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「…………は?」

 夜の帳が降りれば、町は闇に包まれる。

 魔力による街灯こそあるが、夜を照らすほどではない。精々が道を照らし、進む方向を定める程度だ。自前の灯りを持つか、闇を見る目を持つ種族でなければ歩くのは危険すぎる。

 その為、オータムとはいえ夜に出歩く者は少ない。警邏の国防騎士か、酔っ払いか、それを狙った夜の商売を行う者、そして――犯罪者。誰の目にも止まらないからこそ、法を抜ける者達は夜に跋扈する。


「へっへっへ。叫んだりしなければ痛い目に合わなずにすんだのによぉ」

「でも痛い目は見るかもな。これだけの人数を相手するんだから」

「痛いのは最初だけだぜ。そのうち気持ちよくなってくるから」

「なんなら最初から気持ちよくしてやってもいいんだぜ。そういうクスリがあるからな」


 町の一角。国防騎士の警邏が届かない闇の中。十名ほどの男性達が女性に拳を振るっていた。最初は抵抗していた女性も暴力に屈し、荒い息をあげて地面に倒れている。男達にこれから何をされるのか。それを理解して体が震えていた。


「夜は危険だぜぇ。俺達が送ってやるよ。お代は体で払ってもらうがな」

「そうそう。殺したりはしないから安心しな」

「俺達やさしー!」


 ゲラゲラと笑う男達。絶望する女性。酒場で働く彼女は、しつこい酔っ払いに絡まれて帰る時間が遅くなってしまったのだ。家で待つ子供のために、酒場で夜を過ごすという選択肢は選べなかった。


「それじゃ頂くとするか。順番は守れよ」

「なかなかいいもん持ってるじゃねーか。楽しめそうだぜ」

「おい、ぼーっとしてないで足押さえろ……って何やってんだ?」


 男の一人がふらりと揺れたかと思うと、突如倒れ込んだ。明らかに異常な倒れ方に男達は動揺し、そちらの方を見る。

 そこに居たのは、全身を黒布で覆ったヒトだった。顔にはドクロを模した仮面をかぶり、武器らしいものは何一つ持っていない。倒れた男を蹴ってどかしながら、ゆっくりと男達の方に歩いていく。


「なんだぁ、テメェは――ぐふぅ!」

「兄貴!? おごごごごごご……!」

「なんだぁ、うわあぐぶぼぼぼぼ……!」


 次々と倒れていく男達。全員がもがき苦しんでいる。そうして動けなくなった男達のナイフを使って、一人、また一人と殺していった。

 数分後には男全員が息絶え、残った女性は呆然とドクロ面の男を見ていた。


「あの……助けてくれたの?」


 質問の答えとばかりにドクロ面は手を差し出す。女はその手を掴み、


「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 今しがた彼女に暴行しようとした男同様、激しい激痛をうけて悲鳴を上げる。掌から灼熱が全身に伝わり、呼吸することも満足にできないほどのショックが走る。痛みから逃れようと体をけいれんさせ、瞳は焦点を合わすことなく回転する。


「…………」


 ドクロ面はそのまま苦しむ女を静かに見降ろしていた。殺すことはいつでもできるがあえてそれをせず、何処までもがくことが出来るかを見ているようだ。夜の街に悲鳴が上がり、やがてそれも小さくなっていく。


「死んだか」


 そして動かなくなった女を見て、ドクロ面は確認するように足で女を転がす。力無く転がる様子を見て納得したのか、踵を返して闇の中に消えていく。

 国防騎士団がこの惨劇を知るのは、夜明け前。その時には犯人の痕跡を追う事は不可能となっていた。


◆       ◇       ◆


「とおりまさつじん?」

「うん。グラッパー通りを中心に通り魔が出てるらしい。今日は10人近くが殺されたんだって」


 オータム冒険者ギルド。その掲示板の前でエリックとクーはそんな話をしていた。話題となっているのは掲示板に書かれた一枚の依頼書だ。


『通り魔の情報求む!

 ここ数日勃発している通り魔の情報を求めています。

 情報の正確さや精度などで報酬が変わります。

 国防騎士団』


「なっさけねーなぁ。てめーらで捕まえられないから他人に頼るとか」

「それだけ急務なのでしょう、神出鬼没の殺人鬼。街は恐怖におびえ、人は家に閉じこもる。嗚呼、しかしこれを颯爽と捕まえるファラオ。素晴らしいです」

「いや無理だから。って言うか僕が出るまでもなく他の冒険者たちが乗り気になってるし」


 頭を掻きながら不満を告げるネイラに、ケプリが応じる。そんなケプリの要望をあっさり断り、エリックは周りの様子を見た。ある者は義憤で、ある者はお金を求めて、ある者は名声を求めて通り魔を調べようとする者が多い。

 だが一番の理由は――


「あの国防騎士の鼻を明かすチャンスだしな!」

「そうだぜ。前のミイラの時も結局貴族守って引きこもってたしな」

「そうそう。いつも何かあったら俺達を盾にしやがって。通り魔捕まえて、その無能っぷりを笑ってやろうぜ!」


 いいように扱われている国防騎士に一泡吹かせるいい機会だという気概が強かった。それだけ不安が溜まっているのだろう。


「悪いがその依頼は、俺が解決して終わりだ! 雑魚共はひっこんでな!」


 そんな中に入ってくるのは、四元騎士エレメンタル・ナイトのカイン・バレッドだ。国防騎士御三家バレッド家の三男坊にして冒険者ギルド一の名声を持つ男。冒険者を遊びと豪語し、その名声をもって国防騎士団を駆けあがるといつも言っている。

 実際カインのジョブはかなりの強さと希少さを持ち、引手数多なのは間違いない。その恩恵にあやかろうとする者も多く、人脈も多い。仲間の他にも女性を集め、ハーレムを形成しているとかなんとか。


(うわ、カインかよ)

(あいつ、どっちかって言うと騎士側だもんなぁ……)

(でもあいつがいないとこのギルドの強さがガタ落ちになるんだよなぁ。ある程度のワガママは通さねぇと)

(あいつが捕まえたってなると、一応冒険者の株は上がるからなぁ)


 カインの登場と共に、ギルド内の空気は一気に冷え込んだ。実力はあるがわがまま放題。だが彼がいるといないとではギルドに来る依頼の成功率が大きく変わるのだ。そりが合わないからと言って、無下に切り捨てる事もできない。


(カインかぁ……関わりあう前に逃げようっと)


 そしてエリックのカインに対する苦手意識は周りの冒険者以上だった。失敗するたびになじられ、出会う度に見下され、ムシ野郎と罵られ――否定できないエリックはカインのいいサンドバックになっていた。

 逃げようとするエリックに向かって、真っ直ぐ近づいてくるカイン。そしてそのままエリックの手を掴み、捕縛用の手錠をかけた。


「エリック。お前が通り魔だろ。逮捕するぜ」

「…………は?」


 あまりのことに、エリックの目が点になった。


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