「ほっほっほ。皆さんおそろいのようで」
「ようエリック。待ってたぜ」
エリックとクーが待ち合わせの場所に行くと、カインが笑顔で手をあげる。顔こそ笑顔で好意的な台詞を言っているが、その瞳はエリックを睨みつけ、先日の恨みを水に流すつもりはなさそうだった。
「やあ、カイン。誘ってくれてありがとう」
「ああ、感謝しろよ。お前のような万年Eランク冒険者が護衛任務だなんて。俺にとってははした金だが、お前にとっちゃ高級だもんなぁ」
「はは、どうも……」
早速のイヤミに笑って返すエリック。笑いながら、出来るなら帰りたいなぁと思うエリックであった。
「あー、エリっちに殴られてKOされた人だ」
そんなやり取りを見て、クーが口を挟む。火に油を注ぐ、という言葉の意味をエリックは目で理解する。カインの笑顔が大きく跳ね上がったのだ。
「騎士? なのにパンチ喰らって吹き飛ぶとか。ありえなくない? なくないの。しゃーないわよねー。よわよわだし」
「おい、女。口の利き方に気をつけろよ」
「べー。事実じゃん。あーしにナニしようとしてたのか、エリっちから聞いたもんね」
「ほう……。だったら最初っから乱暴にやらせてもらうぜ」
「きゃー。こわーい。えりっちたすけてー」
「し、仕事はきちんとしようね。ね?」
カインとクーの間で飛ぶ火花。心情的にクー寄りなエリックだが、仕事をおろそかにしてはいけないという気持ちもある。
「ムシ風情が偉そうに。仕事の役に立たないお前が言わないでほしいわね」
「そうだ。カイン様と私達がいればこんな任務事足りる」
エリックの背後から声をかけてきたのは、カインの取り巻き女ことカーラとアリサだ。出発までの買い物をしていたのか、背負い袋が大きく膨らんでいる。食料を中心に野外活動用のロープや医療具、簡素な調理器具と言った所か。
「はは。……あの後は大丈夫、でしたか?」
エリックは言葉を選びながら、先日のことを確認しようとする。ヒルが足から侵入したり、カメムシに大軍に襲われたり。それを命令したのはエリックで、こちらを襲おうとしたから悪いとは思ってはいない。本当に『あの後何事もなかったですか?』的な問いかけだ。
「何を……!? あの後、ヒルがいないか服を脱いで確認したわよ! ああ、恥ずかしい! でもあの気持ち悪さに比べればだいぶましだわ!」
「ふん。こっちは川で体中洗う羽目になったわよ。あの臭い体液が残ってないか念入りにね!」
どうやら色々おかんむりのようだ。後悔はないが、次は手心を加えた方がいいかも、と思うぐらいにエリックは気が弱かった。
「エリっちはあの人達の『服を脱がせて』……『臭い体液』を洗わせるようなコトをシタんだ……」
「待ってクー。ホント待って。誤解っていうかワザとでしょう、それ」
「きゃー。おとこはけだものー」
おどけてはしゃぐクー。
その挙動にそれまでの空気は流されたが、水面下の感情が消える事はない。
エリックはクーに手を出そうとするカイン達が許せず、そして先日の怒りに怯えている。クーはエリックから詳細を聞き、カインにいい感情を持っていない。
カインは雪辱を果たすべくエリックとクーを狙い、カーラとアリサはカインに気に入られようと動く。
「ほっほっほ。皆さんおそろいのようで」
話しかけてきたのは、今回護衛する商人のドーマンだ。良質のポーション商人として急成長し、冒険者達の中でも有名になっている。今回は拠点を広げるらしく、馬車三台の輸送となった。
「まさかオータムを守ったバレット様に護衛して頂けるなんて。いやはや、私もツイている。新しい街での起業も上手くいきそうだ」
「おや、オータムを離れるので?」
「ええ、実は。まあそのあたりは商売上の秘密という事で。ポーション自体の在庫は充分にありますのでご安心ください」
「なら良かった。アンタの所のポーションは効きがいいからなぁ」
「はっはっは。ありがとうございます。これからもよしなに」
カインと握手をするドーマン。
ドーマンは冒険者ギルドから渡された護衛者のリストを見る。既に確認してあることだが、実際に冒険者たち本人を見て思う所はあったようだ。
「しかし奇抜な組み合わせですなぁ。規格外のCランク冒険者パーティにこれまた規格外のEランク冒険者とその連れ合い。いえいえ、腕前を疑うわけではありませんが護衛に向かない方を連れて大丈夫なのですか?」
「これも勉強だ。叩き上げないと成長もないからな。何、仕事に支障は出さない。安心しろ」
「あの――」
会話の隙を縫うように、エリックが挙手をする。向けられた『このEランクが』『蟲使いが』的な視線を感じながらエリックは言葉を続ける。
「予想される障害とかはありますか? いえ、オータムとクリムガルド間に盗賊団や危険魔物が出るという情報を僕は聞いてないので……」
オータムとグリムガルドを結ぶ街道は、比較的安全と言われている。途中森林を横切るが、そこはエルフが住むといわれており害意ある獣や魔物が森から出てくる事例は皆無だという。
無論、遭遇確率はゼロではないのだから護衛を雇うのは間違っていない。ただ、エリックの知らない盗賊団がいるのなら教えてほしかっただけである。
「いいえ、なにも。ただ念には念を入れておくのが、商売の秘訣なので」
「そうですか。失礼しました」
柔和に笑って答えるドーマンに、一礼して答えるエリック。
ただ悪意を受け続けて敏感になっているエリックの感覚は、確かにドーマンの強い視線を感じていた。
『余計な事を聞きやがって』
そう言いたげな、強い視線を。




