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三人寄れば

「君、本当にそれだけでいいの? もっと食べたらどうなんだ」

「…………」


 卒業試験に向けて魔法の訓練を続けていたレオンたちは、共に食事をとることも多くなっていた。

 いつもロゼリアの食事の量が少ないに気付いたレオンは、じっと彼女の顔を見つめて言った。


「君の肌が白いのは、引きこもりだからかな? 年齢としの割に小さいのは、好き嫌いが多いから?」

「た、確かに苦手なものは多いけれど……。なんでそんなこと言うの!? 貴方はいつも、一言余計だわ!」

「だってせっかく僕が用意してもらったのに、あまりにも君が食べないから」


 今日の食事は、レオンがミリアに頼んで、ロゼリアの分も用意させたものだった。

 『同じものを食べたい』と、そうロゼリアが言ったからわざわざ用意したのに、あまりロゼリアが食べないことに、レオンは気分を損ねていた。


「ただ魚が食べられないだけなの……」

「青の大海ディランの姫君が魚嫌いとは」

「昔はよく海に潜っていたの。そのせいで、眼の前に出されたらそれを思い出してしまって……」

「でも、肉なら食べられるんだ? おかしいな。命に優劣はないはずなのに」

「そ……それは、だって」


 言いよどむロゼリアを見てレオンは笑う。

 確実に意地悪な人だと思うのに、自分の困り顔を見て楽しそうに笑うレオンの姿を見ると、心臓の鼓動が速くなるのをロゼリアは感じた。

 ロゼリアは勢いよくレオンから顔を背けた。 


 ――だ、ダメよロゼリア! ときめいたり、赤くなったりなんてしたら! このままでは、どきどきしているのがバレてしまうわ!


「べ、別に私の勝手でしょ!」

「全く、人の話の途中でそんな態度をとるだなんて。『海の皇女』とはいえ、君はまだまだ子どもだな。まあいい。ならこれを君にはあげるよ」


 レオンはやれやれと言いながら、ロゼリアにサンドイッチを差し出した。

 アフタヌーンティーに並ぶような、小さく切り分けられたものだ。


「一つ食べてみて」


 ロゼリアはレオンに言われるまま、一つ手に取って口に含んだ。

 薄く切られたパンに、レタスとトマトとマヨネーズ。

 特別なものではなかったが、一つ違う点がある。


「甘い……?」

 マヨネーズが甘く味付けされていたことにロゼリアは驚いた。

 好きな味付けで、ロゼリアは思わず他の具材もと手を伸ばしていた。


「子どもの君でも食べやすいだろう? 僕たち幼なじみの間で、昔よく食べていたものなんだ」


 昔を懐かしむような顔をして、レオンが嬉しそうに、穏やかに笑う。

 そんな彼を見て、ロゼリアは胸がチクリと痛んだ。

 レオン・クリスタロスは、かつて幼馴染のローズ・クロサイトのために、ロイやベアトリーチェと戦っている。

 だとしたらこのサンドイッチは、レオンにとってローズとの思い出の味ということだ。


「貴方は、まだ彼女のことが好きなの?」

「……誰のこと?」

「『剣神様』のこと」


 突然のロゼリアの問いに、レオンの声色が低くなる。


「なんでそんなことをいきなり……。元々、父上は彼女と僕に王位をと仰られていたんだ。だから僕たちは……昔から、それだけの繋がりがあるというだけで」

「誰かに言われたからそう行動しているの? それとも……」

「君、少し黙ってくれるかな」


 レオンは、深いため息を吐いた。


「全く、なんで揃いも揃って、そんなことを僕に聞くんだ」

「……だって」


 不機嫌そうなレオンに、ロゼリアはそれ以上聞くことは出来なかった。

 まずいことを聞いてしまったのではと少し落ち込む。ロゼリアは、レオンに嫌われたくはなかった。


「まあまあ、喧嘩するなよ。二人とも、そろそろ練習を再開しよう。『最優秀』に選ばれるために、まだまだ訓練は必要だからな」


 微妙な空気の二人を前に、ギルバートはいつもと変わらぬ笑みを浮かべていた。



◇◆◇


「……なんでローズがここにいるんだ?」


 アカリに呼び出されたリヒトは、ハロウィンのイベント前からアカリに避けられていると話していたローズが、約束の場所に居たことに驚いた。


 ローズは高等部に編入した。

 必要単位取得のために慌ただしい日々を送っているとも聞いていたし、フィンゴットのこともあり暫くは距離を置きたかったリヒトは、ローズに会う心の準備が出来ていなかった。


「リヒト様を、三人目に誘おうかと思いまして」

「……俺は、お前とだけは嫌だ」

「リヒト様……」


 即答すればローズが悲しげな顔をして、リヒトは少し動揺した。


「リヒト様は、やはり私のことをお怒りなのですね」

「い、怒りっていうわけじゃないけど……」


 フィンゴットのことは、そもそもリヒトが自分からローズに頼んだのだ。

 だが結果としてリヒトの陰口が増えたのも事実で――ローズから暫く距離をとりたいと思っていたのに、いつも強気な幼馴染がしおらしく見えてリヒトは混乱した。


「でもリヒト様、ローズさんの誘いを断って、他に組んでくれる相手はいるんですが?」

「あ、アカリ?」


 少し見ない間に、何故か以前よりはきはきとした話し方をするようになったアカリに、リヒトは驚いた。

 これでは、二人の纏う雰囲気がいつもと逆だ。


「だって、考えてもみてください。逆に私達と組んでくれる人が、ローズさん以外にいるっていうんですか?」

「うっ」


 その言葉はリヒトに刺さった。

 ギルバートに断られたリヒトに、他に誘える相手はいない。


「リヒト様にとっても私にとっても、これが最善にして唯一の選択です」

「……わかった。その申し出を受け入れよう」


 心が痛い。

 心臓を押さえてよろよろしながらリヒトが返事をすると、ローズは嬉しそうに笑った。


「ありがとうございます。リヒト様」

 


