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社内恋愛  作者: みねお涼
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ときめき・後篇

店員が、ハンカチを差し出している。

それは間違いなくリサのハンカチ。

「……ありがとうございます」

受け取りながら、顔が熱くなっていくのが分かる。

料理長の顔を見れない。

意識し過ぎるな。

動悸が、体の外にも聞こえているのではないか。

そんな気がした。

自動ドアが開いて、外の空気がリサの体を包む。


「さて、送るよ」

そっと、料理長の手がリサの背に触れた。


――どきん


無言で。

料理長の隣を歩く。

おさまらない動悸。

うまく、歩けない。

なんだか、意識しまくっている状況にいたたまれなくなる。

やっと助手席に乗り込んで、息をつく。

「ご、ごめんなさい」

震えた声が出た。

「ん?なんで謝る?」

「いや、えっと、その」

くく、と喉で笑い、料理長がエンジンをかけた。

「彼女、だって」

リサは、ぎゅっとこぶしを作った。

「ははは」

リサの口から乾いた笑いが出る。

「やっぱ、そんな風にみえるんだねー」

料理長は、何も気にしていないかのようだ。

「ごめんなさい」

もう一度、謝る。

カチカチ鳴るウィンカーの音に、リサの鼓動が重なる。

「……どうして?」

「だって、なんか、申し訳ないです」

「何が」

顔が上げられなかった。

「もー、聞かないでくださいー」

体を折り曲げ伏したかったが、ブレーキを踏まれているのか、シートベルトによって体がシートに固定される。

どうしようもなくなる。

きっと、自分の気持ちは全開で放出中だ。

恥ずかしすぎる。

信号で車が止まった。

ひと時の無言。

深夜の道路は、スムーズに二人が乗る車を運んだ。

間もなく、職場であるレストランの駐車場に着いた。

ゆっくりとタイヤが止まる。

「……」

「……」

何か言わないと。

「今日はありがとうな」

料理長が先に言葉をかけた。

ぽんぽん、とリサの頭に大きく暖かな手が乗せられた。

「家まで、送ろうか?」

「あ、いえ、えっと」

そっと、自分の両ほほを包みこんだ。

大丈夫。

熱くない。

そっと、胸に手を当てた。

大丈夫。

普通のどきどき。

「大丈夫です。自転車あるし」

「そ?」

「あの、今日はほんとごめんなさい」

また、謝った。

それから、やっと料理長の顔を見る。

「――」

動けなくなった。

なんで。

なんで。


料理長の顔から、表情が消えていた。

疲れているのか。

いや、そんな雰囲気ではない。

人形のような。

無表情。


「あ……のさ」


その、感情を読み取れない顔から、言葉が出る。


「なんで、謝るの?なにに謝ってるの?」


なんで。


「今日、楽しかったんだけどな」


――きゅん、と。

胸が締め付けられる。

「俺じゃダメってこと?」

「な……に」

「俺、リサちゃんと恋人同士に見られたいよ?」


一瞬、何を言われたのか分からなかった。


「あたしもです!」


勢い。

告白していた。


「やっと、言ったね」


「え」

料理長の顔に笑顔が戻る。

「俺も、リサちゃんを誘えるタイミング、探してた」

ゆっくりと、心がときめきを始める。

そっと。

料理長の手がリサの髪をとく。

「傍から見たら、ちゃんと恋人同士に見えるんだって、安心した」

それは、あたしがときめきオーラを発していたからでは、と。

目をそらしながら恥いる。

「リサちゃん、明らか俺のこと好きなのに、なんで謝るのかわかんない」

「やだ、やっぱり分かってたんですね」

恥ずかしすぎて、それでも。


ときめく。


「ね、本当の恋人同士にならない?」


ときめく。


「社内恋愛はばれちゃうといろいと問題もあるけど」


ときめく。

彼の言葉ひとつひとつに。


「俺は、リサちゃんが好きだよ」


ときめきが。

体中に満ちていく。


「返事を、聞かせて?」


リサは、髪み絡む雅紀の手のぬくもりを感じた。

返事は、決まっている。


唇が。

自然にその形になるのを。

雅紀の唇がそっと閉じ込めた。

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