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社内恋愛  作者: みねお涼
11/15

蜜の味:後編


隣に、人のぬくもりがある。


カーテンから差し込む薄い光が、まだ早朝であることを知らせる。

ほの暗い部屋の壁で、時計が正確に秒針を刻む。

6時少し前。

シングルベッドで2人で寝るのは少し窮屈だったからか、いつもより早めに目が覚めた。

ミカは隣に眠る相模の背中に顔を寄せた。

ぎゅ、っと後ろから抱きつく。

あたたかい。


そして、ふたたびまどろみの中へ。



2人してようやく目覚めたのは、10時を回った頃だった。



「おはよう」

「んー」

「今日、どっか行く?」

「いや、なんも考えてない。ミカはどこか行きたい?」

「せっかくの休みだから、一日中ごろごろしててもいいよ?」

「もったいないなー」

相模はそういって笑う。

「とりあえず、ご飯でも食べにいこうか?」

「うん」



運転は相模がしてくれた。

車を走らせ向かったのは、近所のファミレス。

土曜の昼間、家族連れも多いその店内で2人は軽くランチを食べた。

自分に関係のない雑踏は、なぜか心地よい。

適度な雑音が、それぞれの会話を邪魔することも無い。

「ねぇ、ミカ」

食後にコーヒーを飲みながら、相模が切り出した。

「昨日、部長に俺たちのこと話した」

「え?」

思いがけず、重大な事実を耳にして体がこわばる。

「なんで?」

「……俺、関西に転勤することになる」

やっぱりか、と、さらに緊張していく。

「それで?なにか関係あるの?」

「結婚しても仕事を辞めさせないという条件を提示された」

どういうことかサッパリわからない。

何を勝手に話を進めているのか。

結婚を考えてくれているという安堵と、相談をしてくれていないという不満。

複雑な心境がうずまく。

「それってどういうこと?」

「俺はお前と結婚する意志があって、それを会社にも認めてもらったってこと」

淡々と、相模はそう告げた。

「でも、会社辞めるなってことは別居?単身赴任を考えてるの?」

「社内結婚するのには、いろいろと根回しが必要だし、スケジュールもあるからあと1年はかかると思う」

「……」

「関西転勤の内示が出た時からいろいろ考えたんだけど、お前が仕事を辞めることもふくめ」

「勝手に考えないで、相談してよ」

表情もこわばっているのが自分でもわかった。

言葉を選べない。

「ただ、お前のキャリアを俺が勝手に切ることも出来ないな、と思って、先に上に相談した」

2人の問題なのに?


というか。


「ねぇ、もしかしてこれプロポーズじゃない?」


混乱する中、最も重要な事実に気付く。

「……そうだね?」

「仕事人間って、これだから情緒に欠けるのよ!」

「はぁ?最終的にそこが問題なわけ?」

相模から苦笑が漏れる。

真剣な表情から、困ったような、あきれたような。


「でも、俺と一緒に人生歩んでくれるわけでしょ?」


それは、間違いないけど。

「あたしどうしたらいいの?あたし、いつまでも上質な蜜でいられる自信ない」

「蜜?」

聞き返して、「ああ」と相模が納得する。

「俺はミカしかいらない」

「こんなファミレスでいう台詞?」

釈然としないが、耳の裏がこそばゆくなる。

「俺に蜜の味を覚えさせたのは、お前なんだから責任とってね」

「また勝手なこと言ってる……」

「関西で実績残して、本社に戻ってくるから」

「うまく行くかな?」

「遠距離が?それとも結婚が?」

「……どっちも。それに仕事も」

「とりあえず、1年考えて。俺は、大丈夫だと思うけど。ミカはもっと自分を信じて」

どこからそんな自信があふれてくるのか。

相模は、もっと上質な蜜があることを知らないのか。

どうやって自信を持てというのか。

相模が好きで、好きすぎて自信が持てない。


ごちゃごちゃしている。


でも。

ミカにとっても、それが甘い甘い蜜の味だと。

きっと、一人になったら実感するのだと。


心のどこかでは分かっているのだ。


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