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海の皇女

「久しいな。ロゼリア」

「……」


 仮面を手にしたローズは、ロイの代わりに後ろに下がった。

 長身のロイが並ぶと、更に小さく見える――ロイの言葉に、ロゼリアは顔を背けた。

 少女の前で手を広げると、ロイは大きな声で述べた。


「彼女は、青の大海ディランの『海の皇女』ロゼリア・ディラン。少し遅れたが、今日から彼女も、この学校に通うことになる。筆記試験は合格、実技の加点なしでも入学を認める点数だったので今日は参加してもらったが――クラス分けは、そうだな……」


 ロイは、ちらりとロゼリアを見た。相変わらず視線は合わない。


「実技の試験は、今ここでやってもらおうか」

「……!?」

 ロイがそういえば、彼女は目を大きく見開いて顔を上げた。


「なにか問題でも? 『海の皇女』のお前なら簡単だろう?」

「……ッ!」

 ぎゅっとドレスを掴む、彼女の手は震えていた。

「結界の用意を」

「かしこまりました」

 しかしロゼリアの意志などお構い無しで、ロイは静かに指示を出した。



「『三人の王』の一人……『海の皇女』」


 海の青を思わせる青の瞳。髪は海の波のようで、つやつやと輝いていた。

 それはアカリが、この世界の歴史として学んだ、『海の皇女』の外見と一致している。


 学院を設立した三人の王。

 『赤の大陸』グラナトゥムの『大陸の王』。

 『青の大海』ディランの『海の皇女』。

 この世界で最も大きな領地を持つ赤の大陸、海に面した領地を多く持つ青の大海。

 そして、最後の一人は『水晶の王国』クリスタロスの『賢王』レオン。


 学院に入る前から、神殿で聖女としてこの国の歴史を学んでいたアカリは、『彼ら』が時折歴史にその名を表すことも知っていた。


 魂により引き継がれると言われている魔力。

 15歳のときに決まるという常人の魔力の既定値を、生まれながらに遥かに超える数をはじき出し、かつその王たちの外見的特徴を持って生まれる者――彼らの『生まれ変わり』と考えられる存在に、その名は代々与えられてきた。

 そして名を与えられた者たちは、誰もが歴史に名を刻むような功績を残している。


 『偉人』の魂を持つ少女――アカリは、手に力を込めた。

 敵わなくて、当然だ。

 もし彼女が本当に『海の皇女』の転生者だというのなら、その能力はローズと同等の可能性だってある。


「それでは、開始してください」


 しかし、これはあくまで学院の実技試験。

 淡々と語る声は、アカリのときの試験と変わらなかった。

 ロゼリアは震える手をゆっくりと上げ、首飾りの石に触れた。


 青い石。

 海の宝石アクアマリンは、青い光を伴って空中に魔方陣を浮かび上がらせる。


「すごい……こんな、魔法が……」

 舞踏会の会場の真ん中に設けられた結界の中に、大量の水が現れ、形が変わる。


 水と光の複合魔法。

 光り輝く水の像は、ディランが所有する巨大な船だ。


 魔法が生まれる昔。

 人が神々や精霊とともにあった世界よりも遠い昔――かつてこの世界が一度水の下に沈んだという話は世界各国に残っており、その際『方舟』に乗って難を逃れたという逸話から、水難にあっても決して沈没することのないようにと名付けられた『方舟アーク』は、青の大海の技術と財を詰め込んだ、国の象徴でもある。


 ギルバートは結界の中の船を、静かに見つめていた。

 その瞳には、どこか憐憫の色が交じる。


「『海の皇女』ロゼリア・ディラン。大国『蒼の大海』の皇女で、かつて天才と持て囃された少女か」


 ギルバートが、そう呟いた瞬間。

 船が崩れ、大量の水が強い光を放ち、結界にひびが入った。


「きゃあっ!」

「うわっ! 水だっっ!!」


 そして、本来崩れるこのとなど有り得ない強固な結界を破った大量の水は、舞踏会の大広間に集まっていた生徒たちに襲いかかった。 

 生徒たちの危険を察知したローズとロイは、すぐさま結界を張り直し、彼らを守った。


「……」


 きらびやかな空間で、一人びしょ濡れになったロゼリアを目の当たりにして、生徒たちは言葉を発することが出来なかった。

 学院を作った三人の王。

 その王に似た魔力を継ぐ者として、『海の皇女』と呼ばれるはずの少女の失態に、会場にいた者たちは目を丸くしていた。


 『赤の大陸』グラナトゥムが大地の支配者とするなら、『青の大海』ディランは、水の支配者ともいうべき存在だ。

 その国の姫を、笑いものにできる人間がいるとしたら、それはこの世界に一人しかいない。


「――やはりまだ、魔法は取り戻せていなかったか。試験は終了だ。下れ。ロゼリア」


 『青の大海』と唯一同格の国の王は、静かに彼女にそう告げた。


「グラナトゥムは君たちを、心から歓迎しよう。この学院で過ごす時間が実りの多きものになるように、どうか君たち自身、日々を楽しみ、自ら学ぶ姿勢を忘れないでくれ」


 ロイはぱちんと指を鳴らした。

 するといつの間にか、広間を照らしていた明かりが消え、同時に床と天井は元の姿に戻っていた。


「舞踏会は、これで終わりだ」



補足

ディランについての方舟などの記述などですが、一応このお話は、水晶の王国シリーズの二番目のお話として書いています。

○人が神様や精霊とともにあった時代

○『婚約破棄された悪役令嬢は今日から騎士になるそうです。』(主に王侯貴族が魔法を使える時代)

あとこのお話のあとにまたいくつかお話があり、水晶の王国という世界観の話が終了するイメージで書いています。ローズの話が終わるまでは他の話は投稿する予定はありませんが、もし投稿した際は見ていただけると嬉しいです。とりあえずこのお話を完結させます(._.)頑張ります。



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