もし、心がみえたなら
マジシャンは、見た目通り強かった。
トアさんが、死者を倒すのではなく、殺す、と言った意味が解った。
このデカさじゃ、手加減なんて出来ない。
何とかしたいが、トアさんはテンションが高い。
マジシャンもテンションが上がっているのか「があああああ!!!!」どの頭か分からないが、叫びながら、死者を蹴り上げている。
幸いなことにマジシャンは、トアさんに忠実だ。
死者は魔法を使うのか、炎を手から出したり、口からダークホースみたいなのを飛ばしていた。
「そんな攻撃、効かないよ。マジシャン、踏み潰せ」
「ちょ、ちょっと待って、トアさん、死者は、死んだらどうなるの?」
「ん? さあ、成仏するんじゃないの。結局、あいつらは悪霊だからね」
(悪霊でも、生前は人間なのに。どうして、人間が、人間を苦しめるんだろう)
マジシャンの仕事は早かった。
踏み潰されて、灰となって消えた死者。
「よし、よくやった、マジシャン」
トアさんがマジシャンの足を、バシバシと叩く。
マジシャンは嬉しそうに目を細めた。
「ほら、マジシャン、ハイネだ」
トアさんは一通り褒めた後、マジシャンを連れてきた。
目の前にすると、その大きさがわかる。百人乗っても大丈夫、とか言いそう。
マジシャンが不思議そうにしているのが、なんとなくわかる。
「あ、こんにちは。中川、灰音です」
とりあえずお辞儀。初対面だし。
すると、マジシャンもお辞儀をしてきた。しかも九つ全員で。
ぎこちなくお辞儀する、その姿は。
(やばい、マジシャンめっちゃ可愛い!)
よく見ると、一首ごとにある鎖は首輪だった。
ネームも書かれている。一文字だ。
一頭ごとに見る。m、a、g、i、c、i、a、n……って、マジシャンじゃん。あれ、じゃあ、あと一頭は? ……! だけ。
かわいそう。一頭一頭名前考えてあげればいいのに。
ダブってる名前もあるし、愛着とかないのかな。
「マジシャンはね、大分前に僕が拾ったんだ。もう戻っていいよ……ハイネ、カトくん、行こうか」
マジシャンは、元のステッキに戻った。
トアさんは意気揚々と辺りを探すけど、カトくんの姿はない。
「……カトくんは?」
「さっき、どこかに行ったと思うけど」
「……あ、そう」
カトくんがいなくなって、都合が悪いのか、トアさんは急に真面目な、ばつが悪い顔をした。
(トアさん、様子がおかしくないか?)
マジシャンもいない、お互い話さない、静まり返る。
特に話すこともないのに、そわそわするトアさん。
口を開いて話そうとするが、すぐに閉じてしまう。なんだか、こっちまで、落ち着かない。
「あのー、先を進みます?」
こんなところで立ち尽くしていても意味がない。
トアさんもすぐに「そうだね」と言って、歩き始めるが、私の顔を見ようとはしなかった。
(やっぱり、おかしい。少し前なら、一人で話してたし、嫌味もうるさいくらいだった。何かあったのだろうか)
黙々と先を進むトアさん。数歩に一回、振り返り私が付いてきているか確認している。私のペースに合わせているようにも感じる。
(な、なんなの? 今までは放置同然だった気がするのに。なんで急に、優しい?)
トアさんのおかしな言動は、止まらなかった。
「……ねぇ」
「?」
「……なんでもない」
何故呼んだ?
「……ね、ねえ」
「はい」
「……や、やっぱり、いいや」
だから、何故呼んだ。
(何か食べたのかな、面倒くさいな、このトアさん)
「あの、トアさん」
「なになに!」
少し呼んだだけなのに、すっ飛んできた。
これは、ビビる。
「あの、どうしたのかなーって」……私が、何故か動揺する。トアさんが満面の笑みだからだろう。
「僕、変だよね。僕も変だなって思ってたんだけど」
ここで何故か頬を染め出したトアさん。
以前として私の目は見ない。私が目線を外すと、こっちを見る。私がトアさんを見ると、明後日を向く。
(このもじもじ感、雰囲気、知ってる。恋をしている女の子だ。クラスによくいた)
カトくんに未練でもあるのだろうか。
カトくんに対する態度は冷たかった。なのに、いなくなったら寂しそうだった。ふっ、ツンデレってやつか。
(アニメ好きだから、私も知ってる、BLってやつだ)
私が口を挟むことではないが、トアさんは自覚していないように思える。
「あれじゃないっすか、恋」
「え、恋、って。僕が、好きになったって言うの?」
「違うの?」
「い、いや、えっと……気にはしてるけど。これが、恋?」
アニメとか漫画を真似してみたけど、伝わったらしい。
自覚したら、私の役目はここまで。脇役ってこんなもん。
(良い事したなー、もしかして、恋のキューピットってやつ。私、初めて、人の恋に参加したな)
頬を染めたトア視線を、ハイネはまだ知らない。