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社内恋愛  作者: みねお涼
2/15

合コン

以前、ネットで公開していた作品です。若干加筆しております。

「ねぇ、ミツコ。明日の合コン、参加できない?」

「ええ??明日!?」

就業時間も近づくカウンターの中で、ミツコは急きょ、脳内でスケジューリング作業に入らざるをえなくなった。

オフィスビルの案内業務は、すでに暇つぶしの時間になっていた。

常に、雑談と来店した客の噂話で消費されていく時間。

「明日って…」

「予定、やっぱあるよね?」

「…いや…予定はないんだけど…」

「女の子が一人足らなくてさ~」

「…」

「ほんっとにごめん!!彼氏とかいても構わないからさ!!」

「うん…。いいよ。何時?」

断る理由が思い浮かばず、ミツコは了承していた。




翌日。

控え目におしゃれして、ミツコたちは職場を後にする。

「そういえば…、相手ってどこの人たち?」

「言ってなかったっけ??」

ルンルン気分のサヨに引きずられるように無理やりテンションをあげながら、ミツコは早足になる。

「実はー、うちに出向してる会社の社員さんとか、契約社員さんを集めてみました!!」

「えぇっ!?」

「へへ~。女の子は総務課と経理から集めたよ~」

「…人脈広いんだ、ね?」

出向社員にまでつてがあるとは、恐るべし。

「受付って特権は、聞かないでも相手が名乗ってくれる点にありまーす!!」

明るいサヨのコミュニケーション能力と情報収集能力に感心していると、どうやら会場に到着したようだ。


「遅くなってごめんなさーい!!みなさん集まってますか??」

幹事然としたコメントを振りまくサヨの後ろで、ミツコは控え気味に顔をだして会釈する。

同じ会社内に勤めているらしい男性陣の顔を見ても、名前が出てこない。

どの部署に勤務しているのか、サヨはきっと全員覚えているのだろう。

イケメン揃いだ。

女の子も、まぁまぁかわいい所が座っている。

こちらは、ミツコの見知った顔。

総勢10名の、少し大きな規模の合コンがスタートした。


「そういえば、席ひとつあいてますね?どなたか遅れていらっしゃるんですか?」

ミツコの素朴な問いに、男性陣から尽かさずフォローが入る。

「ごめんね、一人トラブルで残業になってさ。代わりに僕が入ってる部署の人、呼びましたんで」

「あ、そうなんですか…」

「数合わせなんで、って、こんな言い方申し訳ないですけど、いい男ですから」

「はぁ」

あまり気にしないでほしいと、ミツコは思ったが、愛想笑いをして料理を口に運ぶ。

あ、おいしい。


と、息を切らせた客が店に入ってきた。

「ごめん、遅れて!!」

「あ、ユウジさん、こっちこっち!!」

男性の一人が手をあげて、遅れて来た「数合わせの男」を呼び寄せる。

「…え??」

ミツコが顔をむけると、そこには見知った男が。

男の方も、一瞬表情をこわばらせたのがわかる。

だが、場の雰囲気を気にしてか、互いに視線をはずす。

この男性の事は、ミツコも知っていた。

開発二課の佐々木ユウジ。

主に個人向け商品の開発と商品管理を行っている部署に勤務している。

気まずい雰囲気を醸し出さないように、ミツコはおとなしく料理に箸を伸ばし続ける。

ユウジも、適当に場の話を合わせながらアルコールを流し込んでいた。

たまに、二人の目が合う。

だが、会話はない。



「ねぇ、ミツコちゃんって、今いくつ?」

合コンも終盤に差し掛かり、適度なコミュニケーションも深まりだしたころ。

「彼氏いるの?」

「え、いえ…」

「え、じゃあさ、フリー?こんなに可愛いのにもったいないな。メアド教えてよ~」

「は、はぁ」

「カラオケいこ?」

「いえ、実家住まいなので、あまり遅くなるのは…」

「いいじゃん!家に電話しなよー」

ほろ酔いの男性が(自己紹介されたが、興味がなく名前も思い出せない)ミツコの肩を抱く。

「ミツコちゃん、仲良くしてー。はい、携帯だしてー」

にへらにへらと笑いながら、しつこく体を摺り寄せせる。

「いえ、えっと、ホントに携帯はちょっと今充電ないので…」


ガタン!

急にユウジが立ち上がった。

「どうしたんですかぁ?」

酒も入り上機嫌のサヨが、しなをつくってユウジに寄り掛かる。

「ごめん、俺、帰るわ」

「ユウジさん?どうしたんですか?」

堅い表情で、ユウジはミツコを見下ろす格好になっていた。

眉間にしわが寄っている。

「で、この子、お持ち帰りするからあとよろしく」

そう言い放つと、ユウジはミツコの腕を取って無理やり席を立たせた。

「えっ」

一瞬。

何が起こったのか理解するのに時間がかかった。

ユウジは、財布から無造作に札を数枚抜き取ってテーブルに置いた。

「じゃ。来週、会社で」

「ちょ、ちょっと!!」

ぐいぐい引きずられて行く最中、ミツコは片手で「ゴメン」とジェスチャーするだけで精いっぱいだった。




しばらく。

無言で歩くユウジについて行きながら、ミツコはなんだかこそばい気持ちになっていた。

たばこに火をつけるため、ユウジの手が離れる。

「合コン、なんで断らないのさ」

「だって、サヨの頼みだしさ…」

「サヨって、受付のキャバ嬢だろ?彼女の企画する合コンって、絶対ロクなことないだろ」

「キャバ嬢って…。ちょっと化粧が激しいだけじゃない…」

ミツコは、合コンに誘われた経緯を報告する。

ユウジは、同じ会社の先輩だった。付き合い始めて3か月。

社内恋愛なだけあって、まだ誰にも明かしていない秘密の恋人。

「ドタキャンしろよ」

「…付き合いってあるんだよ。女の子にも」

「彼氏いるって言えばいいのに」

「……もしかして、妬いてる??」

「ちげーわ、ばぁか」

言って、タバコの煙を吐き出すユウジ。

そんなしぐさもうれしくて、ミツコは「ふふ」と幸せな気分になる。

「ユウジだって、来たじゃない…」

「ふーん、上げ足とるなんていい度胸だな」

「ごめんね」

一応、謝って。

二人は今夜最初のキスをした。



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