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絵本の中の魔法

「おい。誰か話しかけろよ」

「無理だって。なんか近寄りがたいもん。ディランのお姫様とか、怒らせたら怖いし」

「だよなあ。そもそも王族とか、俺達とは遠すぎるし……」


 新たに加わった『仲間』を前に、幼等部の教室ではヒソヒソとそんな会話が行われていた。


「……でも、このままじゃ俺たち、のけものにしてるみたいじゃん」

「それは、みんなわかってるけどさあ……」


 窓際に座る海を思わせる少女は、まるでこの教室には誰もいないかのように悠然と鎮座していた。

 強い魔力を持つ者は、独特な存在感を持っている。

 故に誰もが彼女から目を逸らそうとしても、引力でもあるかのように気になってしまうのだった。

 結果、じろじろと見てしまうのに話しかけられないという事態が発生するわけで――生徒たちがどうしようかと考えあぐねていると、本を抱えた救世主が現れた。


「お前たち、なに固まって話してるんだ?」


「「あ~~~~っ!!!」

 その瞬間、リヒト以外の生徒の心が一致した。

 そうだった。今この教室には、『王子様』がいるんだった!


「リヒト、リヒトがいたじゃん!」

「そうだよ。リヒト様なら問題ない!」

「なあリヒト! 実は一つお願いがあるんだけどさぁ」

「……ど、どうした? とりあえず、一人ずつ話してくれ」

 前のめりに瞳を輝かせた年下たちに詰め寄られ、リヒトはたじろいだ。



「…………」

「………………」


 リヒトの席はロゼリアの隣になった。


『リヒト様の隣に座りたい!』

 そんな女の子同士の攻防があったのは遠い昔。

 教室の中、リヒトとロゼリアは完全に孤立していた。

 まるで、触ったら爆発する爆弾のような扱いだ。

 リヒトは彼らの反応に頭を悩ませていたが、百面相するリヒトを見てエミリーはにっこり笑っていた。


「あら。リヒトくんとロゼリアちゃんは仲良しなのね。リヒトくんはこの教室では一番お兄さんだし、ロゼリアちゃんに分らないことは教えてあげてね」


 仲良し。

 そんな言葉で自分たちの仲を表現されると、いささか困る。


 ――というか、世界で一、二を争う規模の大国の、ただ一人の皇女を『ちゃん呼び』って……。


 リヒトは思わずエミリーの顔をまじまじ見てしまった。

 ローズとは方向性が違うが、いろんな意味で強い人だ、と改めてリヒトは思った。



 午前の講義を終え、幼等部の生徒たちは共に食事をとっていた。

 学食は特待生である彼らに無償で食事を提供しており、今日彼らはサンドイッチを作って貰い、青空の下集まっていた。


 午後の講義は、エミリーがロゼリアに学院を案内することになり休講となったのだ。

 時間はたっぷりある。

 ただ、最近いつもリヒトの側にいるフィズは、用があるとかでこの場にはいなかった。


「お前らなあ……。確かに少し話しづらいタイプかもしれないけど、ああやって距離とると逆効果だってわかるだろ? 普通に接しろよ。同じ仲間だろ?」

「ごめんって」

「俺たちも悪気はないんだよ」

「でもさあ……ほら、『触らぬ神に祟りなし』っていうか」

 

 年長者として、供物として捧げられたリヒトは、乾いた笑いを浮かべる彼らに注意した。

 ロゼリアの態度が悪いというのは確かだ。ただだからといって、たくさんの人間が一人の人間を避けるようなことは、構造上いじめと変わらない。

 

「上手く言えないんだけどさ、俺たちにしたら、教室に突然陛下がやってきたのと変わらないんだよ」

「それめっちゃわかる! なんか、緊張感があるって言うか……」

 

