プロローグ1
どうぞ、よろしくお願いします
その男は「帝王」と呼ばれていた。
名前ががないわけではない。しかし、その男にとって他人の名前を含めて名前などは覚えたり呼んだりする価値のないものだった。
帝王は50年ほど前に崖崩れに巻き込まれ、この世界に転生した。
転生後は勇者として魔王と戦い、「やーらーれーたー」という棒読みのセリフとともに魔王は消滅し、勇者は捕らわれの姫と結婚し、国王となった。
国王となった後、どこの国でもない土地に四方八方へと侵略を繰り返し、エルフの郷を壊滅せしめた頃から国王は「帝王」と呼ばれるようになった。
生き残りのエルフは男を鉱山へ送り、女は奴隷として売り払った。
亜人などと言う価値のないものを有効利用する帝王を大臣らは絶賛した。
王妃は時間制限があるものの元の世界に戻る魔法を使うことが出来、帝王は「近代的な品物」を多数手にすることが出来た。
王妃からは「どうか文明を進めてほしい」と懇願されたが、帝王は知識チートを使って他人の為にするようなことに興味はなかった。
やがて貴族の後宮工作、いわゆるお手付き要員を抱くのに飽き、政務に顔を出すのにも飽き、奴隷たちを甚振るのにも飽きた帝王は、王妃の持つ魔道具「入替の鏡」を眺めるのであった。