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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界ファンタジー系短編

孤狼の哭く夜

作者: 都鳥

 残酷な描写と思われる部分があります。ご注意下さい。

 神々とて、人と同じような心を持っているのだと。

 ならば誰かを思う心を持ち、恋に落ちる神があるのも自然な事であった。


 闇の神に恋焦がれた女神は、全ての者を愛する為に、その心を捨てた。

 光の女神に心奪われた男神は、己の強さの為に、その心を捨てた。


 二柱が捨てた心は、またそれぞれが新しく生ける物の形を得た。


 全ての者を愛する女神は、己の捨てた心までも愛し、新しい神として側に置き(いつく)しんだ。

 強さを求めた男神は、己の捨てた心を(いと)うて、辺境の星に打ち捨てた。



 互いを思う気持ちで出来た身であるならば、互いを求めるのは当然だろう。


 嗚呼、愛しい心はどこにあるのか。

 光の心は、まだ見ぬ闇の心を求めて旅立った。


 * * *


 何故、何故。

 自分はここに居るのだろう。

 どのような罪があるのだろう。


 誰かを愛しただけなのに。


 腹が減ってその星の生き物を食らった。

 (ただ)、只。

 心の空虚(くうきょ)を埋めるように。


 その生き物は余りにも脆弱(ぜいじゃく)で、(あらが)う事もなく簡単に食われた。

 食らって、食らって。

 それでも心は満たされずに。


 その日、1人の小さな生き物を食らおうとした時に見てしまった。

 その瞳が赤く力強く燃えている事を。

 その後ろに隠された生き物を、その生き物が守ろうとしている事を。


 わかっていたのだ。

 自分が食らったその生き物にも、愛し愛される者があるのだと。

 己が光を求めるように、彼らもその心に光を求めているのだと。

 そして自分が食らった物は、彼らの光だったかもしれないのだと。

 なまじ愛する心を持っているから、その悲しみもわかってしまう。


 だから、食らうのをやめた。


 しかし捨てられたとはいえ元は神の身。

 食うのをやめても、死ぬことは出来なかった。


 腹が減って、腹が減って、狂うかと思えた。

 いや、どうせなら狂った方が楽にはなれるのかもしれない。

 狂いかけながら、自らの腕を(かじ)って耐えた。


 * * *


 光の心が闇の心を見つけた時には、もうその心は朽ちかけていた。

 闇が耐えながら齧った腕は、もう両の肘までが失われていた。

 その両の目は血の涙を流し、何も見ることができなくなっていた。


 そんなぼろぼろの身でも、世界が闇に包まれるとまた力が満ちる。

 もう立ち上がりたくはないのに、また飢えを満たすために立ち上がる。


 嗚呼、お願いだ。

 誰か俺の事を殺してくれ。

 俺が狂ってまた皆を食らう前に……



 ずっと貴方を探していた。

 生まれた時から、生まれるその前から、貴方だけを愛していた。

 ただ愛しい貴方に会いたかった。

 でも…


 貴方の願いであるのなら、私がそれを叶えましょう。

 この(わたし)の力であれば、貴方のその身を滅ぼすことも出来るから。



 ありがとう、誰かは知らぬ、おそらく貴い者よ。


 己のこの腕では、もう愛しい者を抱く事はできない。

 己のこの目では、もう愛しいその姿を見る事はできない。

 己のこの血にまみれた獣の口では、もう愛しいと言葉を紡ぐ事はできない。

 己のこの魂は(けが)れてしまって、もう愛しい者に寄りそう事もできない。


 それでも、それでも最期に貴女に会えて良かった……



 息絶えた闇を抱きながら光が流した涙は、地に落ちると白い花を咲かせた。

 その小さな花は、夜が来ても閉じる事なく白い花弁を輝かせる。

 そっと闇に寄り添う光のように。

※この作品は「アルファポリス」「ノベルアップ+」他にも掲載しております。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 詩的で美しかったです。
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