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いつかこの祈りが、光の魔法となりますように(???編)1

光の巫女編です。時間軸としては、本編が始まる前となります。

 いつの世も、多分兄と妹という関係は難しい。


「何故、お前がここにいる」

「兄様。せっかく可愛い妹が来てあげたのに、そんな言い方ないじゃない?」

 

 白百合の咲く庭で、私を見るなり、兄様は今日も不機嫌になった。

 まあ、私が兄様の至福の時間を邪魔したんだから、文句は言えないけれど。


「リカルド。リアを責めないで。リアは私のことを思ってきてくれたの」


 姉様がそういえば、兄様はそれ以上何も言わなかった。


 姉様のために兄様が用意した白百合の庭には、今日も美しい花が咲く。

 昔から感情をあまり表に出さない兄様だけど、兄様が姉様に向ける愛情は本物だ。

 

「しかし、今日の来訪を俺は聞いていなかった。……アメリア。今日は、『光の巫女』としての仕事できたわけじゃないだろう?」

「仕事じゃなじゃ、私は姉様に会ってもいけないの?」


 『光の巫女』アメリア・クリスタロス――それが、私の名前だ。


 クリスタロス王国の姫として生まれた私は、生まれたときから強い魔力と、光属性に強い適性を持っていた。

 得意分野は治癒。

 未来予知……については、治癒に比べると精度は劣る。


 私は兄様と離れて育った。

 私は神殿で巫女として、兄様は王として育てられた。

 私は、能力故にクリスタロス王国での最高位の巫女という立場だけでなく、王族でありながら、王族のための『魔法医』でもあった。

 体があまり強くない姉様の診察や治療もその一つで、私は『姉様の診察』と称しては、神殿を抜け出して兄様をからかいに行っていた。


 ちなみに見た目こそ私と兄様は同じ金髪だけれど、私と兄様の性格は全く似ていない。

 兄様は慎重な人だ。

 石橋は叩いて割って、それで壊して自分で作り直すくらい慎重だ。

 はっきり言って、私はそばで見ていてたまに少しイライラする。

 

「はあ……。全くお前は昔から何なんだ。お前に、俺に関わる理由がどこにある?」

「妹が兄に絡んで何が悪いっていうの?」

「お前には感謝している。……だがお前は、そもそも巫女の役目があるだろう」


 兄様が溜め息を吐くのを見て、私は良いことを思いついた。

 私は、私と兄様のやりとりを微笑みながら眺めていた姉様の膝にわざとらしく頭を乗せて、お兄様を指さした。


「姉様。ひどいの。兄様が私をいじめる」

「まあ、可哀想に」


 姉様が優しく私の髪を撫でる。

 柔らかくて、温かな手。姉様の優しさに私が浸っていると、


「離れろ」


 私は、兄様によって姉様から引き剥がされた。私はそのまま、兄様の手を掴んで背負い投げした。


「てぇいっ!」


 一応、着地は『ふわっと』を意識した。

 何が起こったか理解できなかったらしい兄様は、暫く目を瞬かせていた。

 

「兄様。力勝負で私に勝てるとでも?」


 私が笑って兄様に手を差し出すと、兄様は眉間に皺を作って自力で立ち上がった。


「この馬鹿力め……!」


 そう。

 私には、光属性の他にもう一つ、魔法属性の適性がある。


 それは、『強化属性』。

 この国における神殿の最高位の巫女である『光の巫女』の名を賜る私が強化属性の魔法が使えることは公開されていないが、兄様や姉様に隠す必要は無い。


 慈愛に満ちた愛の伝道者、聖女――『光の巫女』という存在を、世の多くの人はそう考えているけれど、そのイメージは実際の私とかけ離れている。


 私は束縛されるのは嫌いだし、楽しいことが好きだ。

 人が笑っている顔も好きだけど、生真面目な兄様をからかったり、優しい姉様に甘えるのも好きだ。精進潔斎、生きものを殺すことを嫌って肉も魚も食べないのが私のイメージらしいけど、私は振るうに肉や魚を食べるのも好きだし、あと甘いお菓子も好きだ。

 

 巫女としてお祭りに参加するのは禁じられているけれど、神殿を抜け出して顔を隠して祭り屋台を楽しむくらいには、私は娯楽に飢えている。

 詰まるところ私の本質は、魔法さえ使えなければ、他の普通の女の子と変わりはしない。


 対して兄様。

 兄様私と違って確かに魔法の才能は低い方かも知れないけれど、努力家で立派な人だ。

 だって私の能力は、『努力』で手に入れたものじゃない。

 その点、兄様は凄いと思う。とてもじゃないが、私は兄様のようにはなれない。


 兄様は私とは違う視点で、この世界を見ることが出来る人だ。

 だから私は兄様とは違う方法で、この国を、兄様を支えたいと思っている。

 

 問題なのは、神殿と王室との関係だ。クリスタロスに限らず、世界各地にある神殿は、人々の支持によって力を強めていた。兄様は私と比べると、魔法に関わる素質で劣ることは、彼らにとって『つけいる隙』になるようだった。 

 ただ、どんなに彼らが私に媚び諂っても、私と兄様の敵対を望もうと、そんなこと私には関係ない。私の家族はここに居る。私の居場所はここにある。


「いっつも机仕事ばかりしているからこうなるのよ。兄様、少しは外に出て鍛錬でもしたらどう? 太るわよ」

 

 にっこり笑って私が言うと、兄様の眉間の皺が深くなった。

 

「……全く、お前は何なんだ。私をからかって楽しんでいるのか?」

「だって、兄様、いっつも無表情なんだもの。まるで仮面を被っているみたい。そんなんじゃ、子どもが出来たら誤解されるわ」

「子ども……」

 

 私の言葉に、兄様が姉様を見て頬を染める。私は、それを見過ごさなかった。


「兄様ってばむっつり……」

「……お、お前が先に言い出したんだろうっ!」


 兄様は、今日もからかいがいのある人だった。


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