引いたら負け
引いたら負け
ある日、ライダーズカフェでオレが他のバイク乗りとコーヒーを飲みながら話していると、
オレの知人が女性を連れて現れた。
オレ:「おっ?! お久し振り〜! ......彼女さん?」
仲間:「うん、彼女。」
彼女:「こんにちわ〜、初めましてです。」
オレ:「あっ、こんにちわ〜、初めまして〜っ、よろしくですよ〜」
そう言いながら、オレの座る席の前に二人で並んで座る。
オレ:「へぇ〜、彼女さんもバイクに乗るんだ。」
彼女:「はい。でも、先月事故っちゃって......」
仲間:「そうなんだよ......聞いてくれよ......
コイツさぁ....... ツーリング先でスピード出し過ぎてガードレール
に突っ込んでさぁ...... 鎖骨骨折だよ.......
程度のいい400ccのフルカウルバイクだったのによぉ......」
オレ:「うわ〜......それはかなり勿体無いね......今は400ccクラスでその系統
のバイクも殆ど無いし......」
仲間:「だろ〜...... でさぁ、コイツ......」
そう言って、仲間は彼女さんの頭を突付く。
彼女:「なによ〜っ! っもぉ〜!」
仲間:「......お前、次のバイクは何にしようと思ってるんだっけ?」
彼女:「勿論! 1000ccのスーパースポーツ(略してSS)!」
仲間:「......なぁ? アホだろ?」
オレ:「はっはっは〜!」
彼女さんはオレと仲間の反応が面白くないらしく、少々むくれ顔になる。
彼女:「何よ〜! いいじゃん別に〜! 好きなんだもん!」
オレ:「やっ、まぁ好きなのは分かるんだけどさ......
SSじゃなく、もう少し大人しい目のバイクにするとか考えないの?」
彼女:「やっ! ここで引いたら負けだと思うからっ!」
彼女さんは真剣にそんな事を言った。
そこで一同沈黙......
オレ:「(本気なんだよな、やっぱり......)」
仲間:「(本気なんだよ......大真面目なんだよ......)」
なんと言うか......女性の方がこう言った面はシビアだと思ってたんだが......
オレ:「何気に...... オレ達よりも飛んでるな......頭のネジ......」
仲間:「だよなぁ...... なんか、オレ達がマトモに思えてくるよ......」
オレと仲間は2人して肩を組み、遠い目をしながら窓の外を眺めた。
そんなオレと仲間の仕草が面白くなかったらしく、彼女さんは、仲間を睨みながら、
彼女:「......文句あるのっ?!」
と言い放った。
仲間は、慌てて彼女さんに視線を戻し、姿勢を正して、
仲間:「いいえっ! 滅相もございませんっ!」
と言った。
オレは笑うしかなかった。
オレ:「で......怪我の方は?」
彼女:「え〜っと......まだ鎖骨はくっ付いてないから痛いです......」
仲間:「まぁ、それでオレのバイクの後ろに乗ってきたんだよ。」
オレ:「あぁ、なるほどね......」
彼女:「後ろでも、まがりなりにもバイクに乗れれば嬉しいので。」
オレ:「......懲りてないねぇ〜...... まぁ、オレも同じだと思うけどさ......」
仲間:「そういえば、引いたら負けって...... お前さんは一体何と戦ってるんだよ?」
彼女:「勿論、自分とっ!」
オレ:「やっ...... バイクは意地になって乗るものじゃないから!
好きならいいけど、勝ち負けって無いから!」
彼女さん少し意気消沈。
仲間:「まぁ...... オレも昔はSS乗って無茶した方だし、今でも時々SS乗りたい
って思う時があるから、分からなくもないんよ。
要はさ、バイクと一体になって操るって感覚がたまらないんだよな。」
オレ:「あぁ......なるほどね......
峠を流して走ってても、コーナーがいい感じに曲がれると嬉しいとか、
そういうのな訳ね。」
彼女:「そうそう! あの時はそれがいい感じで.....
それでチョット無理しちゃって......」
彼女さんは「テヘッ!」と言いながら頭を掻いて舌を出す。
仲間:「可愛く言っても言ってる事可愛くないから!
今更猫被っても無駄だから!」
オレ:「......まぁ、限界を理解して乗らないとまた事故るぞ〜?」
彼女:「その限界を知る為にも、SSはいいパートナーなのよ!」
少々絶句するオレ。
......なんと言うか男と言ってる事変わらんな、この人......
オレ:「やっ......それは分かるんだけど、SSだとパワーは別物だから、
限界ギリギリで走ったりして事故ったりするなよ〜?」
彼女さんはオレの言葉に笑顔で、
彼女:「勿論! バイクが好きだもの!」
と答えた。
嬉しそうに笑う彼女さんを見ながら、オレと仲間はこんな事を呟いた。
オレ:「しっかし...... 男も女も変わらんのな......」
仲間:「......だな......」
頭のネジの飛び具合......




