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隆司父視点

隆司が、華ちゃんとの婚約を破棄してしまってから、我が家にもそれなりの影響が表れた。


いくつかの契約は、白紙に戻ってしまったし、付き合いが縮小されてしまった話もある。

近年、経営規模が上昇し、敵も増えていたことから、ほんのわずかなスキャンダルでも、命取りになりかねなかった。


そんな家を救ってくれたのは、一ノ瀬の家だ。

一ノ瀬が家との契約を切らない以上、外部があれこれ言うことはできなかったのであろう。

一ノ瀬のもつ技術は幅広く、いろいろな分野に及んでいるので、一ノ瀬が本気で家との付き合いをやめようと思ったら、被害はこんなものではなかったはずだ。


……愛娘である華ちゃんを傷つけてしまったのはこちらなのに、本当に申し訳なかった。

華ちゃんのことで憤慨しつつも、経営者としての判断を下してくれた社長には、本当に頭が上がらない。

申し訳なく思いつつ、それでも従業員のことを考えると、話を有り難く受けさせてもらった。


子供を家のために結婚させる気はなかったものの、一ノ瀬との縁があれば助かるのは確かだったし、華ちゃん個人もとてもいい子だったから、隆司が了承の意を示したときは、妻と二人で喜んだ。

だが、しっかりと意思を確認し、婚約とはどういう意味をもつのか、しっかり隆司に教え込んでおくのだったと後悔する。

いい歳になった大人に、そんなことは必要ないだろうと判断した私たちが甘かったのだ。

どうしても結婚したくなくなったとしても、ある程度の根回しをして、穏便に婚約解消することだってできたはずなのに。

それを一方的に、しかも華ちゃんを傷付けるような物言いをするなんて。

私たちが甘やかして育ててしまったからであろうか。




四人兄弟の末っ子として産まれた隆司は、昔から甘えたなところがあった。

また、周りも甘やかしてしまったところがあった。

それでも、幼い頃は、まだまだ可愛いものであった。

少しずつ歯車が狂っていったのは、隆司が三歳になるころだった。

日本全体の経済の冷え込みから、会社の経営が悪化したのだ。

その影響から、私と妻は会社の経営を立て直そうと会社にかかりきりになった。

その間子供たちは、私の母に預けることになったのだ。

もともと隆司だけが、近堂の家系の顔で、長男や長女、次女は妻に似た顔立ちだったのだが、そんな隆司を、母は溺愛したそうだ。

他の子たちと明確に差をつけて、隆司だけにおやつやおもちゃを与えたり、隆司だけを誉めたり、隆司だけが手伝いをしなくてもよい環境を作っていたそうだ。

他の子たちも、家の大変な状況を察して、そんな差別にも耐えてくれていたので、気が付くのが遅くなってしまった。


また、隆司が、割りと優秀だったこともそれに拍車をかけた。

学生の間は、勉強やスポーツで判断を下されることが多い。

勉強ができれば、少しぐらい変な行動をとっても、『頭のいい子は、やっぱりちょっと違うんだね』ぐらいですんでしまっていたのだ。

そんな隆司は、クラスでも特別扱いされ、異様なまでの自信家になってしまった。

自分に自信をもつのはよいことだが、それの度が過ぎて、自分よりできる子はいないと考え、自分よりできた子のことは『ずるをした』と決め付けて、攻撃し出したのだ。

もちろんその都度指導して、改善をしようと試みたつもりだったが、今の言動をみると、根っこの部分はそのままだったのではと後悔の気持ちがわいてくる。




だが、なんだかんだいって、あんなバカな息子でも可愛いのだ。

華ちゃんに申し訳ないという気持ちはもちろんあるが、隆司が可愛くて突き放しきれないという気持ちもあった。

だが、妻と話し合い、心を鬼にして隆司に接することに決めた。

隆司を育てたのは私たちなのだから、私たちが隆司の影響を被るのは当たり前だろう。

だが、私たちは経営者として、従業員を守らねばならない立場でもある。

私たちが倒れるということは、従業員を路頭に迷わせてしまうということでもあるのだ。

さらに、私たちの子供は隆司だけではない。

長男は会社を継いでくれ、長女と婿もわが社で働いている。

どちらにも、まだ幼い子がいるのだ。巻き込む訳にもいかない。


そう考えて、隆司を突き放していたのだが、隆司はことの重大さを全く理解せず、更なる問題を運んできた。

いきなり、会社を退職してしまったのだ。

予め、退職しても家の会社に入れることはないと宣言していたのだが、『なんだかんだいって、俺が困っていたらなんとかしてくれるさ』と思っていたらしい。

だが、『今回こそは、私たちは手助けを行わない。』

『助言はしても、援助はしない。』

『華ちゃんへの慰謝料で、貯金どころか借金があるはずだが、どうする気なのか。』

そう問い詰めると、『親のくせに!!』と暴れ始めた。


一体、私たちはどうしていけばいいのだろうか。

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