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隆司母視点

実の息子が困ることが分かっているのに、ほっておく私たちは人でなしだろうか。





隆司に援助はしないと決めた当初は、叱りつけながらも、困っている姿を見ると、どうしても心が揺れてしまった。



長男、双子の長女と次女、そして少し間が空いて産まれた隆司は、私にとってとても可愛い存在だった。


あれだけバカなことを仕出かしても、やはり可愛い。

でも、私は隆司だけの母親ではない。

他の子供も、孫たちも守らなければならない立場だ。



そう思っていた私を更に揺るがす出来事が起きる。


隆司の結婚と、新たな孫の誕生だ。

隆司は、あれだけ愛さんと結婚したがっていたはずなのに、愛さんのお父さんが逮捕されて、愛さんが窃盗未遂を起こすと、婚約破棄を強硬に主張しだした。

確かに、犯罪を犯した人たちと縁続きになるのは躊躇ってしまうが、男としての責任もあるだろうし、もう30も過ぎたいい大人だろうと、できるだけ口出しを控えて、当事者に任せた。



だが、話し合いは、話し合いではなく罵り合いに発展していった。

結婚式場を、愛さんに相談もなくキャンセルした隆司に対して、愛さんは相談もなく婚姻届を提出した。

以前、愛さんのお宅に挨拶にいく前に、お互いに記入し合った婚姻届があったそうだ。

隆司は即座に抗議したそうだが、婚約状態にあったこと、隆司本人の筆跡であることから、なかったことにするのは難しいだろうということだった。

更に、愛さんが妊娠していたことから、話は更に難しくなっていく。

『父親としての責任を』と主張する愛さんと、『俺が父親とは限らない』と主張する隆司。




この二人の罵り合いを聞いているうちに、すーっと感情が平坦になるのが、何故か分かった。

そして、頭のどこかで、スイッチが切り替わるような音。


「隆司、あなたとは今日を限りに縁をきらせてもらうわ。もうあなたと関わるつもりはありません。」

「お袋!?」

「そうですよね、あなた。」

「あ……ああ……。」


夫は、まだ躊躇いを残しているようだが、そんなことでは隆司は治らないだろう。なんだかんだいって、情を捨てきれない人だから、最後には助けてしまうことが目に見えている。

隆司は、末っ子らしく、こちらの感情を読み取ったり躊躇いを見抜いたりすることには長けている子だ。夫のそんなところを見抜いて甘えているのだろう。

だが、自分の子を、『誰の子か分からない』などというまでになってしまった隆司をこのままにしておくわけにはいかない。

こんな人でなしな判断を下すような子にしたままでは!


「孫に関しては、あなたたちの元にいる限りは援助をする気はありませんが、私たちに親権を預けるというのなら全面的に面倒を見ます。最後の温情として、生前贈与がわりに、アパートの契約はしておいてあげます。あとは自分たちで生きていきなさい。アパートの方に荷物も送らせてもらいます。石原さん、お話ししたいこともありますので、お茶でも致しませんか?」

「えっ…はい…。」


突然のことに戸惑っている隆司と愛さんをその場に残し、あちらのお母さんをお呼びして話すことにする。

背にした閉じた扉の向こう側からは、追いすがる音と、それでも罵り合う声が聞こえてくるが、耳に入らなかったことにする。


「石原さん。私たちは、隆司と縁をきることに決めました。そちらはいかがなされますか?」

「私は……でも……あの子を育ててしまったのは私ですから……。」

「石原さん、まだ支援されるようなら、あの子たちはずっとあのままですよ。私たちは、あの子たちより長く生きることはありません。責任をもつのはここまでにしましょう。」

「もう結婚したのですから、手を離そうとも思いました。でも、孫が……愛は今の環境の中で子育てをできるような子ではありません!!」

「その孫のためにも、今何とかしないと、将来困るのはその子ですよ。あんな親を二人も抱えさせる気ですか!」


石原さんも、はっとした顔になり、少しずつ顔が強張っていく。

親として過ごしたからこそ、あの子たちを背負っていく大変さがよく分かっているのだろう。


「もちろん、孫の様子はつぶさにうかがいますし、何かあれば法に訴えてすぐに奪い取ります。」

「……そうですね。私は仕方ないですが、孫にまで引き継ぐ訳にはいきません。」



決意を込めた顔になった石原さんと詳しく打ち合わせをして、今後のことを決めた。

石原さんには、今愛さんと住んでいるアパートを引き払い、家の社員寮に入ってもらった。

もちろん、ただではなく、寮母の仕事をするという条件付きでだ。

さすが良家の主婦をしていただけあって、数に慣れた後は、細々としたことをよくこなしてくれると評判になった。

愛さんの荷物と隆司の荷物は、すぐさま契約したアパートに入れ、そのアパートの鍵は隆司と愛さんに渡して、家から放り出した。

もちろんしたのは手続きだけで、家賃や敷金、礼金は本人たちに請求がいくようにし、こちらに迷惑がかからないよう、保証人は機構に頼んだ。

一ヶ月でも滞納したら即座に追い出される仕組みにもした。

また、従業員たちにも通達をだし、私たちに一切頼れない仕組みを作った。



様子をみていると、あわてて職を探しているようだが、高望みすぎて、なかなか採用まで至らないようである。

家賃は取り合えず、愛さんのブランド品を売ることで何とかしたようだが、これからどうしていくのだろうか。

どうなろうとも、私たちはもう手助けをしない。

夫にも手出しをさせない。

私たちにできることは、そう心を強くもって対応をし続けていくことだけなのだろう。

実の息子が困っているのを助けないのが人でなしだろうがなんだろうが、もう突き進むしかないのだから。

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