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「ウソじゃないもん」

「会議、お疲れ様でした」


 出られたハーブティを口にして、一息つく冒険者ギルド長。

 差し出したのは自らが召喚した悪魔、ヴィネ。こちらの体長を慮った、というよりはこうなる未来を予測していたのだろう。ともあれ疲れた体に温かいお茶が染み入るのはありがたい。


「流石は商人ギルドだ。事前の根回しは完璧だったね。国防騎士団と貴族義会員を完全に押さえていた。あの短時間の間に対したものだ」

「こちらはギルド員の無事と通報を行っていたため、出遅れたのは仕方ないかと」

「おかげで状況は把握できたけど、先陣を押し付けられる形になった。

『国防騎士は中央街に布陣。冒険者がうち漏らした魔物を守る最後の壁となるのだ』……よく言ったものだ。要するに貴族と商人しか守らせないときた」


 愚痴を言いながら書類に目を通すギルド長。ミイラたちの動向とと現在ギルドに集まったギルド員の報告書である。愚痴っても状況は変わらないのだ。今はどう戦うかを考える時である。

 だが、結論はすぐに出ることになる。


「まともにやっては勝てないな」

「はい。彼我の戦力差は大きすぎます。悪手ではありますが、打って出るよりもこのまま籠城を続けた方がまだマシかと」

「しかし貴族と商人達はそれを許可しない。自分達の利益は街の人や冒険者の命よりも軽いようだ」

「ここで被害が出れば人は離れ、町の評判は大きく下がります。長期的に見れば、町が枯渇するのは必至です」

「だが彼らにはそれが理解できない。人はいくらでも代わりが効くのだと思い込んでいるのだろうね」

「賢人のつもりの愚者ほど厄介な者はありません。膿は早めに摘出すべきかと」

「そう簡単にいかないのが人間社会というヤツでね。いなくなったらなったで新たな問題点が出てくるものなのさ」


 肩をすくめるギルド長。悪魔ヴィネが思うほど、人間社会と言うのは単純なものではない。善と悪が混ざり合い、理性と欲望が入り乱れる。欲が悪いわけでもなく、過剰な正義は暴力となるのだ。

 ため息をつき、頭の中で情報をまとめ上げる。勝つのは無理でも、負けなければなんとかなる。


「……どうにか妥協点を見出すしかないか」


◆      ◇      ◆


「うひょー! 祭り状態だな!」


 楽しそうに声をあげるネイラ。冒険者ギルドのロビー兼食堂には冒険者たちがあふれていた。いつもは半分ガラガラなテーブルも埋まり、立って喋っている者も多数だ。

 ネイラが嬉しそうなのは、溢れる空気だ。ある者は自分の武勇を自慢し、ある者は魔術の位と種類を誇る。自分のグループの冒険譚を語り、その時得た財宝等を見せびらかす。それぞれの冒険者が、互いをマウンティングしていた。

 とはいえ、そこに相手を貶す空気はない。むしろ優位に立った相手を誉め、そして次は自分の番だと口を開く。それぞれがそれぞれを認め合い、戦意を高めるために喋り合っていた。


「へー。結構たくさんいるのね、ボーケンシャ」

「うん……。今日護衛に出る予定だったグループが中止になったみたい」

「いいじゃねぇか。こういう連中なら一緒に戦っても面白そうだな!」


 うんうんと頷くネイラ。こういった戦い前の空気は大好きのようだ。


「よーし! オレ等も混ざるぞ、大将!」

「ええ!? 僕はそういうのはダメなん――」

「オレの名はディアネイラ・ソリシア・オルゴポリス! 先のオータム武術大会で準優勝を得た者だ! 我が拳は万難を砕き、我が足は千里を駆ける! ミイラの群れなど恐れるにあらず!」


 ロビー中に通る声でネイラが叫ぶ。先の武術大会の評判がよかったこともあり、ネイラの言葉に感嘆の声が上がる。


「如何に敵が不死の怪物なれど恐れるには値せず! わが戦友ともは天下無双の糸使い。地角天涯にもその糸は届く! この街に不浄は許されぬと約束されたも同然だ!」


 次にネイラはクーに手を差し出す。冒険者達の視線が向けられたクーは、Vサインを出してそれに答えた。ネイラに褒められて機嫌がいいんだなー、とエリックは察する。なんだかんだでこの二人は仲がいいのだ。


「そして我らが大将、エリック・ホワイト! かの英傑は地獄の三姉妹エンプーサを退けたこの地の守護者の一人! 彼の存在がなければ、街は悪魔の鎌に刈り取られていただろう!」


 熱が乗ったネイラの紹介。

 だが――それに帰ってきたのは沈黙と、そして爆笑だった。


「……えーと、エリック? 蟲使いの?」

「いやいや、ハッタリかますのも大概にしとこうや」

「まー、あんたら二人にエリックが釣り合わないのは解るけどな!」

「エリックに救われたとか……わははははは! だったら俺らも街が救えそうだな!」

「うひゃひゃ! よーし、それじゃあ俺は迷宮王ミノタウロスを退けたぞ!」

「いい景気づけだ! じゃあ俺は海魔デカラビアを――」


 酒と場の空気が手伝って、ロビーはほら吹き大会に変更していく。言葉を放ったネイラは怒りに顔を赤く染めて殴りかかろうと――

 それを掴んで止めるエリック。もう片方の手で何かしようとするクーに向けて、静止するように手を広げていた。


「駄目、ネイラ。クーも」

「なんでだよ!? こいつら大将のことを――!」

「駄目。……仕方ないから」 


 彼らの反応は当然だ。エリックは冒険者ギルド内でも失敗続きのEランク冒険者。そんな彼らが地獄の悪魔を退けたなどと言う話を信じるはずがない。むしろウソツキだとなじったりしない分、好意的だったといえよう。

 仕方ないのだ。エリックが認められないのは。蟲使いには信頼がない。蟲使いには実力がない。だから認められない。もうそういうふうになってしまったのだ。それを改めて自覚させられる。

 視線が下がる。真っすぐに前を見るのがつらい。この二人に僕は釣り合わないとかわかっている。


「エリっちがいなかったらあの痴女(エンプーサ)に負けてたのは、ウソじゃないもん」


 目に涙を込めて、クーが押さえた声で呟く。舌打ちして力を抜くネイラ。

 我慢してくれた、と安堵する一方で彼女達に我慢してもらってる苦しさで胸が重くなるエリック。この二人の重荷になっているのだろ、自らを苛む。


「よーし、お前ら遊びはそこまでだ!

 ギルドマスターから班分けの発表だぞ!」


 湧き上がっていた宴の空気はその一言で静まり、ギルドは戦いのムードに変化していく。

 エリックとクーとネイラだけが、その空気に混ざり切れずにいた。


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