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崩壊(隆司視点)

辞令がおりてからの俺には、様々な試練が襲いかかってきた。




まず、辞令がおりてすぐに発覚したのが、婚約者である愛の父親の、横領での起訴。

今裁判のために資料を集めているようだが、隠し方が巧妙だったということで、実刑も免れないのではないかということ。


愛は可愛いが、犯罪者の身内になるのはごめんだと、愛と穏便に別れる方法を考えていた俺のもとに、愛の噂も回ってきた。

盗難だと!?なんでそんなことを!!

愛を問い詰めるが、話の要領が得られない。

幾人かの名前を出して、あいつのせいだとぶつぶつ言っているだけで、何の解決にもならない。

それに加えて、愛の過去の話も耳に入ってきた。

28歳なのだから、俺が初めて付き合った相手だなんてことは思ってなかったが、良家の女としては致命的な過去があった。

だから、銀行頭取の娘でありながら、この年まで残っていたのか……。

後悔するが、後の祭りだった。


しかし、あんな悪評だらけなのに、この俺と結婚しようとしていたなんて図々しい。

ましてや、その悪評にさらに悪評が重なったのに。

そう思うと、今まで愛に抱いていた愛情も消え失せていってしまった。

あまりにもの酷さと疲れから、ため息がもれる。

愛と別れようと、いろいろ手を回したのだが、空回りしているのだ。


愛に、別れを切り出そうとすると、承諾が得られない。

愛にしてみたら、俺とどうしても結婚したくて、俺にすがり付いているのだろうが、俺に迷惑をかけるぐらいならと身を引くぐらいの謙虚さは欲しい。




次に、周りの無理解がひどくなってきた。

まず、職場での居心地が悪い。

俺が出世街道にのっていたときはちやほやしてきたやつ。

俺に媚を売っていたやつ。

婚約者の愛が頭取の娘だと知って、まとわりついてきたやつ。

いろんな取り巻きがいたのに、俺が総務課に異動になったと知ったとたん、手のひらを返したような態度をとってきたのだ。




無理解から俺を追い落とそうとする周囲に、怒りで頭が煮えくり返りそうになったが、課長になるまではと、2ヶ月間我慢した。

そして実家の会社に入社しようと思って、両親に話をしたのに、即座に拒否されたのだ。


「お前を入社させるわけにはいかん。華ちゃんにも、一ノ瀬社長にも申し訳ない。」

「それは、俺も悪かったかなとは思うけど、それとこれとは違うだろ?」

「違わん。婚約や結婚は契約だ。その契約を一方的に破るなど、相手からの信用を失うのが当たり前だ。

「でも、結局は新規事業も立ち上げられることになったんだろ?なら、特に会社に影響を与えたわけでもないんだし。」

「それは、一ノ瀬社長の配慮だ。長年の付き合いの家やうちの従業員に対するな。お前への配慮ではない。」

「それでも、うちの会社の方が規模が大きいし、利益も大きい。そこまで気を使う必要なんてないじゃないか!」

「お前はバカか。なんでお前たちの結婚を通してつながりを深めたかったと思ってるんだ。こちらの資金力とあちらの技術力をつなげたかったからだ。

だが、立場は対等ではない。」

「そうだろ!?だから!!」

「お前が思っているのとは逆だ。あちらの技術は、一ノ瀬が特許を得ているものだ。つまり、一ノ瀬しか持っていないものだからこちらは一ノ瀬とつながるしかない。だが一ノ瀬からしてみたら、資金力があればいいのだから、うちじゃなくても構わないんだよ。

実際、一ノ瀬社長が経営下手だから、利益は大きくないが、取引先リストはうちとは違って、大手の名前がズラリと並んでいるぞ。」

「じゃあ、どうしてそれを俺に言わなかったんだよ!」


課長をやめても、家での役職はやらん。どうしてもうちの会社に入りたいのなら、入社試験を受けてこいだなんて、それでも親のせりふかよ。

可愛い息子が、こんな総務課なんて、俺に相応しくないところにいるのに。


お袋にも訴えてみるが、返事は親父と一緒だった。


「あんたに言う前に華ちゃんと婚約破棄しちゃったんでしょう!」

「お袋……。」

「全く!こんなバカ息子に育てたつもりはなかったのに!」

「バカ息子って……!」

「バカ息子でしょう。華ちゃんを傷付けたんだから!大体、政略結婚ではあったけど、あんたに選択肢はあげてたし、断るなら早めにとも言っていたでしょう!!」

「なら、もう一度華と婚約させてくれればいいだろ!!愛のやつひどいんだからな!」

「ふざけないで!華ちゃんを捨てて、そんな女を選んだのは自分でしょう!!」





親父に叱られ、普段は穏和な母親にまで怒鳴られ、俺も興奮してしまって、家から飛び出してしまう。


なぜ、親父もお袋も分かってくれないんだ。

俺はこんな場所で燻るような男ではないのに。


それに、おやじもお袋も気にしすぎなんだ。

何が『華ちゃんに申し訳ない』!

華は俺のことを好きだったんだろうから、結婚してやれなかったのは、確かに可愛そうだが、華にそこまでの魅力がなかったんだから仕方がない。

第一、俺に説明しておかなかった華だって悪いんだから、俺だけが責められるのもおかしいだろう。


そうか!元の環境に戻すには、華ともう一度婚約すればいいんじゃないか。

華の家の会社との繋がりはメリットがあるようだし、愛のせいで少し俺にも傷がついてしまったんだから、まあ許容範囲内だろう。

華もきっと感激するに違いない。

そうと決まれば、華に連絡を取り、逢いにいかなければいけないな。

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