「試験に挑むにあたり、私はリヒト様の考案された魔法を使いたいと思っています」

「……俺の魔法を?」

「リヒト様は、何か使いたい魔法はありますか?」

「それは……突然言われても困る」


 早速試験に向けて準備を始めることにした三人は、木陰に集まって話をすることにした。


「試験会場は大きいみたいですし、出来るだけ映える魔法がいいと思います。紙の鳥については、最近話題になっているみたいなので入れるべきだと思います」

「そうですね。でもだとしたら構成が……。すいません。アカリ、リヒト様。私から頼んでいてなのですが、いくつもの魔法を披露する方法を、実はまだ思いついていなくて。お兄様たちは三人で一つの魔法を作るとのことでしたが、私たちではそれは難しいですし……」

「それについては、もう考えてきました。私は、三人で劇ができたらと思います」

「「……劇?」」


 アカリの提案に、ローズとリヒトは同じ言葉を繰り返した。


「はい。そうすればリヒト様の魔法を使うことも可能だし、私も台本なんかで協力出来るし、精霊の力も借りやすいだろうし。ローズさんにもぴったりだと思うんです。まだどんな劇をやるかは決めてないんですが……」


 アカリは腕を組んでうーんと唸った。


「シンデレラとかいいかなと思ったんですが、そうなると魔法使いと王子と意地悪な妹だとか、一人何役もしなきゃいけなくなるし。そもそも舞踏会で人が足らないと思うし、有名なお話のほうが食いつきはいいだろうし……」

「それなら、いいものがありますよ」

「え?」


 ローズはそう言うと、指輪の中から本を取り出した。


「シャルルが文字の勉強をしているとのことだったので、一緒に読めたらと思って、一応入れておいたんです。劇の主軸となるお話については、アカリにこの中から選んでもらえたらと思うのですが、どうでしょうか?」

「確かにこの世界での有名な話ということであれば、この中から選ぶと良いかもしれません」


 アカリは本を手に取った。

 本にはアカリがよく知る本と、そうでないものがあった。


「これなんかどうでしょう? 『ヘンゼルとグレーテル』」

「ローズさんが魔女役は却下です。かっこよくないですし」

「では『白雪姫』……」

「配役がきつそうです」

「それでは――……」


 ローズが本を持ち上げてはアカリに尋ねていると、本の隙間からぱらりと何かが落ちた。


「今何か落ちてきたぞ」

 リヒトはそれを拾い上げるとローズに差し出した。

「えっ?」

 ローズはリヒトに渡されたものを見て驚いた。

 それは、とても精巧な絵にローズには見えた。だがその絵を見て、アカリは声を上げた。


「ローズさん! これ、『写真』です!」

「『写真』? あの……天才双子のマリーアンドリリーが、まだ完成できてないっていうあの?」


 アカリの言葉をきいて、リヒトも写真をのぞき込む。

 天才と言われる二人が作り出せずにいるものが、どうして指輪から出てくるというのか。

 指輪は、元々クリスタロスに古くから伝わる王家の秘宝だというのに。


「この写真、少しローズさんに似てませんか?」

「私にですか? でも、この指輪は元々リヒト様がお持ちになっていたものですし、『しゃしん』の女性は、私よりも年上の方かと思いますが……」

「指輪って、元々クリスタロスの王家で受け継がれてきたものなんですよね? それでローズさんのおばあさんって、お姫様だったんですよね? もしかしてその人とか……?」


 ローズの祖父、『剣聖』グラン・レイバルトの妻は、クリスタロスの姫君だった。

 だからその写真はローズの祖母なのではとアカリは思ったが、ローズは静かに首を振った。


「どうでしょう。顔立ちは祖母に似ていると祖父に言われたことはありますが、そもそも『しゃしん』とは異世界の文化で、この世界にはまだ存在しないものではなかったのですか? それに祖母は茶髪ではなかったはずです」

「うーん。だとしたらこの写真は、一体誰のものなんだろう?」


 『誓約の指輪』

 アカリにとってその指輪はゲームの中のキーアイテムでしかなく、由来についての情報は無い。


「まあ、分からないことを考えても仕方がありません。とりあえず劇については、私がこの中から選んで台本を書きたいと思います。リヒト様は、舞台映えしそうな魔法を全部私に教えてください。出来るだけ、それを組み込めるように構成を考えます」

「わ、わかった」


 ハキハキ喋って自分に指示を出すアカリに、リヒトは慌てて頷く。


「アカリ、私は何をすべきでしょうか?」

「そうですね……。どの題材にするかはまだ決まっていませんが、ローズさんには王子様役などお任せすると思うので、衣装のサイズ合わせに付き合ってください」

「え?」 


 アカリの返答に、ローズは目を瞬かせた。この学院に来て、やたらとその格好を求められている気がする。


「ローズさん。目立つためには、需要を理解することが大事なんですよ?」


 アカリはそう言うと、にっこりと笑った。


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