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社内恋愛  作者: みねお涼
10/15

蜜の味:中編

自宅マンションの駐車場に、吸い込まれるかのように車を停めた。

うまく、バックで駐車できた。


自宅に相模を呼ぶのは、2回目だ。

ミカはふと、洗濯物を室内に干したままだったのを思い出す。

玄関前まで来て、

「ちょっと待っててください」

そう言って先に入ろうとしたが、

「いいよ」

ミカの逡巡を悟り、相模は苦笑しながらドアノブに手をかけ一緒に室内に入った。

「ただいまー」

相模が、誰もいない室内に声をかける。

おじゃまします、でないその自然な対応に、ミカの心臓が「きゅん」とときめく。

そのさりげなさが好きだ。


相模はコートを脱ぐと、ワンルームに設えられたソファに深々と腰を沈めた。

もちろん一人掛けのソファである。

ミカはテーブルの脇に足をくずして座った。

「土日、出張ってどこに行く予定だったの?」

「関西」

短く答え、相模はコーヒーを要望した。

ミカはキッチンに立ち、電気ケトルに水を入れた。

インスタントのコーヒーをカップに入れ、湯が沸くのを待つ。

「何か、食べる?」

「ん、何があるの?」

冷蔵庫を開けると、使いかけの野菜が少し。

「焼きそばくらいなら、すぐ出来るけど」

「ん、テキトーに」

「待っててね」

先にコーヒーを出し、再びキチンへもどる。

ざっと野菜を切って、中華麺を投入したしょうゆとソース味の、簡単な焼きそばを作る。

その間に、相模はテレビの電源を入れていた。

ちょうど放送していたビジネス番組を熱心に観ている。

テーブルに二人分の料理と缶ビールを出すと、相模がちょっとだけ嬉しそうな顔をした。

「何?」

「いやー、俺焼きそば好きなんだよね。さらに言うなら、焼きそばと一緒に飲むビールも好き」

「そ?よかった」

なんだか、ほんわかした気分になる。

しばらく、たわいのない話をしながら時間が過ぎた。


また、相模の携帯がメールの着信を知らせた。

社用携帯なので、会社絡みの知らせであることは明らかだ。

だが、相模はそれを一瞥しただけだった。

「いいの?」

「いい。ミカと一緒にいるときは仕事は排除」

その言葉を、単純に受け取る。

「お風呂は?」

「んー、先に入っていいよ。俺の着替え、あったっけ」

「出しとくね」

結婚後の生活がそこに見えるようで、うきうきしてしまう。


ミカが入浴を済ませ脱衣所に出ると、ぼそぼそと、会話している声が聞こえた。

相模が誰かと電話している。

思わず、身動きできなくなる。

「ええ、はい、はい…。それは先方次第ですけど。来週ですか?はい…」

仕事の話をしているようだ。

「わかりました。明日、こちらから大沢部長に確認します」

大沢は、人事部の部長の名前だ。

まさか、転勤か?

さあっと、ミカは体温が下がるのを感じた。

販路拡大のために、関西事務所を立ち上げる話は半年ほど前から聞いていた。

まさか…。

さっきは、仕事は排除と言ってたが、まだ、言い出せない何かがあるということだろうか。

電話が終わるのを見計らって、さも今風呂から上がったかのように浴室を出る。

「あがったよー」

顔をあげた相模と、視線が絡む。

そっと、相模が腕を広げた。

ミカは数歩進み、相模の体に背中を預ける。

首筋に唇が当てられた。

ちゅ、と湿った音が耳に届き、頬が紅潮する。

蜜の味の話を思い出し、心拍数が上がる。

寝巻の上から体を這う相模の手が、温かい。

「ミカ、好きだよ」

「知ってる…」

こそばゆい気分で、体をひねった。

唇を重ねる。


私は、蜜になれているのだろうか。


そんな疑問が、ミカの心をかすめる。

もし、相模が転勤になったら、自分はどうするだろう?

仕事を辞めて、ついていく?

それとも、相模が帰ってくるのを待つ?

不安が。

じわりと。

なぜ、何も言ってくれないの?


蜂は、もっとおいしい蜜に飛んで行ってしまうんじゃないの?


体を相模に預けながら、ミカの心は不思議な高揚感に包まれた。

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