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「そんな顔で笑うエリっちなんか超見たくない!」

「あ、あれ? 消えた……?」


 急に姿を消した黒の触手を前に、カインは目を疑った。

<ガルストン>の嫉妬供給源となったエリックが呪いを打ち破り、


 まるで幻のように消え去った触手。最初は何かの術かと思ったが、再び現れる気配もない。剣に聖霊を宿らせて触手がいた場所まで近づくが、触手がいた跡形もない。暴れた跡のみが残されていた。

 さらに時間が流れ、倒れていた冒険者たちが起き上がる。説明を求める様にカインに目を向けた。


「どういうことだ?」

「まさか、カインが倒したのか?」

「流石、魔法と剣士のハイブリットジョブ。ソロであれを倒すなんざ、見事なものだ!」

「カイン様、素敵ー!」


 カインのみが立っており、触手が消えている。状況だけ見ればカインが倒したととれなくもない状況だ。

 そしてその声を前に、カインは剣を掲げて叫ぶ。


「ふ、アイツはこの精霊剣技を前に消え去ったようだ。

 皆、安心しろ! このカイン・バレッドが退治してやったぞ!」


 カインの言葉に歓声が沸き上がる。その瞬間を見た者は誰もいないが、四元騎士エレメンタル・ナイトが街を守ったという事実に興奮する。新たな英雄譚を前にして喜びが泉の如く湧き上がる。


「はっはっはー! さぁ、凱旋だ! 国防騎士に冒険者の価値を分からせてやらなくてはな!」

「カイン! カイン! カイン!」

「我らが四元騎士エレメンタル・ナイトにバンザーイ!」


 冒険者たちの凱旋は街に着くまで続き、その結果は街を大きく揺るがせた。



 ◇◆  ◇◆  ◇◆  ◇◆  ◇◆  ◇◆


「ホントにダイジョブ? 腕、変な感じになってるけど」

「本当だ。何だろうこれ。って……うわぁ」


 クーに肩を借りる形で起き上がるエリック。指摘されるままに右腕に意識を向けると、奇妙な幾何学文様が自分の右腕に描かれていた。それを見ると同時に、脳内にイメージが流れ込む。自分自身のエーテルに、何かが刻まれた感覚を。


<嫉妬神の呪い>


 呪い(カースド)スキル。邪神の高位神官や魔法使いが儀式魔法に与えるものだ。命令に逆らえないようにする<制約ギアス>や、ある成果を出すまで解放されない<神託クエスト>などと言った行動を制限する類のスキルである。

 これを植え付けられた者は何かしらの行動を封じられるといわれているのだが……。


「……特に何もないかな?」

「んー。だったらいいんじゃない? ちょっとワイルドっぽくて映えるし」

「まあ、隠しておくに越したことはないかな。邪神の呪いっぽいし」


 宗教系のジョブによっては、邪神の呪いを見ただけで嫌悪感を示して攻撃的になる者もいると聞いたことがある。余計なトラブルは避けるに越したことはないだろう。


「そっか、じゃあさ――」


 クーはエリックに笑顔を浮かべ、手を刺し伸ばす。


「キノコ採りに行こう。あともう少しなんでしょう」

「……そうだね。それが終わったら、また<治癒ヒール>をしなくちゃ」


 クーの手を取り、エリックは歩き出す。


「えへへ。そうそう、仕事が終わったらたーっぷり癒してもらわなくちゃ。あーし、頑張ったもんね!」

「うん。クーがいなかったら、どうなっていたか」

「ほーんと、エリっちはゴブリン相手にビビりすぎ! なのに魔法陣に対策なしで突っ込むとか無謀すぐる!」

「あれは……うん、そうだね。反省する」

「……まあ、お陰で助かったんだし、そこはかっこよかったなーとか思うんだけど……でも危ないの禁止だからね!」

「今回ほど危険なのは、そうそうないと思うけど……」

「き・ん・し!」

「……うん、了解。心配してくれてありがとう」

「心配とかじゃなくっ!? ……そうよ、あーしを治してくれるって約束を守ってもらわないと大変なんだから!」


 そんなことを言いながら、二人は最後のハクショクカラカサの元に向かう。

 …………向かったのだが………。


「…………この辺り、なんだけど」

「…………えーと、あーしの記憶が確かなら、ここってさっきあの触手とドンパチした場所よね」

「だよね。僕もそう思う」


 A-ランクモンスターとAランクモンスターが戦ったその場所は、木々がなぎ倒され、草木は押しつぶされるように倒れていた。生物らしい存在はなく、荒れに荒れた場所だ。

 当然、キノコも潰れていた。見事に粉砕されていた。欠片を見つけることはできたが、それを回収したところでどうしようもない。ギルド受付の査定で落されて、依頼は失敗だ。


「エリっち、ごめん」

「いや、クーのせいじゃないし……あの状況なら仕方ないっていうか」


 ゴブリンに襲われたことも、そのゴブリンを生贄に神の眷属が召喚されたこともクーに責任があるとは思えない。

 それでも責任を感じているのか、肩をすくめるクー。


「とりあえず、そこに座って。クー。体を癒すから」

「え、いいのエリっち!? キノコ、集められなかったんだよ!」

「いいよ。依頼に失敗するのはもう慣れてるし」


 ため息と共にエリックは笑う。

 キノコ集めすら碌にできない冒険者。Eランク以下の蟲使い。そう言われるのは慣れていた。


「…………やだ」


 だがそんなエリックを見て、怒ったようにクーが肩を震わせる。

 何かを諦めたようなエリックの笑いに、クーの心がチクリと痛んだ。その痛みの正体は解らないけど、許せない事だけは理解していた。


「やだ、って?」

「や! エリっちが依頼成功するまで、あーし治癒ヒール受けない!」

「え? あの、どういうこと?」

「エリっちが依頼に成功するまであーしがお仕事手伝ってあげる! そんな顔で笑うエリっちなんか超見たくない!」

「手伝うって、その――」

「キノコは失敗したけど、ボウケンシャって他にもいっぱい依頼があるんでしょ!

 それが成功するまで、あーしが一緒にいてあげるから!」

「えええええええええ!?」


 困惑したように叫ぶエリック。

 蟲使いとアラクネの冒険譚は、ここから始まるのであった。



◇     ◆     ◇


 Eランク依頼『ハクショクカラカサを15個集めよ!』

 ……失敗!



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