もし、ボス戦になったなら
恋のキューピットになったところで、城に着いた。
トアさん曰く、ここがボスの住処。
……どっからどう見ても、シュークリーム。
(美味しそう。じゃなくって、ボスの住処がシュークリーム? ボスか。ボス倒したら、帰るんだよね。リアル……現実の世界。私が溶け込めない、人間の世界、か)
垂れたクリームみたいな道を入って行く。暗い雰囲気。たくさんの死者たちが私たちを迎えた。
(ふ、甘い、甘すぎる。こっちにはマジシャンっていう最強ステッキがあるんだぜ。よし、解き放とう!トアさん)
トアさんに期待をして振り返った。
恐らく今の私はドヤ顔だろう。
「な、何、どうしたの、ハイネ。僕に用事?」
「えっと、死者がいるので」
マジシャンを呼んでくれ、そう言うつもりだったのに。
トアさんが懐から取り出したのは、鉛筆くらいの青いステッキ。
「あの、これ、ハイネにあげる。使って」
「これは、マジシャン的な?」
「マジシャンとは違うよ。使ってみて」
トアさんがやってたみたいに、ぽーんと放り投げてみる。
すると、ステッキの両端から、凄く小さい雷が出て、その辺に転がっている石を割った。
威力は強いけど。
(これは、使えない。なんだよ、がっかり)
「あのね、ハイネには、危ないと思って、小さくしてみた。可愛いでしょ。見て、僕とお揃い!」
「へー、ありがとう。それより、死者たくさん出てきたし、マジシャンは?」
「どういたしまして。マジシャンね、任せて!」
トアさんはやっとマジシャンを召還した。
マジシャンは死者を一掃する。最強だ。トアさんのように期待を裏切らない。
辺りはマジシャンが暴れたせいで煙たい。
「へー、さすがトア様。やるじゃない」
煙の中から可愛らしい女の子の声。
ボスだろうか。女のボスは、今や珍しくない。
(どこにいる? 攻撃してくるだろうか、位置もわからない)
煙たい中でも目が効くのか、トアさんは私の前に立った。
これだけ近ければ、トアさんくらい見える。庇ってくれたのかな。
「チャーナくん、君だったのか」
トアさんの声と共に、煙から綺麗なロリータ服の女の子が出てきた。
私と同い年くらいかな、可愛いけど。
二つ結びのフリフリのロリロリ。
目も大きくて、クリクリしている。
彼女から受けた印象は、人間っぽいってことかな。原宿にいそう。
「トア様、お菓子の世界、可愛らしいと思わない? トア様、可愛らしい方が好きだって言ってらした。アタシ、お菓子が好きで、可愛らしい物が好きなの」
(ほう、だから、可愛らしい私を好きになって、と。積極的だね、ロリロリ)
恋のライバル出現か。でも、トアさんはカトくんだから……
ちらり、少し横に移動して、トアさんの顔を窺う。
私の視線に気付いたトアさんは「違うよ!」と焦った様子。
もしや、二股!?
「僕、可愛い子が好きなんて、言った?」
トアさんは、本当に解らないのか、首を傾げている。
可愛い顔をこれでもかってくらい、アホ面しているロリロリ。これまで頑張ってきたのが水の泡なんだろう。
「そんな、トア様が……変わってしまわれた。どうしてなの? アタシがこんなに愛を原動力に、伝えてきたのに」
「愛を、伝える? なんのメリットがあるの」
意味がわからない。トアさんには、早すぎたのだろう。
だって、ついさっきだもんね、恋を知ったのも。
「そんなの、知ってもらいたいからに決まっているじゃない! 言葉にしないと、この気持ちに気付いてもらえない。アタシだって、好きな人に愛されたい! 好きって言わないと、相手は知らないままじゃない。トア様は、そんなことも、分からないのね」
「知ってもらう、言葉にする、と、愛される?」
感情的になるロリロリ。トアさんはオウムの様に繰り返すだけ。
正直、怖い。
トアさんは何を思ったのか、私の方を振り返った。
そして、ぼーっとしている私の両手を素早く取る。
唖然としながら見上げたトアさんの表情は、頬を染めながら、それでも目は真剣そのもの。
動揺する私を見つめながら、言い放った。
「ハイネ、僕は君が好きだ! 結婚しよう!」
(…………あら? カトくんどうした、冗談、いや、真剣だけど、まさか、まじ? いや、まさか、聞き間違いじゃ)
「はい?」
好きって、ライク? でも結婚って、ラブ?
