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「ねえ、ミーコをしらない?」

「ねえ、ミーコをしらない?」


 神殿の階段を下りる途中で、エリックはそんな声を聴く。何とはなしにそちらに顔を向けると、瞳に涙を溜めた少女が神殿の僧侶のズボンを引っ張ってそう訊ねているのが見えた。


「ミーコ?」

「うちで飼っていたネコなの。ずっと家に帰ってこなくて」

「そうか。お母さんには相談したの?」

「したよ! だけど『すぐに戻ってくる』ってばっかり! そのままお仕事に行ったの!」

「ああ、それは大変だね」


 あやすようにしゃがんで目線を合わせ、僧侶は子供の頭を撫でる。


「天空の神様は万能なんでしょう!? ねえ、ミーコがどこにいるか知らない?」

「天空神様は確かに万能なんだけど、お兄さんたちは神様じゃないからなぁ。

 警邏の騎士さんに頼んでみたらどうだい?」

「頼んだ! でも『パトロール中に見つけたら教えるよ』って言ったきり! もう三日もたつのに!」

「あー……」


 困ったように僧侶は頭を掻いた。

 少女を助けてやりたいのはやまやまだが、騎士以上の手助けはできそうにない。そんな表情だ。僧侶にも仕事がある。その仕事を放棄して猫を探すという事はできないだろう。

 そしてそれを薄情と責めるのは酷だ。働かなければ生活が出来ず、僧侶に家族がいた場合その家族にまで迷惑がかかるのだから。

 それはエリックも同じことだった。ギリギリ報酬が入ったとはいえ、エリックの財布は心許ない。冒険者ギルドに依頼があればそれを受けた方がいいし、ないならないで日雇いの労働をして日銭を稼いだほうがいい。蓄えはあるに越したことはないのだから。

 なのでこのまま横を通り過ぎるのが一番だ。神殿の外にクーも待たせている。彼女と今後どうするかもきっちり話し合わないと。それに猫だって運が良ければ騎士が見つけ出しているかもしれないし、地力で家に戻っているかもしれない。

 ――のだが、


「ミーコって、そんなネコなのかな?」


 エリックはその少女に話しかけていた。


「あのね! 白くて茶色のネコなの! 尻尾が少しギザギザで、おめめが鋭くて! ぎにゃー、って鳴くの! 好きなオモチャはこのボール!」

「うんうん。それじゃあ、僕が探してみるよ。ええと……僕の名前はエリック。君の名前は?」

「私、エミリー! よろしくね、お兄ちゃん!」

「うん。それじゃあ行こうか」


 エリックは少女――エミリーの手をとる。僧侶の申し訳なさそうな一礼に気にしないでくださいと手を振って歩き出す。


「エリっちおそーい! ……って、子供?」

「ごめんクー。実は――」

「その子食べるの?」

「食べない」


 本気か冗談かわからない口調で聞いてくるクー。軽く流してから、説明する。


「ネコ?」

「うん。………あー、ネコってわかる?」

「知ってる。ケットシーが四本足で歩いてるヤツでしょ」


 おけおけ、と指で丸を作るクー。


(そうかー。魔物サイドから見ればそういう感覚なのかー)


 人間側からすれば、ケットシーがネコの二足歩行なのだ。立場が違うと基準も変わるんだなぁ、と深々と納得する。


「まあそんなわけなんで、先に家に帰るか、さっきの店で時間を――」

「えー? つまんなーい」


 潰して待ってほしい、という前にクーが腕を組んで抗議する。


「あー、あのねクー。ネコ探しって街中を走り回ったり、裏路地に入り込んだりとか色々大変なんだよ」

「ふーん」

「それに……この仕事は無料タダでやるわけだから」


 エミリーの方をちらりと見て、クーにだけに聞こえる様に囁く。


「なんで?」

「なんで、って……」


 言われて言葉に詰まるエリック。

 相手は子供で、どう見てもお金を持っているとは思えない。

 そう言おうとした矢先に、


「エリっちがやるんだから、あーしもやるよ? 当たり前じゃん」


 あっさりは言い放ったクーの言葉に、エリックは面食らった。


「……なんで?」

「だってエリっちがやりたいんでしょ? だったらあーしもやる。

 だから、上手くいったら<癒し《ヒール》>お願いね」

「あー……うん」


 仕事が上手くいったら、その時傷を癒す。クーの謎の拘りを思い出すエリック。

 話は決まった、とばかりにクーはしゃがみこんで、依頼人(?)のエミリーに話しかける。


「そんなわけでよろしくねー。エミリーちゃん?」

「お姉ちゃん、この人の恋人?」

「――――っ」


 子供ならではの遠慮ない質問にエリックは軽くせき込んだ。


「きゃー。おませさん。そういうふうに見えるの?」

「ううん。この人、お姉さんには似合わなさそう。地味だし」

「……はは、うん、そうだよね」


 そして子供ならではの遠慮のない意見にエリックの精神は切り刻まれる。


「もー、酷いこと言っちゃダメよ」

「えー」

「地味……いいよ。そう見えるのは、仕方ないし……地味、かぁ……うん、地味……」

「あ、エリっち割と効いてる」


 ふらふらと壁に寄りかかり、『地味』と呟いているエリックの背中を見ながら、いたたまれない思いを抱くクー。


「だって背も高くないし」

「うぐ」

「着てるのも普通の服だし」

「うぐぐ」

「絵本のゆーしゃとかじゃなく、普通のお兄さんて感じだし」

「うぐぐぐ」

「……うわ、エグい。悪気がないのがさらにエグいわ」


 子供ならではの純粋な感想に反論できないエリックであった。


「そ、そうだね……。でもミーコを見つけることはできるから……きっと」

「うん! よろしくね、お兄さん!」

 

 こうしてエリック達はネコ探しを開始するのであった。



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