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社内恋愛  作者: みねお涼
12/15

幼なじみの彼女



コネというのも、一種の才能である。



かえでが入社してきた時、世界の狭さを知ると同時にそう思った。


新人のういういしさはあるが、ほとんど無表情のかえでを見て

「サービス業ができるのか?」

と一抹の不安を抱いた。


まるで、兄か父親のように。




俺が勤める自動車販売店は、市内でも大型店にあたる。

展示車数も多いし、土日ともなれば家族連れやシニア世代がひっきりなしに訪れる。

中古車販売部門も併設しているので、それなりに従業員も多い。


そこに、新人として配属されてきたのがかえでだ。


同じ団地の同じ棟に住んでいることもあり、かえでが小さいときから知っている。

幼馴染というには年が5つも離れているが、母親同士も仲が良いので、他の団地の子供たちよりは親密かもしれない。

かえでが大学受験の時など、家庭教師をしていたくらいに。



しかし、かえでの父親が本社の部長とは知らなかった。


一見してサービス業向きでないかえでが入社できた経緯は、すぐうわさになった。

「大沢部長の娘さんだって。いまどきコネ使う学生っているのね……」

店舗事務を任されている澤井さんが、カタカタとキーボードをたたきながらそう言う。

今日の販売成績を報告書にまとめながら、「はぁ」と曖昧な返事を返す。

「家、近所なんでしょ?竹村くんも知ってたの?」

「いや、今朝普通にびびりましたけどね」

そうだ。

まったく知らなかったのだ。

知っていたら、車で送ってやったのに。

「……」

ちがう。

そういう話ではなく。

比較的無口な彼女が、サービス業でやっていけるかとことん不安でしかたない。




俺の心配に反して。

ひと月もたつとかえではアイドルになっていた。

「なぁ、竹村!かえでちゃんのあのツンデレさ加減たまらなくないか」

「は?」

興奮した同僚の市田が俺の肩を叩く。

「いつもはさー、ほとんど無口で滅多に笑いもしないのに、俺さっき微笑みかけられた!」

「……なんで」

「出張先の土産、渡したら!ちょっと照れた感じで『ありがとうございます』だって!」

「そら、礼くらい言うだろ」

「いやいやいや、あの微笑のギャップはたまらんだろ」


そんな感じで。

かえでのギャップとやらにニヤニヤする同僚が増え。

そこそこ見た目も可愛いからか、シニア世代のお客様にも気に入られている様子。


「……」


複雑だ。



「洋ちゃん?」

「うおお!?かえで!?な、なに!?」

ふいに呼ばれて心臓が飛び跳ねた。

新しい車のパンフレットを抱えたかえでが俺を呼んでいる。

「ごめんなさい、お店では竹村さんって呼ばないとね」

「いや、いいけど……何?どうした?」

どぎまぎした自分が情け無い。

「今夜、市田さんにごはん誘われたの。洋ちゃんもいかない?」

「……誘われたの、お前だけ?」

「うん。でも、誰か他のひとも一緒でいいって」

それはまさかいわゆるデートの誘いでは、と思わずに入られなかった。

だがしかし。

「わかった」

俺にはそう答えるのが当然のように思えた。


結局。

澤井さんも誘って4人で飲みに行くことになった。



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