慈善活動って言えばいいのかな?
リネアの案内で少し離れた街に着いた頃には夕方になっていた。取りあえず宿屋を探すことにしよう。
通りを歩いていると、揉め事が起こっているのに気がついた。ガタイの良い男が別の男の胸ぐらを掴んでいる。明らかに異常な光景だが、周りの通行人は見て見ぬふりだ。
「おいあんた。白昼堂々脅迫とは良い度胸じゃないか」
「はっ! それがどうした? S級冒険者の俺に楯突く気か? 捻り潰されたいかてめえ!」
なるほど。この男S級の冒険者のようだ。こんな人間でもS級になれてしまうギルドのシステムに懸念を覚えるが、これなら通行人が見て見ぬ振りをしているのも納得がいく。
「ここで捻り潰されてみるのも悪くないかもしれないな」
「上等だゴラァ!」
はっきり言って自信はないが、襲いかかってきたものはしょうがない。いっちょやったりますか。
得物の大剣を抜きざまに切り上げる。一見して隙が大きく非実用的に見える技だが、最初の一撃で仕留めることを可能にしているため、一対一においては有効な技だ。
だが、
「そんなゆっくりと振っていたようでは仇になるばかりだ」
手応えから渾身の一撃を躱されたことを悟った相手の目に驚きが浮かぶ。
そう、この技の難点は、絶対に相手を初撃で戦闘不能にしなくてはならないということ。さもなくばがら空きとなった胴体に手痛い反撃が飛んでくることとなる。今回はその自信が仇となった。
「そんな……あのゴーリオの攻撃を難なく躱しただと?」
「なんなんだあの旅人!」
「おいおい、四王に匹敵するんじゃねえかあの身のこなし……」
驚いているのはゴーリオばかりではないようだ。通行人達も目を見開いてこちらを見ている。
「てめえ……やってくれるじゃねえか!」
実力差をわからせられたと思ったが、ゴーリオはまだやる気のようだ。状況分析も禄に出来ない奴がS級になれていると思うと、つくづくギルドが心配だ。
「やれやれ。さすがに殺すのはマズいか……となれば」
スキル発動【睡魔の囁き】
しっかり決まったようだ。ゴーリオの大柄な体が前につんのめって地面に倒れ伏す。
眠らせられたのはいいが事後処理を独りでやらなくちゃいけないのか、これ。面倒だな。
「皆様。この度は誠にお騒がせいたしました。皆様の貴重なお時間を無碍にしてしまい、私慚愧の念に堪えない次第でございます。これも全て力ありながらそれを御し得ない私の不徳、いえ無徳が故に御座います。許させざるこの罪、千年、万年をもって償わせて頂く所存にて……」
「何を仰るのです! 我らのために悪漢を断罪して頂きながら何を謝られる事があるのです! 本来ならば我らが謝らなければならないところです」
通行人の1人が慌てて止めに入る。
「強いだけじゃなくてここまで謙虚だなんて……」
「神様か何かじゃなねえのかこの人」
「王の器って奴なのかねえ」
大袈裟だな。これくらい誰でもできるはずだ。
「さすが龍覇さんです。とても鮮やかでした!」
「結構お世辞が上手いんだな」
「お世辞じゃありません。本心です」
「そうか。だがこの世は広いんだ。俺くらいの実力の奴なんてゴロゴロいる」
「龍覇さんレベルの人がゴロゴロいたら世界は滅んでると思います」
「それもそうだな」
はっきり言って、本気を出せば俺でも世界は滅ぼせる。脆弱なものだと思うが、そういう世界なのだから仕方がない。そういった個性を認められてこそ大人という奴だ。
「あっ!」
「どうしたんですか龍覇さん?」
「宿屋探し忘れてた」
数時間後、なんとか俺達は日の入り前に宿屋に入ることに成功したのだ。