閑話 其の一
【心配性の棗くん】
リンと出会ったのは、中学生になってから。出席番号が前後だったのがきっかけだ。
「俺、長島棗」
「え、と……?」
「名前、教えてよ。せっかく席前後になったんだしさ」
「あ、そっか。ごめんね。……えっと、中三川、燐太、です。よろしくね? ……長島、君」
「ははっ。棗でいいよ。俺も燐太って呼ぶし。いい?」
「ぅえっ……。あ、うん。いい、よ。……な、なつ、め……君」
話しかければ、ガチガチに緊張して、それでも一生懸命答えるリン。
そんなリンの第一印象は、不安定、だった。今にも消えてなくなってしまいそうな、危うい存在。
笑ってるのに、何かに怯えているような、泣いているような、そんな風に見えたんだ。
月日の流れは早いもので、リンと出会ってから二年が経った。
気づけばもう三年生で、義務教育も残り一年を切った。
この二年で、だいぶリンと仲良くなった。友達越えて、親友だ。いや、兄弟かもしれない。それくらい、仲良くなった。
リンは、とっても優しい奴だ。困っている人がいれば、老若男女問わず手を差し伸べる。人を疑うことを嫌い、他人のために涙を流せる、そんな奴だ。
そのせいで、自己犠牲と言うかなんと言うか。とにかく、自分のことにあまり頓着しないのだ。
誰かが傷つくくらいなら自分がって、無意識に思ってるみたいなんだ。
だから、とっても不安なんだ。
詐欺師に騙されるならまだ良い。生きてさえいるならば。だけどもし、自分の命と誰かの命を天秤にかけられたとき、リンは迷い無くその誰かを生かすだろう。
そんな状況になることは、ないだろうけど。だけど、簡単に自分の命を投げ出してしまいそうなリンが、怖いんだ。心配なんだ。不安なんだ。
どうしてリンが"人"に怯えているのか、警戒しているのか、俺は知らない。
どうして、たまに泣きそうな、諦めたような、そんな表情で家族連れを見ているのか、俺は知らない。
どうして中学生なのに一人暮らしをしているのか、俺は知らない。
俺と出会う前、どこの小学校に通っていて、どんな風に生活していたのか、俺は知らない。
だけど、未だに俺に壁を作っているリンだけど、俺はリンが大好きで、大切な友だと思っている。
辛くなったら頼って欲しいし、疲れたときは凭れ掛かって欲しい。
リンにはずっと、笑顔でいて欲しいんだ。
幸せだと思うことに、怯えてほしくないんだ。
これは俺のエゴかもしれない。
偽善かもしれない。
だけど、それでもリンには、幸せになってもらいたいんだ。
だからね、リン、俺はリンが嫌だと言っても、ずっと隣にいるからね。
リンが頓着しない分、俺がリンのことを大切にするから。
息子LOVEな母親に負けないくらい、リンに構うから、覚悟してろよ?
〈閑話 其の一〉