残ってる?」
「動ける兵は追及して来てるから、戦場に残ってるのは重症者だねぇ」
「戦場清掃しそう?」
「いや、全くその気配ないね」
「じゃあ、オレがもらってもいいよね」
「アンデッドの材料にするのか?」
「いや、ちょっと工作を思い付いた」
「まあ、タマが危険になるような事でなければ好きにしていいよ」
「大丈夫、前半夜に仕込んで後半夜にぱーっとやるつもり」
「そうか、じゃあ、俺達はちょっと仮眠とるよ。旅団長いいか?」
「はいお任せを」
大ハマグリは貝殻を閉じて内部に夜空を投影した。
「外が騒がしくなったら自動的に開くようにしたで」
「おう、じゃ、ちょっと休もう」
タマは大ハマグリが文字通り貝になるのを見て遊撃隊の待機場所になっている天幕まで転移した。
「ちょっといい?」
「はいっ」
タマに声を掛けられた若手の隊員は嬉しそうに返事をした。
「エルフが夢を見せる時の魔力の発動の仕方教えて」
「はい、手をよろしいですか?」
「うん、接触して発動するのが基本だったね」
「相手が気を抜かないとうまくかからないので、常時の最中にかけるのが基本なのですが」
「うん」
「抵抗がなければ、こんな感じで」
「あ、こうやって相手の脳に魔力を流すのか」
「はい、視神経との接続が切れるので、目を開いていても関係なく夢の世界に入って行きます」
「わかった、どうもありがとう」
「お役に立てて何よりです」
「また遊ぼうね、じゃっ」
そう言うと今度は戦闘跡に転移した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「んーずいぶん寝てしまったか」
貝殻が開くと、モニターから騒がしく声が流れている。
「今何時だ?」
「2時になります」
モニターに目を向けると白い点が動き回っているのが見える。
これは低空に静止した映電が生物の赤外線を白色で処理してモニターに送って来ているからで、要はサーマルモニターだ。
「真夜中だというのに、ずいぶん騒がしいようだが」
「にひひ」
貝殻の横にいたタマがどや顔をしている。
「タマ、何をしたんだ?」
「いつまで経っても取りに来ないから、死体を送り届けてやったんだよ」
「送り届けた?」
「うん、自分の脚でちゃんと歩いて行けるように魔法を掛けてね」
「自分で?」
「まあ、魂抜けてるから自分でというのはアレかもだけど、目標を焚火にして、頭がなかろうが足がなかろうが、歩いているように見えるように動かしてね」
「辿り着いた友軍かと思ってみれば動く死体だったと」
「そそ、騒ぐことないのにね。死体は別に攻撃したりしないのに」
「いやいや、死体を見て普通、敵が親切に送り届けてくれたなんて思わないぞ」
「あ、なんか撃ってるね」
「・・・味方同士で撃ち合ってるな」
どうやらパニックになった敵軍が友軍相撃を始めたらしい。
「嫌がらせ、ここに極まれりだな」
「えー」
「えーって、親切心でやったわけじゃないだろ?」
「そりゃま、いたずらだけどさ、まだ生きてる人には、これ以上苦しまないように夢の世界に案内しておいたんだよ」
「そうか」
まあ、タマはそういう奴である。
死者にしろ負傷者にしろ敵の背後にまで進出してこちらが収容してやる筋合いはない。
放置しておけば死んで行く者を救助はしないが苦しめもしないというスタンスである。