いやいやいや、違う違う。よくあったもん、小学生の時とか。罰ゲームでプロポーズって。
「はい……って、YES、だよね」
「はい? いや、違う違う!! あの、違うの! 今のは、は、はい? っていう疑問で、だから、さっきのも!」
「ハイネ、照れないで! 僕は君を幸せにするよ」
「いや、違うって! そうじゃなくて」
勘違いしたトアさんは、私に抱き着き、喜びを全身で表す。
私は赤面しながらも弁解しようと、抵抗しているのだが、トアさんの耳には届いていない。
「なんで……なんで」
私の頭がごちゃごちゃしている間に、ロリロリから怒りのファイヤーボールが飛んできた。
トアさんと私の顔ギリギリを飛んでいった。熱い!
「なんで、アタシの目の前で、トア様がリア充しているのよー!!!」
ロリロリは自分の可愛いドレスに噛みついた。
チョコで出来ているらしく、口にはべったりチョコの色。
自分のファイヤーで溶けかかっている。たぶん全身お菓子なのかな。
「任せて、ハイネ。僕が守ってあげる。フィアンセを守れなくちゃ、男じゃないからね」
抱きしめた腕を緩めたと思ったら、私の頬に軽くキスしてから、ロリロリに向き合う。
(やっぱり外国っぽい。こういうところ。私、日本が好きなのに)
いつの間にか、トアさんの手にはステッキ。
マジシャンが戻ったのだろう。
「トア様も、そこの女も、みーんな、お菓子にしてあげる」
魔人っぽい言葉と共に、大きい飴のステッキを振りまわした。
風が物凄い勢いで吹き始めた。私の胸のネームも吹っ飛びそう。
次第に、雨、ならぬ飴が降ってきた。
「いたっ! 飴痛い」
風と飴で打撲しそう。
「大丈夫? ハイネ、待ってて。すぐに終わらす」
私を心配したトアさんは、ステッキを大きく天に伸ばす。
ステッキからなんか出たなーと思っている間に、小さな水の球が、ロリロリめがけて高速で次々と落ちる。
あんなのが当たったら、銃弾でぶち抜かれるくらいの勢い。
(ほ、本気だー! トアさん本気で殺す気だ)
ロリロリは避けつつ、トアさん。というか、私に向って透明なボールが飛んでくる。
それをトアさんがステッキで、振り払っている。
透明なボールは、当たったらお菓子になってしまうらしく、遠くで待機していた死者が次々とお菓子に変わる。
「全部避けれるかな? チャーナくん、僕は手加減なんてしないよ」
トアさんは、ロリロリ付近の頭上に、絶対避けれないであろう、巨大な水の塊を作っていた。いつの間に。
トアさんの合図と共に、塊がロリロリに落ちる。さすがに避けきれずに、綺麗にかぶった。
「きゃあっ」
「さあ、止めだ」
怪しく呟きステッキを、目の前に、ロリロリ向けてかざすトアさん。見れば、再び水が集められて、ロリロリを包んでいた。
ロリロリを取り巻く水。
時々、空気が上がる……まさか。
「ねえ、何してんの、あれ、呼吸出来ないよ!」
「そうだよ。だって、僕たちの命を狙ったし」
何を、当然だけど、みたいな顔してるの? 命だよ? 死者じゃないんだよ!
「ダメだよ、止めて! 死んじゃう!」
私はステッキ目当てで、トアさんの腕にしがみつき、連呼する、止めて! と。
驚き、目を大きくしたトアさんは、案外すぐにステッキを下ろした。
同時に水が重力で落ち、ロリロリが解放され、その場に崩れる。
「大丈夫!?」
走り出した私をトアさんも追ってくる。
「げほっ、だ…………だい、じょーぶ」
ロリロリは力なく俯いた。
(良かった。危うく犯罪者になるところだった)
「チャーナくん、なんだ、これは」
トアさんは詫びも無しに、ロリロリの頬を指した。
確かに、少し赤くなっている。ん? 白い文字もある。ダイ。ダイって何?
「ダイって何?」
隣には、眉間に皺を寄せたトアさん。
「もしかして、DIE。死って意味じゃ」
「え、死んじゃうの!? 何で!」
「僕の魔法じゃない。これは、魔法っていうより、呪い?」
「呪い?」
息も絶え絶えで、苦しんでいるロリロリは、本当に死んでしまいそうに見える。
「なんとか、ならないの?」
(トアさんなら、なんとかなるんじゃ)
「チャーナくんは、人間かもしれない。ユーエンチの住人なら、なんとかなるんだけど。人間ってなると、僕にはどうにも」
「人間? う、嘘、どうやって、何で魔法を使えるの」
「なにかしらの契約をしたんだろうね。チャーナくんも、同意の上だったかもしれない。こういう呪いは、厄介なんだ……呪いをかけた奴を探して、そいつに解かせるか、殺すのが一番早いんだけど」
呪いをかけた人物。
早く見つけないと、ロリロリが死んでしまう。
助けないと!