@1_電車から降りるまで
今私は時間待ちで停車中の電車に乗っている。
箱根登山鉄道小田原駅から終点の強羅までの道程はとても長く景色がよく、本がとても読みに容易い。
顔面と手で押し付けていた本をゆっくりと離し、睡眠に入ろうとした我から目覚めた。
この駅に着くまで私は高校生活で通った懐かしい線路を越えて来たわけだがそれまでの物語は語るに足らないだろう。
しかし、今私が言えるのは空は晴れているが、私の心情はあの時の天気とやけに似ている。
片手にはサイダー、足元にはリュックが無作為に挟まれている。
リュックの中には一日分の着替えと日記とコンパクトカメラが入っている。
腕時計を微かに確認し、今が午後1時ぐらいということを知った。
電光掲示板が正しければ電車はそろそろ出発しても良い頃合いだ。
廃墟のように捨てられたかのようなこの駅は私を残し、時間が止まっているような感覚に襲われる。
しかし、時は一刻に刻まれていた。
ピューウッ
笛の音が響く。
そろそろ出発する。
オレンジ色の電車は私だけを乗せて、異世界にでも連れ出すかのように一方通行の前へと走り出した。
@@@@
私が彼女と出会ったのは高校二年の春だったと思う。
朝の東京は人はバカみたいに駅に引き込まれて行く。
時計の針はちょうど七時を知らせていた。
俺もそのバカの軍隊アリの一人として今戦いの中に身を煎じようとしている。
その渦の中で知らないサラリーマンたちと体温を確かめ合うのが何時もの日課。
空はやや曇り。
この日、自分のテンションも同様下がりぱなしでも、上がりでもしないごく普通な感じだった。
チャイムが鳴り終わるまでに何時もの席に座り、先生が来るのを待つ。
また今日も変わらない一日が始まると思い、先生が教室に現れる間、最近買った般若心経入門の本を読んでいるその時であった。
教室が妙に騒ぎ出す。
なんだなんだと目を前を見るとそこには先生の後に連れて小柄で短髪の女の子が立っていた。
「えー、今日からこの2年5組の仲間になる生徒だ。自己紹介するからちゃんとこっちを見ろ!」
と、ここの体育教員である担任が二言。
先生が少女に目で合図を促すと、空気を読んだかのように黒板に字を書き始めた。
字はとても小さく、メガネを忘れた私が彼女の名を確認できたのは彼女の声を聞いた時だったのを今でも覚えている。
「親の都合で静岡から引っ越してきました。元静岡女子の安西かすみです。」
第一印象、珍しい奴。
高校生活の中で入試試験を受けてまでこの学校に入りたがる生徒は彼女が初めでだった。
可愛い訳でも無い。
背も女子の平均より少し低いぐらい。引越して来たばかりで制服が無いため 皆無な私服を来ていた。
パーカーにジャージ。
何とも女性らしく無い!
しかし、肌は白く、髪型は綺麗に梳いてある。
ホームルームが終わると担任に着いて行き教室からまたすぐに出て行った。
後から知ったことだが、この日は引越の車を待つために早めに帰宅したらしい。
この先、家庭の事情なんてこの先少しも話さなかった。
唯一話したことは彼女は片親だってことだけだ。
この日は考えた通り彼女の話題で持ちきりだった。
なぜか知らないがこの日のうち、どのように撮られたか知らないが彼女がホームルームで自己紹介をしている時の姿が在る生徒により撮影をされており、昼休みにはいる前には約ノートほどの光沢紙に鮮明に印刷されていた。
撮影は我がクラスの写真部のアホなのだが、無論彼の周りには人が集まり男子だけの男子による決定考察会が始められていた。
私もこの中の一人として彼女の黒鼻毒酷な全貌を舐め回すように観察をする羽目になった。
なんせ、席が後ろの奴だからだ。
約数人で彼女の意見を纏める。
集計結果、ほぼ全てと言っていいほどクラスの男子の感想は一致した。
『胸が無い!』
この話は、彼女の腑を確認された後闇の中へ葬られた話なのだが鮮明と言って良いほど私の頭脳へと張り付いていた。