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平穏な生活を夢みて  作者: 宮野 圭
第一章 ~赤い女~
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不穏な気配

 

 放課後になり、燐太は一人教室に残っていた。

 休み時間の度に、無言で燐太を睨んでいた棗は、部活を休むと伝えに行っている。もちろん休む理由は、燐太に正直に全てを吐かせる為だ。

 燐太は小さくため息を溢した。

 ──ナツになんて説明しよう……。


 棗には何でも話していた。だけど、ただ一つ、霊が視えることだけは、どうしても言えなかった。というか、言えるはずがない。ようやくできた友達だ。体質のせいで逃してしまうなんて、惜しすぎる。


 ──あー、ほんとにどうしよう……。

 燐太は頭を抱えた。


 ラッキーなことに(?)、棗は、燐太が霊のせいで負った怪我を、動物にやられたと勘違いしている。

 実際、ビックリするほど動物に威嚇される燐太が、動物に襲われることは、決して珍しいことではない。まあ、重度の動物好きである燐太には、ご愁傷さまとしか、言いようがないが……。


 では何に悩んでいるのか。

 問題なのは、棗が心配性だってことだ。それも重度の。

 だから、燐太が動物に威嚇され、酷いときは襲われることを知っている棗は、燐太が動物に近づくことを禁じている。そしてもし、不可抗力で近づいてしまい、更に襲われた場合は、すぐさま棗に連絡するようにと、約束もしている。

 以外と世話好きな棗が、自分を心配してくれてるのは分かる。

 だけど、燐太だって中学三年生なのだ。ましてや男だ。そこまで守ってもらう必要はない。


 って言うのが建前で……。

 本音は、どうしていいのか、分からないのだ。

 今まで、この体質のせいで疎まれてきた燐太は、誰かに心配されたことがない。だから、棗のように、真っ直ぐな心をぶつけられると、どうしていいのかわからなくなってしまうのだ。

 それに、心配させてしまうことに、罪悪感すら感じている。

 だから、なるべく何かあっても、何もなかったかのように振る舞ってきた。今までもずっとそうしてきたから、そうゆうのは得意だ。


 なのに。今朝クラスメイトのせいで、先日烏に襲われたことがバレてしまった。

 棗は普段ニコニコしている分、キレたときはヤバイ。大人ですら、その怒りを鎮めることはできないらしい。


「はぁ……」


 燐太が、何度目か分からないため息をついたとき。

 突然、教室内に自分以外の気配を感じた。誰かが教室に入って来たわけじゃない。突然、教室に現れたのだ。

 ──もしかして……。

 燐太は冷や汗をかきながら、ゆっくりと、気配がする方を見た。


「……っ!」


 ソレを見た瞬間、燐太は思いっきり、顔をひきつらせた。

 ソレは、教卓の横にいた。

 ゆらゆらと左右に揺れる、黒いソレ。

 大きさは教卓ほどで、燐太の三倍はありそうな横幅。霧のようなモノでできているのか、モヤモヤとしたソレは、形が定まらない。

 何かの塊のように見えるが、目を凝らしてよく見れば、人のように見えなくもない。


 ──ヤバイヤバイヤバイ……。

 燐太は思いっきり焦っていた。ソレが何か、知っているのだ。


 それは、小学校のときのこと。

 放課後、一人で教室に残っていた燐太の元に、ソレは現れた。

 その頃の燐太は、あまり"それら"に、耐性が付いていなかった。そのため、見事にその場に固まってしまった。

 ズルズルと、ゆっくりと近づいてくるソレに、ただガタガタと震えることしかできない燐太。

 ソレは、燐太の目の前で止まると、ぶわりと燐太を包み込んだ。いや、食べたと言ったほうがいいかもしれない。

 周りを黒に囲まれて、世界から切り離された感覚に陥った燐太は、その場にしゃがみこんだ。しかし足元に地面の感覚はなく、浮いているような気がする。

 それと同時に、負の感情が燐太を襲った。それは、児童や教師の"負の想い"。

 負の感情に襲われて、燐太までもがその感情に引きずられていった。頭が痺れ、体が重くなって……。


 その時のことを思い出して、燐太は青ざめた。ヒクリと喉がひきつる。

 ズル……ズル……と近づいてくるソレ。


 あの時は、とっさに思い付いた、某アニメ映画のお父さんの「笑ってごらん。おっかないものなんて、みーんないなくなっちゃうよ」という台詞を参考にして、大きく口を開けて笑ってみた。同じ"真っ黒いモノ"だから、いけると思ったのだ。

 実際それはうまくいき、気がふれたような笑いだったにも関わらず、ソレは苦しそうな呻き声と共に、消えていった。


 だが、今回のソレは、あの時よりも大きい。

 ──今回も、通用するかな……?

 考えている内に、ソレとの距離はどんどん縮まっていく。

 ──な、何もしないよりはいいよね。

 燐太は決意すると、カラカラに乾燥して引くつく喉から、なんとか声を絞り出して、笑った。


「わっ、はっは、は、…は、は……」


 これは笑えていると言えるのだろうか。だが燐太は真剣だ。

 真っ青な顔を思いっきりひきつらせ、お願いだから消えてくれ、と念じていると、それが通じたのか、ソレはぴたりと止まった。



〈赤い女 不穏な気配〉

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