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皇帝になったブラック社員  作者: 田子猫
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情報所開設

「これなら転げ落ちないからええな」


大ハマグリに巻き付けたロープの端を映電の背中に乗せた搭乗用バスケットにもやい結びで(バスケットの横棒の間は自由に移動できるように)縛り付け、空中で足を滑らせても落下しないよう確保をとった。


いくら海の精霊とはいえ貝は貝であるから、空中から地面にたたきつけられたら無事に済むはずがない。


「しっかり頼んだぞ」

「任せとき」


大ハマグリに課した任務は、上空から山岳地帯に変貌した森林を確認し、本日中に縮小モデルを指揮所内に作ることだ。


モデルさえ出来てしまえば、戦場の予想地域は細かく、それ以外の地域は大まかに区切って地名をつけ、それぞれの場所に大ハマグリの分身体(俺との間に出来た子貝たちの事)を配置し、昼夜はっきり見えるよう地形の上空に地名を投影させる。

そうすれば第一線からは地図を判読する必要なく報告できるし、指揮所での情報処理も容易だ。


「わふぅ」


映電の離陸に伴う羽ばたきのダウンウォッシュに、ギルリルが慌ててスカートを押さえた。


映電は竜娘の中では一番小型ではあるが、離着陸の時にはどうしても強い風が巻き起こる。魔法でぷかぷか浮かんでいるわけでないので、これは仕方ないのだが。


「ギルリル、指揮所に戻るぞ」

「はいです」


 指揮所には既にミケに連れられて親衛師団の娘が10名到着していた。

今朝師団長に連絡して師団司令部で働く、常時読み書きを行っている娘を10名引き抜かせてもらったのだ。


「おはようございます、お父様」


俺が天幕に入るや否や、10名が声を揃えて挨拶してくれた。


「おはよう」


挨拶を返して娘たちの顔を見ると、やたら目がキラキラしている。


「なんだ、ずいぶんご機嫌そうだな」

「はい、お父様の傍で働くという名誉をいただきましたので」

「名誉、と言ってくれるか」

「はい」

「まさにその、名誉というのに相応しい仕事をしてもらおうと思っていたのだよ」


俺はまだ、がら空きの場所が多い指揮所の一角を指した。


「あそこに情報所を開設しようと思う」

「情報所、ですか」


代表でやり取りをしている(らしい)娘は首を捻った。

まあ、親衛師団では聞かない単語だろう。

君たちは独自に情報を共有できるからね・・・


「今までの戦いと違い、彼我ひがともに複雑な戦いとなり情報が錯綜さくそうするだろう。獣人たち6万とエルフ遊撃隊5千、アリス千五百、そしてタマのアンデッド部隊がこちらの戦力だ」


「親衛師団からも旅団を戦闘加入させたらいかがでしょうか」

「うん、どうしても予備隊と後方地域の警備には兵力が足りないからそうするよ。旅団長を派遣してもらおう」

「はい」


「でだ。情報所では何をやるかってことを先に言っておくよ」

「はい」

「まず、それぞれの部隊に担当がついて、情報を受ける」

「はい」

「受けた情報は、いつ、どこで、誰が、何を、どうしたという定型用紙に書き込む、例えば10月3日0700、A地点で100名の敵がB地点方向へ移動を開始した、というふうにだ」

「はい」

「各部隊の担当から上がった定型用紙は、そうだな、お前が受け取って台帳に記入する。その台帳には1から順に番号が振ってあり、それを情報番号と呼ぶ。台帳に記入したら、受け取った用紙に情報番号を記入して次の者、そう、お前に渡す」

「はい」

「お前は用紙に書かれている内容を地図に書き入れる。A地点に情報番号と日付を入れてB地点方向に矢印。書いたら用紙を台帳の所に戻して(つづ)っておく」

「はい」

「そしてその隣のお前は、隣の地図に100名だから1個中隊の兵棋へいぎを置いて、B方向に矢印をつけておく」

「はい」

「そしてお前は、ここに現れた敵の部隊を。俺の前に置かれた味方の部隊が示された地図の上へ置いて行く」

「はい」

「基本的にはこの要領だ。時間がたってB地点に100名の敵が現れたなら、情報番号1の敵と同じと処理をして、新たな情報番号で表して、1番は地図から消す」

「わかりました」


「今回の敵は最低でも10万。地形を戦力に加え、タマの力を利用できるとしても情報を読み違えると大切な時期を失したり敵の奇襲を許す恐れがある。お前たちを信頼しているぞ」

「はい、お父様」

「大ハマグリが言うに、地域の模型さえできれば地図はすぐ出来るそうだから、明日には準備に掛かれるだろう」

「いえ、私たちは帝国の地図を使って今から訓練を始めたいと思います」

「そうか」


まあ、ノウハウを覚えるための訓練ならありだろう。


「ユーイチ、よろしいですか?」

「うん、どうした? ミケ」

「ゾフィーが報告したいことがあるそうです」

「ゾフィーが?」

「はい。一旦帝国に戻ることになりますが」

「メルミアはどうする?」

「山岳地帯を偵察したいと思います。ギルリルを帯同してもよろしいですか?」

「そうだな、ギルリル、お前は作戦間俺の参謀となる。メルミアと一緒によく地形を見ておけ」

「はいです」


メルミアとの抱擁もそこそこに、俺はミケとともに帝国へ戻った。

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