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桜子さんの奥様劇場

楽園

作者: 秋の桜子

 ナナノホシ ノノカ、25歳。


 男に去られました。はい、結婚指輪を楽しみにしてたのですが。ムーンシティに行ってからの、ぴかぴかラブラブウェディングになる筈でした。


 私の住むこの時代、結婚は『AI、イズモタイシャ』が、入力されたデータベースから、最適なパートナーを選び出し、相手を決めるシステムになっている。


 遺伝子情報、学歴、社会的地位、収入、親族、マイカードに入力されているそれを元に、あらゆる事を計算し尽くした上で、離婚の確率が最も少ない相手が、適齢期の間に紹介されるのだ。


 はあ……、最高、最適な相手だったのに……若い私達は、月へと移住の権利も得た。今地球は、子供を育てるのには相応しくない環境に堕ちているから。


「はあ……もう、ご先祖様何してくれてるの!子孫の私には、関係なぁぁぁぁい!」


 せっかく得た、月への移住権も消えてしまった。空中にそびえ立つ、エッグハウスに独り暮らしに戻った、わ、た、し。昨夜迄はアイツが居たのだけどな……。



 去られた理由は、アレ達の、これ以上の侵略を防ごうと、連合地球防衛軍が総力をかけて、生態の全てを調べ上げたことによる。


 何処から発生したのか、どの様に進化を果たしたのか

 何が原因か、それを海底に降る雪の結晶(プランクトンの死体)の様な微塵な欠片、産まれ行動、移動、環境、つぶさに可能性を拾い上げ、時を遡って行き分析を重ねたのだ。


 そして行き着いたある事実。それが私のご先祖様の不用意、不注意なある行動に行き着いた。それにより、私は『生態系破壊の遺伝子を持つ特定危険分子、AAA.16』と番付られ……、移住者として不合格との判定が出たのだ。


 無に消えた夢の書類を次々に選び、ゴミ箱アプリに捨てて行く……。ああ……夢の新婚生活、子づくり生活……さらば。



 ズズズズ……ビリビリ!ビビビ!遙か下にある地上から、ここ迄響いてくる音。声が波動砲の様に力を持ている。ギャオオオン!ギャオオオン!空気を振動させる力を感じる。


 私が独りに戻った原因生物が、巣に帰るべく移動が始まった。放射能を取り込んだ事により、知能と体格が発達した『カミツキ亀』先祖は小さなペットだったとか聞いている。


 事故で生態系に異変が起こったのだと。昔の人々に飼われて、事情により棄てられた生き物達、それ等の強い個体が生き残り、独自の進化を遂げている今。


 それと戦う為に、各国からエリートを集結して、設立された、世界連合地球防衛軍の管理下の元、日々を送っている私達人類。


 上からの命令は絶対。逆らえば何もかも取り上げられ、墓場と呼ばれる巨大化した、奴らの領域に運ばれ棄てられる。


 そこは『特定外来指定植物』の、ナガミヒナゲシやらオオキンケイギクが巨大化して、年中絶え間なく花咲く場所、そして……。


 棄てられ、その後奴等に捕まれば、奴らのペットになると聞く。


 ビビビ、ビビビ!とイヤなノイズが、タブレットに走る。データベースが破壊されたらめんどくさいので、スクロールして閉じた。


 ――、衣食住の保障はする。婚約者の事など忘れて、大人しくデーター入力を、ハウスでしていろ、彼には新たなるパートナーをあてがう、飼われたいか?墓場で。


 そう言われた私。


 ビリビリ、ハウスの外壁が細かく震えて揺れる。警報音が響く。外では、巨大化したカミツキ亀と、人類の戦いが繰り広げられている。カラフルレインボーな鸚哥達が、ヒュン、シュンと色を引き、眼下を飛び回っている。


 ユラユラと揺れる、最高層高層住宅で私は大きく、おおきく、絶望のため息をつく事しか出来なかった。






 七野干士 野々香 二十五歳


 男に棄てられた。しっかりと、指輪貰っていたのに。くそ!よりも寄って……


「取引先の!お局様と、逆玉の輿に乗りやがったァァァ!私の方がピチピチなのにぃぃぃ!クソお!あほんだらぁぁぁ!」


 夜風が吹く河川敷の土手で、私は缶ビールを飲みながら、雄叫びを上げていた。グヒグヒ飲んで、イカの唐揚げ食べてまた飲んで、買い込んだ袋からまた一本取り出した時。


「どうしたんやい、姉ちゃん、こんなところで危ないで、あ!その空き缶ワシにくれ」


 河川敷に住んでるホームレスのおっちゃんが、にこにこしながら声をかけてきた。その日暮らしと言っても、身なりはきちんとしている。何処かからの帰りなのか、手には洗濯物で膨れたナイロン袋を下げていた。