 うんうんと頷く生徒たちを横目に、リヒトはロイのことを思い浮かべてみた。

 教室にロイがいる――。

 少し面倒だとは思うし目立つだろうが、それ以上の感情は、リヒトには浮かばない。


「だって三人の王の名前を継ぐのは、その力と同等の力を、生まれたときから持っているって認められたやつだけなんだろ?」

「……まあ、そう言われてはいるな」


 リヒトはやや遅れて頷いた。

 『そういえば、確かにあいつは三人の王の名を継ぐ一人だった』なんて思う。

 代わりにリヒトはレオンを思い出し、もし教室に兄がいたら、自分は避けてしまうかもしれないと思った。


 大陸の王ロイ・グラナトゥム

 海の皇女ロゼリア・ディラン

 賢王レオン・クリスタロス


 兄であるレオンが、幼い頃から才能が特出していたことはリヒトも知っている。

 クリスタロスが、グラナトゥムやディランに名を並べるには規模が劣る国でありながら他国に一目置かれているのは、『三人の王』の輩出国であるからだ。

 そしてその王の生まれ変わりと言うに相応しい者として、レオンの名前を与えられた兄の凄さを、リヒトは幼い頃見せつけられて育った。


 ――そんな兄上に勝とうだなんて、確かにおこがましいかもしれないけど……。でも。


『伸びる前の芽は、いつだって小さいものだ』

 ロイの言葉を思い出し、リヒトはぎゅっと拳を握った。


「俺にだって、きっと、俺にしか出来ないことが……」


「そういえばさ、リヒトは最近、なんか課題? 出されたやつって進んでんのか?」

 しかしその言葉は、心配そうにリヒトを見つめる少年の声に妨げられた。


「……まあ、一応」

「よかったじゃん! なんかいっつも図書館とかに籠もってるし気になってたんだよ。またなんか作るつもりなのか?」

 少年の問いに、リヒトは少し笑って大きく頷いた。


「ああ。異世界で、『コンタクト』と呼ばれるものを作ろうと思うんだ」


「……こん……たくと?」

 しかし聞き慣れない言葉に、その場にいた者たち全員が目を瞬かせた。


「イメージとしては、目にメガネを入れる? という方がわかりやすいかもしれない」

「え!?」

「なにそれ、めちゃくちゃ痛そうじゃん!」

 リヒトが『コンタクト』を目に入れるふりをすると、あちらこちらから悲鳴が上がり、リヒトは慌てて補足した。


「それについてはちゃんと考えるから、たぶん痛くはない! ただ、どうやら本によると、『コンタクト』には、柔らかい素材と硬い素材があるみたいなんだよな。硬い方が耐久性はあるみたいだけど、痛みの症状が出やすいみたいで……。柔らかい方は痛みが出にくい人が多いけど、耐久性としてやや弱いらしいんだよな」


 リヒトの説明を聞いて、『なら大丈夫かなあ』なんて声が上がる。

 リヒトはそれを聞いて微笑んだ。


「驚かせてごめん。正直、俺の話を聞いて『怖い』って声がでるのは予測していた。世界が違えば『常識』も違うからな。だから俺は、まれびとには当たり前でも、この世界で当たり前でないものを取り入れるとは、最初から痛みが出るものを利用するべきじゃないとは考えてる。ただ逆に、こうも考えられる。あちらの世界にはなくても、この世界には、もっと柔らかくて適した素材、長い期間使っても耐えられる耐久性をもつものもあるかもしれないって。それにそもそも、視力の低下が魔力の低下によるものなら、それは異世界と同じ原理でものを作っても使えない可能性が高い。考えるべきことはいろいろある。問題の解決には、俺は『この世界に合わせて作ること』が、一番大切だと思うんだ」


 熱弁していたリヒトは、自分が注目されていることに気付いて、ハッと我に返った。

 なんとなく気恥ずかしい。


「……なんで俺のことみんなそんなじっと見てるんだ?」

「いや……リヒトがなんか真面目なこと言ってるなって思って」

 素直な返答の後、長い沈黙があった。


「お前らも、俺のこと馬鹿って思ってたのか?」

 リヒトは、はあと溜め息を吐いて尋ねた。


「違う! そういうのじゃなくて!」

「なんか、こう……。……普段とは違うなって思って」

「普段と違う……といえば、この間図書館で見かけたとき眼鏡かけてなかったか?」


「ああ! これか?」

 リヒトは自分の発明品に気付いてもらえたのが嬉しくて、さっと懐から『ぐるぐるメガネ』を取り出した。


「これは俺の発明品なんだが、特殊な魔法がかけてあるんだ。これがあれば読書がはかどるぞ。いるならやろう」


 だが、瞳を輝かせていたのはリヒトだけで、周りの生徒たちは可哀想なものをみるような目でリヒトを見ていた。


「ごめん。それダサいからいらない」

「リヒトって、ほんとこういう才能ないよな」


 一刀両断。

 暴言を吐かれて、リヒトは胸を押さえた。

 傷なんてどこにもないはずなのに、胸が痛かった。

 直球ストレート、子ども素直な意見がリヒトを襲う!

