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契約獣、あるいは従獣

「契約が可能な生き物は、下級、中級、上級、最上級に分かれています。現在、最上級とされる生き物は、この世に二つしか存在しません。さて、ではその二つとは何でしょうか? では、そこの貴方」


「ふぃ、フィンゴットとレイザールです」

 教壇に立つ教師に視線を向けられ、リヒトは一度びくりと体を跳ねさせてから、おずおずと答えた。


「その通り。『最も高貴』とされるのは、光の天龍『フィンゴット』、闇の黒鳥『レイザール』です」


 黒いドレスの、まるで物語に出てくる魔女のような格好をした教師は、リヒトの答えを聞いて頷くと本を開いた。


「契約を結ぶことの出来る生き物は、主人となる貴方方の魔法への適性が強く影響します。水属に適性を持つなら水の生き物、風属性であれば飛行種との契約は、通常よりも容易となります。逆に地属性に適性が強い場合、まれに飛行種との契約が難しくなるという事例も報告されています」


 地属性の適性がある人間が、飛行種との契約が結べない――それは、ベアトリーチェが良い例だ。

 リヒトはそう思いながら、本に描かれたページの、ただ一つの生き物を見つめていた。


「この授業では、世界に存在する様々な生き物について学び、より強いと判断される個体と契約を結んだ者に、実技における高評価を与えます」



「いいなあ! リヒトは十五歳を超えてるから、もうその講義取れるんだ!」


『世界の生き物とその契約』

 リヒトが教室で教科書を読んでいると、幼等部の生徒が声を弾ませて教科書を覗き込んできた。

 その声を皮切りに、子どもたちがリヒトの周りに集まる。リヒトは笑って、教科書を彼らに手渡した。

 子どもたちは目をきらきらと輝かせ、食い入るように教科書に描かれた生き物たちを見つめていた。


「この講義、お前たちはまだ取れないんだったか?」

「リヒト様。契約獣との契約は、十五歳以上が推奨されています」

 護衛のためリヒトの側にいたローズは、そっとリヒトに告げた。


「……ああ。そうか」

 魔力が「固定される」年齢で契約を結ぶ。

 とすれば、学院側が年齢を制限するのは理に適っている。


「いいよなあ。ドラゴン! 憧れる。グラナトゥムにはいくつか騎士団があるけど、龍騎士団はやっぱり一番かっこいいもんなあ。レグアルガもかっこいいし……」

「わかる! 確かに! ドラゴンって、それだけでもうドキドキする!」

「でもやっぱり、一番契約したいのは――……」


 子どもたちは、目線を合わせてにっと笑った。


「『フィンゴット』だよな!」

 

 子どもたちの明るい声は重なる。うんうんと、誰もが一様に頷いていた。


「レグアルガも伝説級で上級だけど、フィンゴットとレイザールが別格って言われてるし。もうレイザールは契約されちゃってるから、狙うなら、フィンゴットしかないじゃん!」


 現在、レグアルガはロイと、レイザールはレオンと契約を結んでいる。


「でも、なんでそもそも『別格』なわけ?」

「そのことについては僕がお答えよう」


 首を傾げる子どもたちを前に、読書家らしい少年が、丸みを帯びた眼鏡をくいっと持ち上げて答えた。


「フィンゴットとレイザールは、一定期間を経て卵に戻る生き物とされている。そしてその性質を持つこの二つの生き物は、光と闇の、世界の始まりの生き物とも言われており、最古の生物として広く知られているんだ。また、この二つの生き物はかつてとある国の王と契約を結んだ際、人の姿をとって国を導いたという話もあり、これは『聖獣奇譚』として記録に残っている。そして学院には、そのフィンゴットの卵がある。『石の卵』と呼ばれるものだけど、グラナトゥムの魔法学院に世界中から王侯貴族が入学したがるのもこれが理由の一つで、最も高貴とされる生き物に認められれば、自分の価値の証明になると考えれているからだと聞いたことがある」


 『王を選ぶ生き物』

 フィンゴットとレイザールが、『最も高貴』とされるのは、そういう理由もあるのだ。


「お貴族様のことは俺にはよくわかんないけど……。でもいいよな~~! フィンゴット!  世界で一匹しかいない白い龍なんて、契約できたら最高じゃん!」

「でも学院に卵があるのに、これまで誰も目覚めさせられなかったってなると……やっぱり難しいのかなあ」

「三人の王が『フィンゴットの卵』を学院におさめたという記録は残っている。ただ学院に『卵』はあるけど、フィンゴットは千年以上ずっと目覚めていないっていうのも事実だね。そのせいで、もしかしたら存在自体架空なんじゃないかっていう人間もいるくらいだ」


 眼鏡の少年の言葉に、他の子どもたちはうーんと唸ってから尋ねた。


「確かフィンゴットの前の契約者は、三人の王の一人なんだっけ?」

「え? それってレイザールだろ? だから三人の王の――『賢王』レオンと契約してたからこそ。レオン王子と契約したのも納得っていうか、元主だろ」


 異例中の異例。

 『賢王』レオンの生まれ変わりだからこそ、年齢や魔力量が条件を満たしていなくても契約を結べた――だがこの言葉に、少年は左手を口元に添えて苦笑いした。


「正確に言うと少し違う。『賢王』レオンは、レイザールと契約していたっていう説と、フィンゴットと契約していたという説あって、どちらが正しいのか、どちらも正しいのかわかっていないんだ」

「そうなのか!? でも、どっちもだったら正直やばいよな。最も強い力を持つ生き物を両方従えるなんて、本人が世界最強じゃんか」


 太古の力。

 始まりの力。

 ローズも、レオンがレイザールの力を借りているところを見たことはある。

 レオンがその力を使いこなせているかというと、今のローズには分からない。

 ただその生き物と契約を結んでいるということが、世界でどういう評価を受けるのかは、ローズだって知っている。


 『三人の王』

 この世界で知らない者がいないその存在の転生者とされるレオンは、今の彼がどうであれ、子どもにとっては憧れの存在なのだ。

 ましてや、すでに『最も高貴とされる生物(レイザール)』と契約を結んでいるなら尚更。

 

「でも、本当にレオン王子がフィンゴットと契約を結ぶ可能性はあるよな。だってここには、フィンゴットの卵だって言われている、『石の卵』があるんだから!」

 

 『フィンゴットと契約を結びたい』

 そう言っていたはずの少年は、瞳を輝かせて、その弟であるリヒトの前で声を弾ませた。



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