「空き缶、たーくさんある!どーぞ、一本飲まない?」


 差し出すさらの缶ビール。それには首を振り否を唱えると、お茶無いんか?と聞いてくる。


 横座ってもええか?と言われたので、ついでに買ったペットボトルを差し出しながら頷いた。


「おっちゃん、飲まへんの?あ!なんか食べる?ここで晩ごはん済まそうと、たくさん買ってるねん」


 ガサゴソと袋を漁り、唐揚げのカップやらおにぎり、スティック野菜や、惣菜、パンにお菓子……、次々に草の上に広げる。


「飲まへん、身体壊すのややしな、保険証ないねん。ふおん、えらいごーせーやな、んじゃ、遠慮なしに、おにぎりと漬物貰うわ、で、姉ちゃん男に棄てられたん?吠えとったけど」


 ペリペリとフィルムをめくり、焼きたらこのおにぎりにかじりつくおっさんに、私はそうやねん、年増のババアに寝盗られたとぶっちゃける。


「ほら!これ見てみ?指輪迄行っとったんやで?」


 左の薬指を見せつけた。背後にある、遊歩道灯りに少しだけキラリンと、光るそれ。貰った時は輝いて見えたけど、今ではチンケに見える。これ、偽モンとちゃう?


「そうか、そりゃ気の毒やったな、まっそんな事もあらあな、縁がなかったと思って諦めたもん勝ちやで」


 と、他人事でおにぎりを、もむもむと美味しそうに食べるおっさん、それを眺めてると、独り怒りやけ酒飲んでる自分が、何だか……アホらしくなってきた。


 くるりと指輪を回すと、スルリと抜いた、親指と人差し指でそれを摘んで星にかざしてみる。少しだけ残っている、愛がキュンと胸を締め付けた。


「まぁ、姉ちゃんも若いし、べっぴんさんや、次さがしゃええだけや」


 おにぎりを食べ終えたのか、ポリポリときゅうりのぬか漬けを食べるおっさん。そやな、と言って指輪をポケットに放り込んだ。


 それからおっさんと、くだらん話をしながら……食べて飲んで別れて家に戻った。


 翌朝。ポケットに適当に入れた指輪がないのに、気がついた。


「あれぇ?落としたんやろか、まっええけど、そういや昔、縁日で買った亀、あっこに棄てたな、可愛く無くなったんやもん、私と一緒かな……」 


 ええけど、ええけど、ええけど、お前可愛くねえもんって言われたんや、ええけど、ええけど、ええけど………


満たされぬ思いと悔しさを、今憂さを晴らすそれだけに、インスタに上げてみた。


『昔、飼ってた亀棄てた所に、うち、婚約指輪棄てたみたい、可愛くないからって、どういう事?もう、そんなのいらんし』


少しだけ、振り切れた気がした。




 ☆★☆★☆



 落とした指輪、それを別のホームレスがたまたま見つけて拾い上げた、泥で汚れていたので、川の水で洗おうと水辺に近づいた時、


「わ!わわわ!なんや!カミツキ亀がおるやんけ!」


 誰かが捨てたペットのそれがゴソゴソと、姿を表したのだ。その時ぽちゃんと落としてしまった、シルバーのそれ、


 神様の偶然か、落ちたそれを、何処の誰かが棄てた、レッドキャットテールが飲み込んでしまい、そのキャットテールをカミツキ亀が、たまたま捕獲して食べて、彼の体内に入り込んだ金属、鉱物。


 そのまま何も起こらなければ良かったのだが、たまたま、近くの科学工場が爆発、そして河川に放射性物質を含んだ科学薬品が微量だが流れだしてしまった。


 幸い人類に影響は与えない量だったので、その後ろくに調べもせず、爆発の後処理は、責任は、そちらの方ばかりに人間は突き進んだ。


 河川には……様々な元ペットだったモノが、野良っていた。そしてそこに流れ出した物質。結合してしまった『カミツキ亀』



 始祖が出来上がる。そうして………産まれた、知能高き生物が、金属を遺伝子に取り込み、鋼の甲殻を持つ亀が、産まれたのだ。


 それは進化をしていく。大きく。大きく、代を重ねる度に身体が、知能が……、己の表皮のカケラを、生き残った他の種族に与える。


 共に進化をし、この世を席巻しようと……。ナガミヒナゲシ、オオキンケイギク達が、汚れた水を吸い、ますます強く大きくなり、草原の生態系を塗り変えている様に。


 オムレツのような黄色、オレンジ色、赤い色、レモン色、広がる花畑は美しい楽園の様。



 風にユウラユウラと身を委ね、楽園にコロニーを作り咲く花達が、くすくす嗤い揺れている。


 終。

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― 新着の感想 ―
[一言] 因果は巡る。 にしても、ノノカさん可哀そう過ぎますね。 原因を作ったご先祖の野乃香さんはお墓の下で、唯々びっくりでしょうけど。 オオキンケイギク。車を走らせていると、路肩にド派手な黄色の花を…
[良い点] うっわーーー! ご先祖さま! やらかしちゃいましたね! ……それならば、寝取ったお局さまも元婚約者ももちろん、同罪ですよね(にやり) この話めっちゃ好きです!
[良い点] 指輪を飲み込んだ亀が強固な皮膚を持つと言うのはそそられました。 良いですね、ワクワクします。
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