 リヒトが眼鏡を手に一人膝をついて落ち込んでいると、生徒の一人が思い出したかのように言った。


「そういえばさ、確か古代魔法の一つに、瞳の色を変える魔法ってなかったっけ? 絵本で読んだ気がする」


 古代魔法は、魔法陣が残っていないことから、復元不可能な魔法ともされている。

 だからこそその魔法は絵本や小説の中で、『おとぎ話の魔法』として登場することがある。


「古代魔法が出てくる絵本だったから、俺も昔読んだことがある。でもあれは赤い本によると、視力回復効果はないとみたいなんだよな。それに透眼症は、やっぱり目が見えなくなるっていうのが、俺は一番の問題だと思うし……」


「でもさ、模試その古代魔法が本当にあったってんなら、リヒトが言う『この世界で使える素材』は、昔からこの世界にあったってことにならないか? つまり、瞳に触れても大丈夫な素材が――」

「……なるほど、確かにそうだよな」


 古代魔法の全てが、かつて実際にあったっていう場合は、だが。


 ――確かにそう仮定するならば、『素材そのものは、古い時代からこの世界に実在するもの』ということになり数を絞れる。

 リヒトはこれまでそういう視点で、絵本の中の記述を見たことはなかった。

 絵本にされるような話は、創作されたものもあるが、有名なものの場合原型は古くかる存在するものも多い。

 リヒトにとって、それは新しい『発見』だった。


「でも古代魔法って、割と謎な魔法魔法あるよな。瞳の色を変える魔法なんて、作る意味わからないし。しかも確か話によると、古代魔法のやつって、赤い目を青い目に変える方法だったらしいじゃん? 水属性だから魔力強くても青、って人はいるけど、基本赤は最強の証なのに、それをわざわざ青くするなんて、意味分かんないよな。まあ、これは今はどうでも良いか」


「……ありがとう。希望が見えた気がする」


 リヒトは、自分のために一緒になって考えてくれる子どもたちの言葉を聞いて笑った。 

 リヒトにとって、幼い頃から研究は、ずっと一人でするものだった。 

 誰かと話をして、何か新しい『発見』をしたことなんて、これまでのリヒトにはなかったことだ。


「おう!」

 心からの笑顔を見せたリヒトを見て、子どもたちもつられて笑みを浮かべる。

 穏やかな空気が流れる中、食事を終えたりリヒトは元気よく立ち上がった。


「じゃあ、俺はこれから早速図書館に行って調べ物を」

「待て! 今日こそは逃さないぞ!」


 しかしその瞬間、リヒトは子どもたちに体を拘束された。

 手や足にしがみつかれては、リヒトは彼らを振りほどくことが出来ない。


「な、なんだよ。俺はこれから――」

「そんなこと言いながら、俺たちに全然かまってくんないじゃん!」

「リヒトのくせに生意気だぞ!!」

「生意気って……」


『これでも俺はお前たちより年上で、一応一国の王子なんだが?』

 リヒトは、喉まで出かかっていた言葉を飲み込んだ。

 ひどいいわれようだと思うものの、身分の差を意識せず彼らが自分に接することが、リヒトは嫌いではなかった。


 ――意識させて、自分から壁を作る必要は無い。


「勉強に、息抜きは必要だって! 常識だぞ!」


 詰まるところ、『自分と遊びたい』と言いたいらしい子どもたちを前に、リヒトは降参したとわんばかりに手を上げた。


「……わかった。それで、何をするんだ?」


 リヒトが尋ねれば、子どもたちはわっと声を上げて、リヒトの手を強く握って満面の笑みを浮かべた。


「じゃあ今日これから、みんなでお化け屋敷に行こうぜ!」

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