なんで同衾なんて目に……
「一晩泊まりたい。幾らだ」
「一部屋につき銀貨十枚」
「それじゃあ二部屋……」
「待って下さい!」
俺と店主の会話にリネアが口を挟む。
「龍覇さん。部屋は一つで大丈夫じゃないですか?」
「何故だ? 男女で部屋を分けた方がいいだろう」
「いえ、私は大丈夫です。お金は節約した方が良いですから……」
「まあそれはそうだが……お前は本当にいいのか?」
「はい! 龍覇さんなら大丈夫だと思ってます!」
「……まあそう言うならいいが……」
俺は宿屋の主人に向き直る。
「それじゃあ、悪いが予定を一部屋取り消してくれ」
「へいへい。こんな可愛い子ちゃんと相部屋とは良いご身分だねお兄さん」
「そうか? つきまとわれてみると鬱陶しいぞ」
「鬱陶しいときたか! 選り好みできるお方の言うことは違うね!」
うーむ。冗談めかしてではあったが、流石に美少女と一夜を共にするのは端から見れが羨ましい事のようだ。女にまったく、というのは言い過ぎだが、そこまで興味がない者にとっては逆恨みも良いところなのだが、他人のことにとやかく言っても仕方がないだろう。
「えへへ……相部屋になっちゃいましたね龍覇さん」
「何がえへへだ。お前が相部屋で良いと言ったんだろうが」
そこまで大きな宿屋ではないが、それなりの部屋に必要なものがまとまっており、手入れも行き届いていて、悪くない宿屋だ。
「そう言えば明日はどうするんですか?」
「冒険者ギルドに登録に行く。今朝の冒険者を見ると少し不安になるが、最悪上の首を何本かすげ替えればなんとかなるが、穏便にやるに越したことはない。」
「でも龍覇さんの実力ならすぐにS級位になれちゃうので結局目立つことになると思います」
「まあそうなったら……その時考えよう。明日も早い、そろそろ寝るぞ」
「はい。あれ?」
おもむろに寝転んだ俺にリネアが声をかけてくる
「床で、寝るんですか?」
「他に何処で寝るんだ?」
「ベッドで寝ないんですか!」
「だってお前が使ってるじゃないか」
「龍覇さんも使ったら良いじゃないですか」
「お前はいいのか? 男と同衾なんて」
「勿論です。なにかあっても構いませんし、最悪なにもなくても結構です」
「なにかってなんだよ」
「それは……その……なにかです」
いやわからねーよ。なんか知らんが真っ赤になってるし。
「いや……その……食べられたりとか……」
「食わねーよ。食人趣味はないからな。食うならもっと食いでがありそうな奴を選ぶし」
「龍覇さんはむっちりした人が好みなんですか?」
「いや違うし! さっきからおかしいぞお前」
「とーにーかーく! 今夜は一緒に寝ましょう! 私がいいと言ってるから良いんです!」
「やれやれ。……そこまで言うなら……」
ベッドに引きずり込んできたリネアの顔は少し紅潮していたように見えた。
深夜、胸元が暖かく感じたので目が覚める。
案の定、俺にがっちりと抱きつくリネア。
「好き……です……」
寝言であらぬ事を口走るリネア。別の男の胸の中で愛の告白とか勘弁して貰いたい。
「よく見ろ。別の男だぞ」
「間違ってなんか……いませんよぉ……」
寝言で返事をするとは中々器用だな。さてどうしたものかこの状況。
苦肉の策として、仕方なく抱き帰す事にした。荒療治の様な気がするが、良い薬になるだろう。