第1話 死別、そして
男の体を氷の刃が体を貫いた。どさりと倒れ込んだその男は、霞んでいく意識の中で自分を刺した人間を見る。
「どうして....?」
彼は目を見開いた。
「申し訳ありません。アクシア様。」
氷のような冷たい表情を持った女は、短い謝罪を述べる。
アクシア、そう呼ばれた男は一瞬だけ不可解な表情を浮かべたが、すぐに優しい笑みを浮かべる。
「僕では、君に相応しくなかったのかな...。すまない...。」
アクシアの言葉に、女は驚いたような泣きそうな表情を浮かべる。
「どうしてあなたは...こんな時まで...!!」
激情に飲まれそうになる女は、一呼吸置いて、落ち着きを取り戻す。彼女は、床に魔法陣を描いた。アクシアは驚愕する。
「ハクリア!!これは...!」
アクシアは女の名前を叫ぶ。彼が目にした物は、禁忌中の禁忌。生命を司り、魔力の大元となるマナを操るための陣であった。
もちろん、そんな術は伝承の中だけのものであり、こうして今目の前で行われている事に驚きを隠せないアクシア。
アクシアを真ん中に据え、禁忌の魔法陣は描かれていく。ハクリアは、陣を描き終わると一切の躊躇をせず詠唱を始めた。
息も絶え絶えのまま、意識も掠れゆくアクシアの視界には、ハクリアの真剣な表情が映る。アクシアはもはや動かなかった。
アクシアは、その時気づいてしまったのだ。自分自身の感情について。あぁ、僕はハクリアの事が...。
アクシアは意識を保っているのがやっとだった。最後に、ハクリアと目が合う。ハクリアは、悲しそうに笑っていた。
「アクシア様。これで、ずっと一緒です。」
赤黒い光と液体が、魔法陣から溢れ出す。今際の際に、アクシアはハクリアの言葉の意味を理解できずにいた。




